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悪行してる場合じゃない!!  作者: ぽたく
恐怖は突然、そこに降り立つ
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足踏みしてる場合じゃない

コンコン、とイランの控えめなノックの音が部屋に広がる。

「入れ」

短く答える。

失礼します、と入室する。

その部屋はあらゆる書類が積まれ、多くある棚にはどれにも溢れるほどの本が並べられ圧迫感があった。

その中で唯一ある椅子にかけ筆を動かし続けている男が居た。


ほとぼとりも冷めてゆき、体調も回復したイランは、父親へ報告をしにやって来ていた。


書類仕事にやっていた目をイランへと向ける。

「体は……もう良いのか……?」

「はい、ご迷惑をおかけしました。」

「そうか……。」

いつもと変わらない淡白な受け答えをし、書類へと目を戻す。

こういう父親なのは理解していた為、特に何も感じなかった。


「…約束通り褒美を取らす。何か欲しいものはあるか?」



ーー立ち直れないのならそれまでだ、だが立ち直ることができたのであれば、褒美をとらそうーー



この言葉はエフィから伝えられていた。

そしてその内容はすでに決まっていた。

「ありがとうございます。一つだけお願いしたいことがあります。」

「ふむ、言ってみろ。」

実の父に何かをねだることがほとんど無かったイランは下を向いて顔見えてない父親に対し少しの緊張を覚える。

「タロンへの入隊をお願いしたく。」

筆の動きが止まり、こちらを伺う。

少し驚いた顔をしていた。

だがいつもの仏頂面に戻る。

「そうか、わかった。手続きしておこう。数日後に入隊になるだろう、準備しておくように。」

あまりにも呆気なく済んでしまった為、父親に対し呆けた顔を晒してしまう。

「他には?」

「あ、いえ、ありがとうございます。失礼します。」

去ろうとすると。

「待て、」

小さく引き止められる。

その事に少し驚いて振り向く。

「何でしょうか?」

「……」

「えっと……?」



「…無事で良かった。」



短く、素っ気ない、でもイランへの想いがこもった言葉だった。

「…ッ、し、失礼します。」

まさかの言葉に照れくさくなり逃げるように退出するのだった。


イランが志願したタロン特別教育機関。

一応は軍事学校とされているが本質はその名のとおり教育を主にした機関である。

正式に入隊できる年齢は基本15歳からだが10歳からでも可能。

その目的は貴族達が子供の性格の矯正や洗礼を一足早く教え込む為である。


だが入隊させる貴族は少ない。

理由は必要性等よりもその厳しさにあった。

あまりにも厳しい。

どれくらい厳しいかというと、実践訓練が殆どないにも関わらず入隊の際には、『死んでも文句言うなよ』と言った内容が書かれた書面を渡され、本人と親の血判を迫られる。

どのランクの貴族相手でも関係ない。

たとえ王族だろうが。

それほどの内容となっている。


一度入ればその期間家に帰ることは許されず寮での暮らしが絶対。

贅沢な暮らしから隔絶され、ただの下っぱとしてこき使われ訓練訓練訓練の日々を送る事になる。

10歳からの場合三ヶ月ごとに脱退を申請することが可能である。

子供の場合基本その三ヶ月で家に帰ってくる。


効果は絶大で、どんな世の中を舐め腐ったボンボンのクソガキでもたった三ヶ月で人間性が180度変わり、規定に厳しく畏まった態度をとる軍人のような仕上がりになって帰ってくる。


イランにとってはその全てが好都合だと考えた。

今の弱り切った精神を鍛え直し、且つ強くなるための修行も行える。

そう思い、入隊を決意したイランだが、実際に入隊書類が届き目を通していると決意が揺らぎ心が折れそうになったことは内緒にしている。


そうして心を奮い立たせ、準備を進めていると、ドタドタと騒がしい音が近づいてくる。


「「ぼっ!!!!!!ちゃん!!!!!」」


ばん!!!と強引に開かれた扉、その先には今回のことを聞き及んだクレアとエフィが必死の形相で部屋に押し寄せてきていた。


「うわぁっ!?なんだぁっ?!お、お前らノックはどうしーー

「どう言うことですかタロンへの入隊なんて!!何を考えていらっしゃるんですか!」

「聞きましたよ坊ちゃん!!タロンってところはすっっっっっっっごく辛くて大変な場所なんですよね!?!なんでそんなところへ!!!?」

「自分に厳しいところはご立派です!ですがそれとこれとは話が別です!説明を求めます!!!」

「せっかく治ったのにまたお心が病んでしまったらどうするんですか?!クレアは心配で心配で坊ちゃんが戻ってくるまで眠れなくなってしまいます!!」

「大体坊ちゃん!貴方はいつもいつも勝手が過ぎます!もう少し相談をしなさい!!いつもいつも心配ばかりかけて、今日という今日はお説教です!」

「またクレアの前からいなくなってしまうのですか?!言いましたよね!!ずっと一緒だって!着いて行きますから!!何が何だろうと侍女としてついて行きますからぁーーーーーーーっ!!!!!」


あの出来事からすっかりイランを甘やかすようになった2人。

どこから漏れたのか、大方聞き耳を立てていた使用人が流布したのだろう。

イランが変わる前ならそんな低俗なことをする輩は居なかった。

少し緩くしすぎたかもしれない、そのおかげで面倒な2人に知れ渡ってしまったものだ。


「聞いていますか坊ちゃん!!!」


イランはそんな2人のありがたいお説教と懇願を聞き流しながら上の空となっていた。


そしてその日はやってくる。


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