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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
人を試み人を誑す。人を練り人を還す
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請け負ってる場合じゃない


大きな建物。

その大きな扉の向こうからは賑わったざわめき声が響いてくる。行き来するのは使い古した潤沢な装備をした者達。


その音と光景が賑わいを伝えてくる。


「ここが『オルクーン』のギルドか…」



『オルクーン』

『王国レヴォラーク』と『聖法国ノーヴァテオラ』の境目あたりに位置する街。

商業と貿易が盛んで、大きな馬車や様々な店舗が立ち並んでいる。人も多く柄の悪そうな男やあまり見た事ない風貌をした人々が目に入る。

良くも悪くも賑わいのある街。


ゼイブルが管轄している街とは雰囲気が全く違う。そしてそれは目の前に佇むこのギルドも一緒だ。



「ねぇイラン!早速入りましょうよ!」

「……ぅぷっ」

ウルカはワクワクと瞳を輝かせており、逆にファムナームは人混みに酔っていた。

イランの腕を掴みながら危うい動作を見せているのでイランは内心気が気でない。


『わぁ〜』と目を輝かせる無防備なルノの手をしっかり握り、後ろの2人に話しかける。

「クレアとネプトはルノの近くにいてやってくれ」

「了解!」

「かしこまりました!」


返事をするクレアとネプトを確認した後、イラン達はギルドの扉を叩いた。




**




中に入ると、そこには多くの魔獣狩(ハンター)らしき人達でひしめき合っていた。


皆それぞれ目をギラギラとさせており、その瞳には野望や名声、富といった欲望が渦巻いている。

別の区画ではテーブル席が何台も設置されておりそこで昼間にも関わらず酒を煽り仲間たちと愉快な声をあげている者たちが散見する。



それらには目もくれずイランたちは受付へと向かう。

「ギルドの登録と指名された依頼を受けに来た。これを頼む」

そう言いあの気に食わない男から渡された書類とヘレンからの紹介状の様なものを受付の担当の者へと渡す。


書類を瞥見した女性。

「承知いたしました。少々お待ちください」

そう言い、奥の方へと確認をしにいった。




手続きの完了を待っていると、1人の大男が声をかけてくる。

「よう坊主、あんま見ねえ顔だな。ここは初めてか?」

「……なんだ貴様」

苛立ちのこもった目で睨み付けるイラン。


「ガキのくせにいい女を随分と侍らせてんじゃねえか」

「俺は貴様ら低俗と違い色遊びでここに来ているわけではない。失せろ愚物。」


その男は揶揄いの笑みを浮かべる。

「お〜怖い怖い。僕ちゃん怒っちゃったのかなぁ?」

テーブル席の方から下品な笑いが聞こえてくる。どうやらこの大男の仲間の様だ。



「ガキには勿体ねえからよぉ、俺た––––


その瞬間男の身体が地面に叩きつけれる。


「ぐぉおおっ?!なんだこれはっ?!」

男は気づいていない。

自分の周りに金属製の武器や、装飾が彼の方へその矛先を向けて待機している事を。


「見て見てー!イラン!成功よ!」

その出来栄え(光景)にウルカははしゃいでいる。



「……ウルカ、お前がやったのか?」

「えぇ、そうよ?凄いでしょ!魔力をね、放電を介さず直接磁力に変換する練習をしてたの!それをこの男と周りの金属品と床に纏わせて見たの!磁気による引力と斥力!調整できるようになってきたの!便利でしょっ!」


「………お前、どうやってこんな事できるようになったんだ?」

「…?出来ないことを出来るようにするには、努力と練習と反復しかないわよ?」

「………さすが天才だな」



下で喚いている男を無視して『そうでしょうそうでしょう』と言いながらんふんふと笑っているウルカ。

イランのよくない振る舞いを習ってしまっているのか、敵と認識した相手にどんどん遠慮がなくなっていってる。




魔力の変化、変質。到底真似できないその圧倒的な技術にイランはただただ圧倒されていた。


イランも色々試してはいるがなかなか上手くいっていない。ただの形状の変化や操作とはまた訳が違う。



そんなことを考えていると、少しの冷気と騒がしい声が届いてくる。どうやらこの大男の仲間たちが座っていたテーブルからだ。


男たちの足元が氷漬けにされており移動を阻害していた。何やらワーワーギャーギャーと騒いでいるが、5〜6人の声が混ざ合わさり何を言っているのかイラン達には聞き取れない。


どうやら大男への仕打ちを見て、こちらへ押しかけようとしていたらしい。



「ファムナ、助かるよ」

「………」

「おい、どこへ行く」



ファムナームは顔色を悪くさせたままその男達の元へと向かう。


『なんだテメェ』だの『舐めんじゃねぇ』だのといった言葉が罵声と共にファムナームへと降りかかる。

だがファムナームはそれどころではないのだ。彼女の具合の悪さは限界に達した。


「ぅぇぷっ、ぅぉえぇげろげろげろげろげろげろ」



その男達の先程の威勢は消え失せ、喉から阿鼻叫喚があがる。

綺麗な顔立ちをした小さな少女の口から放たれた吐瀉物が男達の衣服へと飛び散り、その度に悲鳴があがる。



気分の悪さから解放されたファムナームは『掃除しといて』と、自分の粗相をその男達になすりつけイランの元へと戻る。

イラン含め、皆ドン引きである。


「……お前、もう少し……他にやり方がなかったのか?」

「……すっきり」



こう言う場で舐められてはいけない。故に何かしらの対策を立てるのはわかる。だがこのやり方はあまりにも……だ。


だがこれも完全な天然からくる行動ではない。

ファムナームはクレアとネプトの様子を横目で確認する。

男が絡んできた時の2人の瞳。あの決闘の時のイランとよく似た瞳の色。

その黒が今の突飛な行動のおかげで薄れた。



ウルカがファムナームに小声で声をかける。

「あんたやるじゃない。このまま私たちでつゆ払いするわよ」

「……おけ」

今の行動をファインプレーとするにはあまりにも品が無さすぎる。それでもまだ2人に手を出させるよりマシだ。


栓が緩んだ今のクレアとネプトに任せれば確実に血が流れる。

やらなければいけない時があるのはわかる。だが無駄に血を流す必要などない。だが言葉で言ったところで止まる2人ではない。



ルノが、『大丈夫?』とファムナームの口をハンカチで拭う。

『むぅおぅ』とファムナームはされるがままに声を漏らす。

可愛らしい刺繍のついた安くはないであろうハンカチで、当たり前のように吐瀉物を吐いた後の口を拭く。


その一連を見てイランは『やはりルノは天使』と心に強く思う。




そんなことをしているうちに先程の受付が戻る。だがその様子は先ほどと一変し、何やら怯えのような申し訳のないような、緊張を表した態度になっていた。



「し、失礼いたしました。イラン・オルギアス様。ほ、他の方々も……」


その名に周りの人間達が反応しどよめきが起こる。

「オルギアス?公爵家か?」

「イランつったらあのとんでもねぇ暴君だって噂が……」

「いや、そんな昔の話じゃねぇ!もっと最近の…確か……」



『竜を狩った』そう誰かが呟いた瞬間噂をしていた魔獣狩(ハンター)達の思考が一瞬堰き止められ––––



大きな歓声と共にすぐに溢れ出した。

吾先にとパーティの勧誘へと動き出そうとするが、その時にはもうギルドの受付に案内された個室へと向かって行ったのだった。




**




イラン達が案内された先は、先程のギルドの内装とは違い貴族が使用していそうな上品な内装の部屋だった。


人数分の席が用意されている。だがクレアとネプトはイランのすぐ後ろで立っていた。



「随分なVIP待遇じゃないか…」

「失礼致しました。依頼の為に指名された王立魔獣学園の生徒が来るとは聞かされていたのですが……まさか、竜狩(ゲオルギオス)の称号を持つイラン様、ウルカ様、ファムナーム様が来られるとは……それに….後ろのお二方も….」


彼女の視線の先にいる2人へと軽く振り返りながら問いかける。

「なんだ、お前達ここの人間と面識があったのか?」

「たまに、タロン宛に依頼が来るんです。その時に……」

この職員の対応を見るところ、それなりの評価をされているらしい。


「なるほど……少し羨ましいな」

「え?」

「いや、なんでもない」

「きょ、興味があるならぜひうちのギルドの専属になっていただきたいです!」

「……聞こえているじゃないか」



『すまないがこちらもやることがある』そう断りを入れて本題に入る。


内容はネヒィリムに聞いてたものと同じ。とある洞窟の調査。

どこまで瘴気が広がっているか、生息する魔獣への影響はどうか、人体への影響は、どれほどの濃度か、そう言ったことを含めて調査をする。


だがこれはあくまで調査だ。『瘴気が発生している為、危険があれば即座に撤退すること』

そう、念を強く押された。



––––––それと……ルノさんなのですが……」

「……そう、ですよね」


ルノは《感知魔術ディテクション》や《治療魔術セピュア》でこそ類稀なる才能を持っているが、戦闘能力自体は基本ほぼ皆無。

連れていくのはギルドの職員としても推奨しかねる。





––––––〔Ο Θεός μας δίνει μόνο δυσκολίες που μπορούμε να ξεπεράσουμε〕––––––



………()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()のに2人を庇いながらになると難易度は跳ね上がるだろう。


だが、()()イランにはルノを連れて行かないという選択肢はない。





『行ってはだめ』


何が聞こえた気がした。だがすぐに記憶ごと消え去った。




「彼女は俺たちにとっての生命線だ。回復役(ヒーラー)であり、索敵役センサーだ。彼女がいるのとそうでないのとでは達成率が全然違う」

「いーくん…」

『彼が自分を頼りにしてくれている』それだけで彼女の心は暖かくなる。


()()()調()()()も構わんだろ?貴女の身の安全は必ず保証しよう」

「はい!()()は大丈夫です!是非よろしくお願いします」

「承知いたしました。それではルノ様の同行も許可いたします」



他の皆にも確認をし、それぞれがその士気を表すように強く返事をする。





彼らは目的地へ赴く為の準備を始めた。


拝読ありがとうございます。


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