プロローグ イランの平穏?な日常
ついに三章まで行けました。
日に日にPV?数も増えていてとてもニヤニヤした顔で見ています。
感謝感激雨吹雪です。
まだまだ頑張ろうと思います。
評価などお待ちしております。
「イラン……あたしだけど……入っていい……、よね?」
いつもの勢いはなく、しょぼくれた声でウルカはイランの部屋へと訪ねる。しょんぼりしてても返事を待たないのは変わらない。これはウルカの悪い癖だ。
知り合ってまだそんなに経っていないが、イランはすでに慣れてきたのか特に言及しなくなった。
彼女が訪ねてくればすぐに自室の鍵を開けるのだが………
この日はそうも行かなかった。
扉の向こうから、いつもとは違う男性の声が返ってくる。
『お名前をどうぞ』
それに少し戸惑いながらも返事をする。
「……へ?あ、あたしよ!わかるでしょ?て言うかあんたこそた誰よ!……なんか聞いたことある声ね」
『名乗らないのであれば結構です。お引き取り下さい』
「あーもうっ!ウルカ!ウルカ・ソルよっ!」
『……承りました。少々お待ちください』
「…………」
『……が……との……す……なさ……す…?』
その後、向こう側から何やら話声が聞こえてくる。少ししてからこちらへと足音が近づく。
がチャッ、と扉が開く。するとそこにはイランの付き添いの一人、ネプトが立っていた。
「どうぞ、イラン様がお待ちです。」
(なんか前と雰囲気違うわね……?)
そんなことを考えながら案内されたその先には………
「……うわぁッ?!イランが悪徳領主でもやらなさそうな女の侍らせ方してるっっ?!」
その光景はウルカにとっては壮絶だった。
「ご主人様、これも美味しいですよ。はい、あ〜ん」
大きく開けた足。その右太ももの上にはクレアが座っており、何やら一口大に切ったフルーツをイランの口へと給餌している。
イランはそれを、虚空を眺めながら口を開け、されるがままに食している。
「……んぁむぁむ」
前にはファムナームと思われる女性の後ろ姿があり、イランの上半身のほとんどを覆い隠している。体を向かい合わせ、これでもかと密着させながらしがみついている。何やら首元を食んでいるようにも見える。
「スーーッ…ハァ……ハァ…んへ、んへへへ」
後ろからはルノがイランの頬を手で覆っている。フルーツを食すたびに動く頬を堪指で能しながら優しく包み込み、ムニムニと遊ぶように触っていた。イランの後頭部に顔を埋めて何やら恍惚な表情を浮かべでいる。
案内を終えたネプトは、そこが定位置と言わんばかりにイランの左側に戻る。こちらへ振り返ると、鋭い視線を向け畏まった立ち姿で佇む。
「ねふと……客人にふぃふ礼あぞ」
この中で一番まともな対振る舞いをしているネプトが責められるのはおかしな話ではある。だが彼らにはこれがもう通常と化していた。
「……失礼しました」
イランに指摘され、いつもの優しい表情に戻る。だが、どこか意思の固さを感じる、そんな眼だ。
「あんた……何やってんの…?」
呆れたようにウルカが問う。
「見てわからんか?……療養中だ」
「体はどこも問題ないって言ってなかった?」
「………」
「ウルカさん」
クレアが助け舟を出すように割って入る。
「ご主人様は見ての通りお忙しいんです。要件があるのなら手短にどうぞ」
「……まぁ、忙しそうと言われれば、それはそうかも知んないけど……」
あまり、いや、かなり納得いっていない。おかしいのは確実にイラン達なのに、ここでは自分がおかしい側なのか?と混乱してくる。
混乱したまま、彼女は言葉を発してしまう。
「……で、あたしは空いてる太ももんとこ行けばいいわけ?」
「……勘弁してくれ」
イランはもう考えることをやめていた。
その後ネプトに用があるプレムが訪ねてきた。
最後以外のウルカと似たようなやり取りを交わした。
**
あの一件が終わった後、また忙しい日々が暫く続いた。
魔炎竜討伐の勲章として王から誉を下賜された。竜狩の称号を賜った。
『流石はオルギアスその名を見事体現してみせた。誠、大義であった』
だが王の言葉よりも『流石は私の息子だ』という父の言葉の方が胸が熱くなったのは、心に秘めたままだ。
そして、クレアとネプトには『約束』通り一つ言うことを聞くと言う旨を伝えた。
「な、なんでですかっ?!そもそも試験は中止に……」
「そうだよ、それに俺たちは……イランを助けに行けなかった。イランが大変な目にあってる時に……俺たちはみっともなく気を失ってた…っ!なのに…っっ!」
「勝負の内容はどちらが多くポイントを稼げるか、だ。俺のチームは魔石なんぞとっくに破壊されていた。だからお前達の勝ちだよ」
「でも……だってそれは…」
納得できない二人に対し、イランは優しく呟く。
「俺がお前達に何かしてやりたいんだよ……」
再会を終えてから、いつも自分に対しどこか遠慮のある二人にイランは少し寂しさを覚えていた。
イランは他人に対して警戒心が高く心を許すことは滅多にない。そんな彼にとって身内とも言えるネプトとクレアにはどうしても子供のような甘えが見え隠れしてしまう。
16歳。年相応の甘えが、出てしまうのだ。
そして帰ってきた答えは……
「それでは……その、ご主人様にもっとご、ご奉仕させて頂けませんか?」
『ご奉仕』健全な男子なら少し邪なことを考えてしまうかもしれないが、相手はイラン。
魔領の森で過激な幼少期を過ごし、そのあとは学園生活で勉学の遅れを取り戻しながらも日々鍛錬の日々。
そんな事に頭を割いている暇はなかった。
もちろんそれなりに年頃なのだ。自分の欲の発散方法は知っている。
だが……それ以外知らない。禁書だの、夜の店だの、そういう行為だのは全く知らない。
遅れてるのは性知識も例外ではなかった。
故にクレアの言葉をそのままとして捉える。
「………まぁ、それで気が済むのならいくらでも付き合おう。そもそも俺はお前のそばに居ると約束した身だからな」
もちろん、クレアも今回は他意は無い。主人に気を遣わせた上に、自分の身勝手な願望をぶつけるなど不敬もいいところだ。
少しでも彼の役に立ちたいと言う純粋な気持ちからくる言葉だった。
イランの返答に、喜びと共に返事をするクレア。
次はネプトへと問いかける。
「ネプト、お前はどうする?」
イランからの質問に葛藤する。
だが、ここで一歩踏み出さなければ何も変わらない。遠慮だとか、申し訳ないだとか、そんなちっぽけな誇りよりも、彼には守らなければいけない矜持がある。もっと手にしたいものがある。
「俺は……もっと主様に相応しい男になりたい」
「……俺にとってはその心意気こそが十分それに値するが……。そういうことではないのだろう?ならもっと鍛えてやろう」
イランは挑発的な表情で笑む。
「強さもそうだけど……それだけじゃない……っ!俺にもっとイランに相応しい品位を教えてくれっ!…強さも…品格も……主様の隣に立つ資格のある男になりたいッ!」
「なるほど……ならば、俺とクレアで品位というものを徹底的に叩き込んでやろう。強さも、品格も、両方一から鍛え直してやる」
「あぁっ!頼むよっ!」
「クレアも任せてくださいっ!」
というようなやり取りが行われた結果、クレアは弟を甘やかしまくる姉のような立ち回りになってしまい、ネプトはひたすら彼の護衛として品格を磨いているのだった。
**
「ネプトくんっ!もっと背筋を伸ばしてっ!」
「はいッ!」
頭に本を乗せ、そのまま落とさないようにネプトが真っ直ぐ歩く。まずは立ち姿から矯正を始めたネプト。
だが、頭の上の本は、本来の意味をなさないようだ。
「……なんでそんなだらしない姿勢なのに頭の上の本が落ちないんですか……?」
「鍛えてるだけあって、重心の移動だけは完璧だな……」
ネプトは戦闘中でも特殊な歩法を用いる。故に普段の歩き方に癖が出てしまう。
身体のバランス感覚も抜群で普通であれば体勢を崩してしまいそうな場面でも難なく立て直す。むしろそれを利用して相手を揺さぶる。
故に、なんとも指導しづらい相手となってしまった。
「これ……俺褒められてる?」
「「褒めてない」ません」
「あと言葉遣いッ!『わたし』もしくは『わたくし』にしなさいっ!他人がいない場であれば良いですが、慣らしておくためにも最初のうちは普段から意識なさいっ!」
「はいッ!失礼いたしましたっ!」
背筋を伸ばし、姿勢を正しながら勢いの良い返事を返す。
そんなやりとりをしていると、扉の向こうからノックが響く。
「良い機会です。ネプトくん、応対してみなさい」
「はいっ!」
そう言いながら今し方教えられた事を頭の中で渦巻かせ、浦を進める。実にぎこちない歩き方で。
「ど、どなたでしょうか?」
『………いらん…』
「………えっと、お名前をお伺いしたいのですが……」
『……だれ?』
話が進まない。言葉が少なすぎる上に要領を得ない。最初の相手としては最悪だった。
助けを求めるようにネプトが二人に視線を向ける。
仕方がない、とばかりにクレアが変わろうとした、その時に向こうに居る声が増えた。
『あれ…?ファムナームさん?い、いーくんに…な、何か、用?』
『……お菓子…やくそく』
『あ、お、お菓子食べにきたの?い、いーくんの買ってくるお菓子…お、美味しいもんね……?』
甘党同盟の二人が、お菓子の話に花を咲かしだす。
何やら扉の前で盛り上がる二人に、『流石に放置しておけない』と痺れを切らしたクレアが自ら扉を開く。
「お二人とも、扉の前で長話をされると他の方のご迷惑になりかねません。イラン様は中にいらっしゃいます。どうぞ中へ」
「お、お邪魔しま––––えっ?!」
その瞬間ファムナームがすごい勢いで駆け出しゆく。
そしてその勢いのまま……
「な、なんだファム––––ぉゴォッ?!」
流れるような鮮やかな手際で行使された《強化魔術》。絶大な魔力が身体エネルギーとして供給される。素早い動きにその膂力。
強烈な一撃が油断したイランの腹を打つ。
コースは見事、鳩尾ど真ん中である。
「主様ッ?!」
「ご主人様っ?!大丈夫ですかっ!?」
「……っ、…っ、だ、大丈夫だ。平気だ」
そんなイランを無視して体にへばりついたままイランの顔の方へよじ登っていくファムナーム。
「……だいじょぶ?」
『お前のせいだろっ!』と言いたいが、腹の痛みを顔に出さないようにするのに必死なイランはそれどころではなかった。
油断していたとはいえ、痛みに慣れたイランにここまでのダメージを与える。さすがはエルフと言ったところである。
「あ、あぁ気にするな。こ、この程度なんの問題もない」
体をプルプルと振るわせながら強がりを崩さない。だがこれは自らを苦しめる。
「ん、よかった。……これからも、やるね?」
「………」
『それは女性として、よろしくない。はしたないぞ?女性らしい振る舞いというものを教えよう』というような言葉で言いくるめ、引き離そうとするが、そう上手くは行かない。
「……ず………ず、ず、ずるいぃぃいっ!いーくんっ!わ、わ、私もっ!私もするっ!」
「る、るーちゃんはこの前まで十分ひっつ––––
「じゅ、十分とかないからぁぁあっ!」
自分の主人と女性二人があれやこれやと、くんずほぐれつな現場を見たネプトは呟く。
「さ、流石俺の主様だ。『英雄色を好む』をそのまま体現してやがる……っ!」
今はネプトの教育中だ。普通なら『下品な事を言うのはやめてください』と言うところだが、クレアにとってはそれどころではない。
「ネプトくん……私はご主人様のお給仕に入ります。後の応対は任せました」
そう言い放ち、ゼイブルからの見舞いの品へと手を伸ばす。
それらを処理したあと、皿に綺麗に盛り付け、片手に持ちながらイランの元へとやってくる。
イランからの『何をしているんだ?』という問いを無視して『失礼します』と言いながら主人の足を広げ、太ももの上へと座る。
そして唐突にフルーツをイランの口へと運び出す。
「ご主人様…あ、あ〜ん」
「……クレア?」
「ご奉仕……です。お願い……聞いてくれるんですよね?」
「………」
もう何も言い返せない。彼の頭は甘い蜜に浸された。
あちこちから良い匂いと柔らかい感触が襲いかかる。
抱き付く少女の柔らかい二つの感触も、優しく頬を撫でる指も、横から聞こえてくる甘い声と味も……全部がイランの脳を溶かしてゆく。
痛みには強くても快感には勝てない。
身体が反応してしまわないように必死に別のことを考える。
(そう言えばあれからヘレンさんと会ってないけど大丈夫だろうか?––––
「いーくん、ほっぺ、もちもちだね。んへへ、もぐもぐしててかわいい」
––––ルーちゃんの手は少し冷たくて気持ちいいな、じゃなくて。ウルカと喧嘩別れしたままだから、少し仲を取り持った方がいいよな––––
「ご主人様。あ、あ〜ん」
––––クレア、クレアは……いつも遠慮がちだから、こう積極的だといつもよりギャップが…じゃなくて、クレアは、そう!クレアとネプトともあまりよくない終わりだよな。ヘレンさんには報われて––––
「んー……ぁむっ」
ちょ、ちょちょちょちょちょっと待て?!な、なんか首筋が生暖かくてぬるっとしてるんだがッ?!ど、どどどう言うことことあるだっ?!何が起こってるだっ?!……)
思考の中ですら呂律が回らず、異変を感じた首元……元凶へと目を向ける。
「……あ、こっちむいた」
超至近距離のファムナームの顔があった。
その不思議っぷりにイランは今まであまり意識していなかったが、エルフは見目美しい種族。まだ幼さも残るその美しい顔が至近距離で映し出される。
「………ぁっ」
もう何も考えられなくなり、パンクした。
––––……うわぁッ?!イランが悪徳領主でもやらなさそうな女の侍らせ方してるっっ?!』
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「……ハッ?!み、皆は…っ?」
気が付いた頃には皆自室へ戻っており、ウルカが来てからの記憶はかなり曖昧だったという。
拝読ありがとうございます。
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