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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
人を試み人を誑す。人を練り人を還す
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憧れてる場合じゃない④

ソル家の話多くない?って自分でも思います。


ファムナームの話を増やそうと思いました。


思いもよらないウルカの登場にヘレンは焦りを見せる。

無事だったことには安堵した。だがそれはすぐ別の不安へと様変わりする。あの男の前に出てきて欲しくはなかった。逃げていて欲しかった。


「ウルカ……ッ!今すぐ逃げるんだッ!お前じゃあいつには––––


「勝てるッ!お姉様が認めてくれたの…ッ!あたしのこと天才だって…ッ!ヘレン姉様を超えられるってッ!」


「ダメだッ!あいつには電撃魔術は効かないッ!」



「あひゃひゃぁあ。デザートが自分からやぁってきたぁ」

体から焦げた匂いを発しながら、その男は体をピクピクと震わせる。

それでもなおその顔は未だ愉悦に満たされている。

まるで何も効いていないとでも言うように彼の表情は崩れない。



「あんた……さっきはよくもやってくれわね。百万倍にして返してあげるから…ッ!」


まぐれ当たり(ラッキーパンチ)が随分と嬉しいぃ、みたぁいだぁね?それがいつまで続くか……試してみるといぃ」

あくまで余裕を見せながら彼は語りかける。当然だ。彼の中ではもう勝敗がついていた。電撃は自分には届かない。姿を現した彼女相手にもう油断などしない。仮に電撃を食らっても、生命活動を停止してる体ゆえに()()()()()、ない



だが、だからこそ。

ゆえに気付けない。自分の体がどうなっているかなど

自分の身体の中で何が渦巻いているかなど。



「はっ!習わなかったの?油断大敵って言葉を…ッ!……あたしの準備はもう済んでるの……ッ!」


『お姉様見ててね』ヘレンを背に、彼女はそう呟いた。

「ウルカ…ッ?!」

ヘレンが手を伸ばした先にあるその背中は、もうヘレンの知る子供の背中ではなかった。

大きく……立派になった強い背中だ。



「……は?」

『準備は済んでる』その言葉に彼は混乱する。何を意図しての言葉か分からず、迂闊にもまたウルカに先手を譲ってしまう。



ヨルフェンの疑問など意にも介さず、彼女は第一指を天空へと高らかにあげ……




「跪けェエッッ!!」




……その咆哮と共に振り下ろした。



その瞬間、彼の身体は地面へと勢いよく叩きつけられた。

「…ッッ!?なんだァアッ?!こぉれぇわぁああぁッッ!?」


ヨルフェンはすぐさま抵抗する。《強化魔術》をかけ魔力を身体能力へと変換し、抵抗を試みる。

だが、びくともしない。

ひたすら体が地面に吸い付き、立ち上がるのを阻止する。みっともなくウルカの前で地べたを這う。それはまるで罪を背負い許しを乞う亡者の姿。


まるで重力が何倍にも膨れ上がってるかのように彼の四肢は地面から離れない。



否、それは重力などではなく……引力だった。

異なる極により発生する磁力の引力。



ヨルフェンへと放たれた電撃。

着地した際に地へと放った電撃。



ウルカはそれらを磁力に変換し、その男を見えない磁力の楔で地面へと縛り付けている。

磁力へと変換されたそのエネルギーはいくら真空を作ったところで何も変わらない。彼の体内で磁力を発し続ける。

その力の塊からは逃れられない。


ウルカは魔力の変換技術、変換率だけで言えば………既にヘレンを超えていた。



「こぉおおおんなぁものぉおおおぁッッ!」



叫びながら抵抗する男に対し、ウルカはもう既に構えていた。


第一指と二指を束ね、その男へと向ける。

その姿を捉えた男はひれ伏しながら嘲笑う。


「は、はははぁ、まさか《エレク・ボルグ》かぁ?!それは時間がかかるんだろぉ?!それまでぇぇッ、俺を縛って置けるとでもぉおおッ!?」

彼の心情を表すかのように、風に激しさが伴ってゆく。空気が肌を打ち付けるように強く吹き荒れる。



だが彼女はそんなことで怯みはしない。

彼女瞳はもう勝利を見据えている。


「言ったでしょ、準備はもう整ってるって。それ(レールと矛)はもう置いてきてたッ!」


その瞬間、やっと彼は気付く。

ウルカの数百メートル後方に、魔力から変換された二つの力場の塊があることを。



「ま、ま、まさかぁぁあッ!?お前ェエエェェエッッ!?」


彼の絶叫を無視して彼女は続ける。





『一つ、情報』

「あんたはお姉様しか見てなかった……あたしのことも、あの子のことも最初から眼中に入れてなかった……ッ!」


––––あの小屋を出ていく前にイランから渡された黒鉄の槍。

それに込められた大量の魔力が電気へと変化され、後方で既に斥力を生み出している。

バチバチと音を立てながら、宙へ対空している。その鋒は、はるか先にいるウルカの指の指す方へ



「ふざけるなァアッ!そんなの聞いていないッ!そんなの知らなァァアイィっ!」





『二つ、準備』

「あんたははあたしの魔力に気付かなかったッ!自分の準備は万端だと慢心したッッ!」


––––左手を前に差し出し、右手でその手首を掴む。第一指と二指を束ね、狙いを覚ますように先へと伸ばす。

大量の電流を蓄えた黒槍がその指に従い狙いを定めるように向きを調整している



「お、お前みたいなやつにぃッ!?お前程度にこの俺がァアァアッ!?」





『三つ、危機察知』

「あんたは油断して私の一撃を受けた。あたしのことを舐めてたッ!……あんたは、あたしの持つ矛を侮ったッッ!」


––––圧縮された魔力を元に発生させた強力な磁界のレールが2本、その男へと引き延ばされている。



「ふざけるなふざけるなふざけるなァァアッ!た、たかがあの一発ごときでェエエェッ!?そんなことあってまるかァアッ?!お、お前はただの餌だろうが…ッ!デザートだろうがァアァアアァアァッ!」





「あたしはあんたを舐めなかった。あたしはあんたの対策をした」


––––狙うは、『大切』に手を出したその男。




「けど、だからこそッ!あたしはあんたを脅威と認めないッッ!」


––––貫くは死体。




「あんたなんか……お姉様の脅威たり得ないッッ!このあたしにすら敵わないんだからッ!」


––––穿つは……その魂。



「あたし達の前から……消え失せろォオオッッ!」


「ふざけるなよこのクソガキがァアァアアァアァッッ!?」



「《エレク……ボルグ》ゥゥウッッ!」



そう彼女が叫んだ瞬間には既に終わっていた。

その男の憤怒の咆哮は爆音と衝撃波で一瞬で掻き消された。



残ったのは抉れた地面と空気の圧迫により折れた木々。


あの男の身体は衝撃に耐えきれず爆散し、見る影もなかった




**




「……ハァッ、ハァッ、」

「ウルカ…ッ」


息を切らし、肩を動かしながら洗い呼吸をするその姿。

強大な敵を打ち破ったその姿。


ウルカの勇姿。


その一部始終を見ていたヘレンは身体が動かなかった。驚き故か、感動故か、安堵故か……それとも、罪悪感故か。



そんな彼女の元へ一歩ずつ進み、ウルカはヘレンの胸に頭を預ける。

「……あっ、」


自分に抱きついてくるその『大切』に、どう接していいか分からず少し身体を震わせることしかできなかった。



ウルカは視線を合わさないまま続ける。

「……お姉様、見てた?」

「……」


「…あたし、強くなったでしょ?」

「……」



「お姉様に、追いつくために、たくさん勉強して、たくさん練習もして……頑張ったの」

「……ウルカ、私はもうお前とは––––


ヘレンが心の中で決めた何かを言おうとし、それをウルカが遮る。


「でももうこれからは『憧れ』るだけのあたしは……やめる。あたしもお姉様を守る。お姉様があたしにそうしてくれたように。あたしもお姉様を守れるよう……強くなるの」


「あたしは、お姉様を超える『天才』だから。もっともっと強くなって、お姉様を助ける。そして……そして今度こそ…ッ!……ちゃんと笑ってもらうの…」



いつの間にかこちらを見つめていたウルカの瞳が目に入る。



あの時と変わらず、キラキラと輝く大きな瞳。その中に映された自分と目が合う。


その姿はボロボロで、情けなくて、『大切』すら自分の手で守れなかった。


でも違った。その赤子だった彼女はもう自分が思ったよりも大きくなっていた。

守られてばかりの存在では……もうなかった。


ヘレンは無意識にウルカ頬へと指を伸ばす。


すると彼女の大きくなった手で、優しく上から包み込まれる。

傷だらけで、努力の証を携えた‥‥本当に大きくなった手のひら。


土と打撲で汚れたドロドロの頬。

女神のように優しく微笑むその顔。その全てに目を奪われる。


––––気が付けば、彼女を映す瞳から自然と涙が溢れた。



瞳の中でキラキラ輝く光と共に映る自分の顔。

それは瞳の中にたまった涙で輪郭を揺れ動かした。



自分のなりたかった姿に向けてただ走ってきた。この小さかった少女の抱く『憧れ』に見合うように。



––––だが、その大きくなった少女にとって、そんなものとっくの昔に…



……いや、初めからだ。

ウルカ(大切)にとってのヘレンは、初めて見た時からずっとずっと、『英雄ヒーロー』そのものだった。


わたくし、恥ずかしながら有名なレールガンさんの話を見たことがなく、もし似たようなことをしていたとしたら申し訳なく思います。今度見てみようと思います。



ただこれだけは正直に言います。バラライカの姉御の「跪け」シーンはめちゃくちゃ大好きです。

初め思いついた時のセリフは「ひれ伏せ」でしたが、どうしてもこっちにしたくなりました。


雰囲気やシチュエーションはそこまで被ってないと思うのでお許しいただきたい。



拝読ありがとうございます。


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