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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
古いものは過ぎ去り全てが新しくなる
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乗り越えるしか道はない③


三人に向けられた魔竜の絶火を、ファムナームがそのエルフという種族に与えられた全てを込めた氷壁で防御する。


だがその壁の裏にいるのはウルカのみ。



「トカゲェッ!俺はここだァッ!こっちを見ろッ!」

『ギャ◾️◾️◾️ァオォウ◾️アァッッッ』

竜を挑発するイラン。

あの最速の狙撃魔法を成功させる為に、竜を焚きつけウルカへの注意を逸らす。


魔竜はイラン達を舐めている。いつでも灰へと還すことができると思っている。わざと加減し、3人をいたぶっている。あの怒りを発散するように。

故に簡単にその挑発に乗る。



イランの両腕には氷の少女が抱かれている。背から腕を伸ばすことすら厭うほどの集中に彼女は没頭していた。

その為イランは彼女を落とさない様しっかりと前で抱える。

彼女の放つ冷気のおかげで魔竜の熱の影響が少ない。先程より身体がよく動く。



普段であれば、その柔らかい身体、低い身長の割には実った胸部、モチモチの太ももなどに意識を取られてしまいそうが今はそれどころではない。


彼が対峙しているのは『魔炎竜:ザラクフェード』

生半可な意識で相手できる存在ではない。

腕の中で、目を瞑りながら集中している彼女のそれを途切らせないように、竜との距離を維持したまま迫り来る炎を避け続ける。



時間を稼ぐ。

《エレグボルク》の為だけではない。

前に抱えた彼女が秘める、その魔術の為にも。




そんな2人と一体の姿を見据えながら、雷の少女は両手で持つ黒槍へと自分の魔力を込め始める。




**




少し前。竜へ向かう直前。3人は竜を狩るための矛を備えていた。


「ウルカ、槍を3本生成して行く。それで成功させ––––

「一本…ッ!一本でいい…ッ!……その代わり、ありったけ魔力をぶち込んだ頑丈なやつを寄越しなさいッ!」

『一撃で決める。』その強い意志をイランは受け取る。

「……ふっ、やはりお前はいい女だよ」

「……うわき?」

ファムナームの軽口を無視し、すでに生成を終えたその黒槍をウルカへと渡す。

 


「…ッ、いいじゃないこれ…ッ!ウルカ・ソルの記念すべき最初の《エレグ・ボルク》にピッタリよッ!」

「気に入ってもらえて光栄だよ。お嬢さん(レディ)

2人は力強く目を合わせる。

何も言わない。互いに信頼していることをただただその眼差しで表していた。


「……そろそろ行こう。ファムナ、準備いいな?」

「……やってやんぞ」

胸の中で『ふんっふんっ』とやる気を漲らせている。

「それじゃウルカ。強烈なのを期待している」

「任せなさいッ!」


「……うるか」

ファムナは去り際、彼女へと静かに声をかける。

初めてその少女から自分の名を呼ばれたウルカは少し驚いた顔をして尋ね返す。

「……なによ、ファムナーム」

「……レール、左右で流れる魔力の量が不均等。……注意して。」

いつもより口数の多い、珍しい彼女を見てイランは黙ったまま驚ろいてる。

だがすぐに氷の向こうにいる竜へと目を向ける。


去り際に声が聞こえた。

『あと……ファムナでいい』

その声に目を向けた時にはもう、2人は氷壁の向こう側へと駆け出していっていた。




「……はっ!最初からそう言えっての……。失敗した時の言い訳ができなくなったわね」

彼女に言われた言葉を反復し、頭の中でそれを再現をする。

名を呼んでくれた。渾名を許してくれた。きっとそれは友好……そして、仲間として認めてくれた証なのだろう。



「……まぁ…失敗するつもりなんてなかったけどねッッ!」

彼女の心は昂り、そしてまた不敵に笑んでいた。




**




『ギャャ◾️ア◾️ッ!』

竜の炎を避けながら、抱えている少女へと問いかける。

「ファムナ、何かいい足止めの魔術はあるか?」

「……ある」

「よしっ!それをやるぞっ!」

炎を避け、氷で隔て、撹乱しながら魔炎竜の攻略へと歩を進める。


「……時間稼ぎ、よろ」

「……は?」

彼女の思わぬ言葉に戸惑いを隠せない。

竜と相対しながらも彼は続ける。

「どういうことだッ?!」

「……あいつを、凍らす……、から…時間、稼いで」

(凍らせる?炎の顕現者たる魔炎竜を?あの炎を止め、動きを停止させると?)

だが彼の疑問など無視して彼女は集中を始める。

「時間稼ぎの時間稼ぎ……か。」

あの魔炎竜相手に彼女達2人はこうも勇敢な姿を見せている。あの化け物を相手に我と意志を通そうとている。

そしてその意思はあの竜の命を貫かんと、強く鋭く研ぎ澄まされている。



(これでは俺が一番の小物だ)

「良いだろう。……やってやろうッ!お膳立ては全て俺に任せると良い……ッ!必ずお前らのその意志を、あの竜の喉元まで届けてやろうッ!」





**





ザラクフェードは怒り狂っていた。

己に集る大ぶりの蝿が三匹に増えた。鬱陶しくてかなわない。耳に羽音をよぎらせ、自分の周りをうろちょろ飛び回る。何度振り払ってもひらひらとのらりくらりかわされる。

鬱陶しくて仕方がなかった。

だが竜は焦ってはいなかった。虫如きが己を相手に何をできるか、と。



その油断は命取りになることを知る。

彼らは蝿などではないと。


知ることになる。

彼らはその陰から常に目を凝らし命を狙う。

命を穿つその時がくるまで矛を隠し持つ狩人なのだと。





**




『あら〜ファムちゃん、もうその魔術覚えちゃったの〜?すごいわね〜』

ファムナームは昔からエルフの中でも一段と魔術の扱いに長けていた。母から魔術を教わっている時間がいちばん好きだった。


『ファムちゃん〜いつも言ってるでしょ〜?あれはダメよ。あなたにはまだ早いもの』

でも、一つだけ教えてもらえない魔術があった。




ある日、凶暴な魔獣が里へと押し寄せた。


『下がれ!フムリエム様だ!』

その魔術は、手に纏った冷気。

手を動かせばその軌跡にあった空気が凝結し、弾けながら氷の結晶を輝かせた。


掴むように、指を先に伸ばした。

その瞬間、その冷気は空気を凍らせながら前へ進む。

氷の枝を周囲に伸ばしながら、沈むように先へと進む。


それに触れた魔獣は停止した。

その命ごと凍りつかせた。


母の魔術。その活躍にもう釘付けだった。

『教えて教えて』と駄々をこね続けてようやく教えてもらえた。



『もう仕方ないわね〜。この魔術の––––




• • • ––––


腕で抱える彼女から放たれる冷気が次第に強くなっていく。


「おい……ッ?!大丈夫なのかそれはッ!」

彼女の左手は冷気に包まれ、凍りついていた。息を荒げている彼女の姿。ファムナは自分の腕を必死に抑えつけながら答える

「……ハァ、…ハァ、…だい、じょうぶ…ッ!」

そして、先にいる竜を睨め付ける。

「……もう……いけるッ!近づいて…ッ!」

炎吹き荒れる魔竜の元へと進めという少女。

「……ゼロ距離で、…放つッ!」



『グゥオ◾️◾️オァァ◾️アッ』

竜の咆哮がまた一段と強くなる。

魔炎竜ザラクフェードのギアが一段上がった。

周りに生成される炎の色がより濃くなる。それらは雨のようにこちらへと絶え間なく降り注ぐ。


「……ッ!良いだろうッ!宣言通りお前をあのトカゲの喉元まで連れていってやるッ!」

イランの体が黒へ覆われてゆく。

残り少ない魔力を振り絞り、身体を動かす。

彼女をあの竜の元へ送り届けるために。



『◾️ァャァア◾️◾️アァアッ◾️◾️』


目の前に迫るは紅一色。その熱は彼らの肌を焼き焦がさんと差し迫る。イランはそれを正面から受け止める。

炎が晴れたその先には、黒鉄が溶け皮膚が焼け焦げているイランの姿………()()だった。

「コフッ……トカゲは学習せん生き物だなぁッ!」



喉元。

炎が放たれる前にイランがすでに彼女をその喉元へと放っていた。

その巨大な竜からは死角となる顎の下で、その鱗へ触れながら彼女は唱える。



『その魔術の名前はね––––



「凍って–––––


––––《ブリニクル》』ッッ!」


その瞬間、竜を取り巻く熱は消え、そこにあったのは巨大な氷像だった。

氷の結晶を周囲に振り撒き、キラキラと輝いている。美しい氷の彫像。


魔竜の鱗は魔力が高圧縮されて結晶化したもの。故に魔術への耐性は抜群。

だがそれすらも……属性の相性も種族の差も全て押さえつけて彼女は魔炎竜を停止させてみせた。凍らせて見せた。



––––だが彼らは止まらない。この程度で種として圧倒的強者である魔炎竜が終わるわけがない。


氷の少女は、役目を終えたと言わんばかりに、空から地へ落ちながら叫ぶ。


「うるかぁッ!」


その声に雷山の少女は––––




**




ウルカの基本魔術は全てヘレンに教えてもらった。

|《フローライトニング》も《エルブス》も他の魔術も全部全部、ヘレンに教えてもらったものだ。


だが、《エレク・ボルグ》だけは教えてもらえなかった。

あれは戦争のための魔術だと。人殺しの為の魔術だと。お前には教えられないと言われた。


だから彼女は自ら学び始めた。

口頭で聞いただけの情報を元に、原理を解読し、試行し、再現に努めた。

そしてあと一歩のところまで完成させた。

そのあと一歩が届かない。

手が届かない。

ヘレンのようには––––



諦めたくはなかった。彼女に近づきたかった。彼女の隣に立ちたかった。

たまにするあの悲しそうな顔も、自分を責める顔も、暗い顔も、つらそうな顔もしてほしくなかった。


でも、彼女はまた自分を傷つけて帰ってきた。あんなに大好きだった憧れの人が、今度は片腕を無くしていた。

もう嫌だった。何が起こったのかも、何をしてたのかも教えてくれない。

ただただ辛そうに『これは己の弱さへの贖罪だ』と言う。


だからウルカは諦めなかった。憧れのあの人の背に追いつき、横に並び、今度こそあんな表情をさせないために。今度は自分が支えるために。


まだその背中は遠い……だがッ!

今、この時、その少女は確実に彼女(憧れ)へと近付いた。




「……お姉様は大戦の英雄で、悪魔を一体滅ぼした」



魔力を電気に変換しながらありったけを黒い槍に注ぎ込む。

それは次第に斥力を生み出す。

ゆっくりと両手を黒鉄から離すと、残されたようにバチバチと音を立てながら電気を走らせて宙へ対空する。その矛先は指の指す方へ。



「なら、そんなお姉様の一番弟子であるこの私が……ウルカ・ソルがッ!」



左手を前に差し出し、右手でその手首を掴む。第一指と二指を束ね、狙いを覚ますように先へと伸ばす。

その横で大量の電流を蓄えた黒槍がその指に従い向きを変えながら宙で待機している。



羽のついたトカゲ一匹、穿てないでどうするのッッ!」



帯電する圧縮された魔力を前方に引き延ばし、磁力を発生させる。

強力な磁界を纏った目には見えない2本のレールが指差した方向へと引き伸ばされてゆく。



「その命に……風穴あけてやるわよッッ!」




狙うはあの炎の魔竜。貫くは鱗。

穿つは………その命。


2本のレールに流れる電流と反応し黒槍が……


「《エレク・–––

 

「うるかぁッ!」

聞こえてきた声を合図に


–––ボルグ》ゥァッッッ!」



放たれた。

拝読ありがとうございます。


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