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鏡の中には雪が降っている。
祖母が嫁入りの時に一緒に携えてきた、舶来品らしい凝った意匠の壁掛け鏡だ。
音もなく雪が降り、白一色の雪原に横たわるお下げ髪の少女と線の細い青年。
二人は静かな表情で黙って雪の降りしきる天を見凝めている。
お互いの手首はがっちりと赤い紐で絡められ結ばれている。
──結局のところ、二人の心中は未遂に終わった。
祖母の鏡には選ばなかった未来を見られる、という機能があったそうだ。
どういう経緯で祖母の所有となったのか不明だが、飾りぶちの磨耗が多くの人の手を経たことを想起させる。
祖母はその後すぐに遠方に嫁がされた。
最初の夫とは悶着の末に離縁され、次の夫がわたしの祖父に当たる。
祖母の心中相手だった青年は元々心臓の病を抱えていた。
彼の家は高額になる治療は望むべくもなく、祖母と引き離されてからは長くは生きなかったという。
祖母の後悔が強すぎたのか、それとも既に不思議な鏡の寿命だったのか。
本来なら別の未来の時が淡々と進んでいくのが見られるはずだったが鏡は時を止めた。
鏡の中の二人は誰にも発見されないまま、さらさらと二人の上に雪が降りしきり永遠に美しい時の中に取り残されている。




