妬いてる場合じゃない
ルノちゃんをどすけべ女に仕立て上げて申し訳ございません。悔いはないです。
彼らは魔領化の進む洞穴がある『ティエント』という山の中を移動していた。
「普通の魔獣しか出てきませんね」
「昔来た時とあんま変わんねえや」
クレアとネプトを前衛にその森の中を進んでゆく。2人はこの森の経験者、故に、先陣を任されている。
「ルノ、何かあったらすぐに教えてくれ」
彼女の中で、一つの記憶が一瞬投影される。
––––…ッ?!ルノッ!来るなッ!––––
「……はっ、…はっ、……」
––––ノ?…ルノ?」
「…へっ?」
「大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫!…ま、任せて…!」
流石にギルドの職員がいる前で『るーちゃん』呼びは出来ないイラン。
ルノも流石に公私混同は頭では理解している。
「ルノ、足元気をつけなさいよ」
「あ、ありがと…ウルカちゃん」
「……はぁ、はぁ、」
やる気に満ち満ちとして、若干浮き足立っているルノを、ウルカとファムナームが警護する形で張り付いているが……ファムナームの体力は既に底をつきそうだ。
『うるか、だっこ』というファムナームに『あんたはもう少し頑張んなさい』と後ろでワーワー騒いでいる。
(緊張感が足りんな)
そう思いながらも今のところ特に脅威となる魔獣は居ない為、ついついそれを許してしまう。
そもそもルノの感知範囲は異常だ。
こちらへ向かう魔獣がいれば、会敵する前に先制攻撃で討伐してしまっている。
「今のところ目立った変化はございませんね」
「方向はこちらで合っているな?ナテマ調査官」
『えぇ、合っていますよ』そう言いながら周りを見渡し歩を進めてゆく。
「ところでイラン様……貴方はとても高潔ですね」
いきなりのよくわからない褒め言葉をイランへと投げかけるナテマ。
「意味がわからんな。初対面の貴女が、一体俺の何を知っているというのだ」
「知っておりますとも……あの日からずーっと…ね」
その表情は実に妖艶で神秘的だった。その怪しさに一瞬心惹かれそうになる。どういうことかと問いかけようするが……
「見えてきましたよ!」
彼女への詮索を阻むように実にタイミングよく到着してしまった。
**
目的地の洞窟。その中に入ると、かすかに甘い匂いが漂う。瘴気の匂いだ。
『クレア、ネプト。俺が前に行く』と瘴気に耐性のあるイランが先頭に立ち始める。
ネプトに風でできた防壁を周りに発生させ瘴気を振り払いながら進んで行く。
先ほどとは違いそれぞれに緊張感が走り警戒が強くなる。口数も減り神経が鋭く尖る。
だがそれは徐々に溶け出す。
この洞穴は悪魔の胃袋。
瘴気という胃液で皮から少しずつ意識を溶かされている。そのことに誰も気付けない。
「魔獣は出てこないな…ルノ、何か感じるか?」
「…………」
「……ルノ?」
「……ねぇ〜いらん〜」
「…っ、な、なんだウルカ…ッ?!」
ウルカが急にイランの背へと抱きつき始める。
「お、おい!お前何を…ッ?!こんな状況で––––
「ん〜〜」
今度はファムナームが前から甘えるように抱きつき始める。
前後から2人の体が絡み付いてくる。
「ねぇ〜えぇ〜。いらんはさぁ?うるかのこと、好きなんだよね?けっこんするんだよね?」
「……んぎゅぎゅ」
状況を鑑みないそのふざけた行動に、流石のイランにも苛立ちが見え始める。
「お前達……いい加減に……ッ!」
そこで思い留まる。何かがおかしい。こんなことをこんな状況でこの2人がするはずない。
そして普段ならそんな簡単なことに気付くのに少しの時間もかからない。
自分の判断力も鈍っている。
思考が溶けている
「や、やだやだやだ!怒らないで!あやまるから!うるかいい子にするから!」
「……おこっちゃ、や」
おかしい何かがおかしい。こんな状況にも関わらずイランの危機感知に何も反応がない。
「クレア!ネプト!すぐに撤退を……ッ?!」
叫び声と共に彼らの方へと振り返る。
だが、2人がいない。いや、3人だ。あの調査官も居なくなっている。姿を消している。
(馬鹿なッ?!ルノの感知を潜り抜け俺たちに気付かれずにあの3人を…?!)
「ルノ!今すぐ3人を……」
「二人ともぉ…いーくん困らせちゃぁ、だめだよぉ」
「…やだやだや––––ぁっ」
「…ぅっ」
その声と共に、イランは二人の少女から解放される。
「何をした…?ルノ…?」
ルノが二人に施したのは《吸収魔術》闇属性のみが使える魔力吸収の魔術。
……味方に向けていい魔術ではない。
「ねぇ、いーくん。なんで……」
「ルノ、答えろ」
光を閉ざすその洞窟の中では、彼女の暗い瞳はイランからは見えない。
髪の黒がその怪しい陰りと同化し輪郭が溶ける。
気づけば彼女の顔がイランの目の前にあった。
その目はただただ沈むように黒く染まっていた。
彼女の中のにある堰き止めていたものが、心の中で既に溢れかえっていた。
「…ッ?!なにを…ッ!」
彼女は彼を押し倒す。その感情のまま彼に縋るように抑えつける。
「ねぇ、いーくん。な、なな、なんで、なんで、みんなと、な、仲良くするの?あの三人が、す、す、好きなの?私より?ね、ねぇなんで?なんでなんでなんでなんでッ?わ、私が1番最初だったよね?私のことす、す、すす、好きだったよね?私がい、1番なんだよね?だって、だってだって、私ならな、な、なんでもしてあげれるんだよ?」
不測の事態、だが思考を止まらせてはいけない。彼はすぐに抵抗を試みる。
「……ッ!」
(力が強い…ッ!《強化魔術》。吸い取った二人の魔力を使ってるのかッ?!)
だが普段強化魔術など使わないルノが、急激に多大な魔力を身体能力に回せば身体の方がもたない。
だが彼女は止まらない。
「なんでも許してあげる。なんでも受け入れてあげる。なんでも与えてあげる。…守ってあげる。助けてあげる。支えてあげる。尽くしてあげる。傅いてあげる。甘やかしてあげる。撫でてあげる。抱きしめてあげる。キスも愛撫も口淫も性交も私の初めても、体も心も尊厳も権利も全部を捧げてあげる。汚すことも犯すことも辱めることも、イランくんのなら全部受け入れてあげる。無茶苦茶にしてくれていい、無茶苦茶にしてほしい。全部全部、私の全部をあげる。全部愛してあげる。だから私を愛して私だけを、私だけを満たして、支配して」
イランを抑えつけ、自らの身体を少しずつ壊しながらも、彼女は心に溢れたそれを口から吐き出し続ける。
「あ、あの時だって、クレアさんが捕まった時だって。いーくん、こ、こまるって、い、い、嫌な気持ちになるって知ってるから、お、教えたのに……。あ、あ、あんな顔、あんな顔して!言ってほしくなかったッ!行って欲しくなかったッ!私以外のために……あんな必死な顔して欲しくなかった…ッ!で、ででもいーくんが辛そうだから、苦しくなるの知ってるから…ッ!だから教えたの、だ、だ、だから行かせたの。ほ、ほんとは、他の人に任せて欲しかった…!」
「……ぐっ…ぅう……ッ」
だが総合的な膂力はイランの方が上だ。力の調整を終え、抵抗を始める。
(少し手荒になるが、許してくれ…ッ!)
「ねぇ、みんなのどこが良いの?見た目?性格??クレアさんの大きな胸?ファムナさんの柔らかそうな頬?ウルカさんのすらっとした身体?ネプトくんの優しい態度?」
「ル……ノ––––んぐっ?!」
だがそれを彼女は許さない。
ルノの紅い唇が、イランの唇を塞ぐ。
イランは一瞬、何が起こっているのかわからなかった。その鈍くなった彼の思考を、口内の快楽がさらに蹂躙していく。
イランの口の中で、生暖かく柔らかいものが自分の舌に絡みつく。彼女はイランの口内を快楽で貪り続ける。水音を頭蓋の中で反響させながら、呼吸など差し置いてその液と欲を、相手の口と自分の口で行き来させる。
口から出る音は吐息と水音。まともに声すら発せず苦しくむせ返るような快感に溺れてゆく。
自分の気持ちを、欲を、望みを、彼の体へ送り込むように唇を合わせ続ける。
イランは初めての快楽に頭が痺れ、何も考えられなくなる。
「……ハァ…ハァ……」
「…はっ、…はっ、……」
彼と彼女の口を繋ぐ、糸を引いたそれがプツンと途切れる。
「い、い、い、い、いーくんが、イランくんが好きなの、す、好き…好き好き好き好き好き。大好きなの。欲しいの。ぜ、全部欲しいの。イラン君だけなの。私にはイラン君しかいないの。ね、ねぇ、す、すす、好きって言ってよ、あ、あ、愛してるって、ルノだけだよって、ずっとずっと二人で一緒にいようって、ほ、他の全部いらない、ルノだけだって言––––」
彼女の手は、彼の下へと伸びて行き––––
固まった。
様子を急変させた彼女は、何かを思い出したかのように動き止め、錯乱し始める。
「ハッ、ハッ、ハッ、ち、違う、違う違う違う!こ…こんなことしたかったわけじゃ……ご、ごめん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。こ、こ、こ、こんな、いーくんを…みんなを…き、傷つける気なんて、みんなに、ひ、ひどいこと、、ひっ、ひっ、ご、ごめんごめんなさいごめんなさいごめ––––」
「ルノッ!?」
彼女の意識はそこで途切れた。
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