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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
古いものは過ぎ去り全てが新しくなる
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乗り越えるしか道はない②

し、真剣な場なのに……なんでワイはイチャイチャさせとんのや…?でも指が止まらんのや。


空。


そこで1人と一体

人と竜がぶつかり合う。


「ァアアアッ!」

『グ◾️オオ◾️◾️ァア◾️ッ!』


その男から放たれるのは自らの魔力で生成した黒の金属、黒鉄(クロガネ)でできた巨大な鉄鎚(ハンマー)

イランの怪力からなる遠心力、そしてその多大な質量からくる重の衝撃。それらが竜の背に叩き込まれ、莫大な魔力で得ている浮力すら抑え込み、空の支配権(アドバンテージ)を奪い取る。


『ギァャ◾️アォ◾️◾️ァアッ』

勢いよく地へ堕ちた竜へ、イランはすかさず追い討ちをかける。

熱に溶け、魔力の保持を失い魔素へと還元されてゆく鉄槌を放り捨て……右手に握るは黒鉄の槍。

強化魔術(リィンホース)》と《属性佩滞(コンヴェスト)》をありったけ、右腕から背にかけて重ね掛ける。背筋と腕力。魔力と生成。


全てを振り絞り

「…ッんんんん…ッ!」


投擲が放たれる。

「ンヌァッ!」


だがそれは竜には届かない。

『◾️◾️◾️ッ』

「…ッ?!」


紅の一線。


即座に竜の口から光熱が放たれた。

その線は凝縮された熱の密度を表すかのように煌々と(あか)く光っている。

放たれた槍を融解させ、投擲の道筋を辿るようにその先のイランを貫かんとした。


「……ッヅゥッ…」

空中で身を捩らせ紙一重で避けるイラン。

その熱線には触れていない。触れていないにも関わらず、そばを通った熱線が左肩から首筋までの肌を焼く。皮膚の下の血を沸騰させ、身を爛れさせた。


だがそれで終わりではない。

その空を穿つ紅い線を維持したまま、イランの頭目掛けて––––


(まずいッッ!)

すぐさま鎖を生成。

下の木へと巻きつけ、手繰り寄せ体ごと避けようとするが……


––––薙ぐように首を斜め下へと薙ぐように振り抜––––


(クソッ…間に合わない…ッ)




その瞬間、紅とは違う雷光がイランごと空を横切った。




その速度と急な出来事に、着地した先でイランは受け身が取れず地へ転がる。顔を上げ、その少女へと目を向ける。

「……ハァッ…ハァッ、お……お前……」

「……ったく、あんたねぇ……っ!どこで何やってんのよっ!?」

その先に佇むは、刹那の移動を可能とする雷速を受け継ぐ少女。



「ほんっと……世話が焼けるわね」



ウルカ・ソル。

背を向けたまま、不敵に笑む雷山(いかずち)の少女の姿がそこにあった。




**




「お、お前……何でここに……っ?!」

「はぁ?なんでぇ??あったりまえでしょうがっ!あんたと私はチームッ!脱落なんて許さないからッ!」

竜が出現する前、彼女はイランと合流する為に魔力を最後まで手繰り寄せ続けた。

魔石からの通信であれだけ繰り返されていた避難の指示。それでも尚、それらを無視して彼女はイランの元へやってきた。


音のする方へ、異変を感じる方へ、凶悪な気配の源へ。

イランがから感じる微かな人の電波(気配)を掴み取ってやって来た。


ただ……チームメイトを救う為に。



だが、イランはその行動を咎める。言行相反だと責められても、それでも言わなければならない。


「状況わかってるのかっ?!魔竜だッッ!竜だぞッ?!」

「でもあんたは立ち向かってんじゃない」

「あれの狙いは俺だッ!お前には関係な––––

その瞬間、彼女から発せられた雷山が天へと昇る。神鳴りを覆すかのように、天へと放つ。



「あんた……それ以上言ったら本気で怒るわよ……」

怒り、というにはあまりにも悲しそうなその顔は、すぐにいつもの強気な表情へと戻る。


「あんたはあたしとチームでしょうがッ!生憎、あたしはお姉様から仲間を見捨てて逃げていいなんて教わってないのっ!あんたが()()から逃げないってんなら……あたしも一緒に立ち向かってやるわよっ!」

想定外な出来事に未だ立ち上がれないでいるイランへと、彼女は手を差し伸べた。

いつも手を差しべている彼にとっては、あまりにも新鮮で…少し擽ったくなる。



「だが……ッ」

「あぁ…もうっ!鬱陶しいわねっ!クヨクヨクヨクヨしてんじゃないわよっ!あんたがこの手を取らないってんなら……試験の作戦、あいつ相手でも続行してやるからねっ!」


彼女の姿を見る。

少し足を震わせながらもこちらへと手を差し述べ、自分をまっすぐ見据えている。その眼差しは煌々と輝いていて、瞳の中で光が弾けていた。

「あたしはウルカ・ソル…ッ!ヘレンお姉様の姪で、お姉様が認めてくれいる一番弟子ッ!そして……


……あんたの『チームメイト』よッ!」



その姿を見て、イランの中で何かが吹っ切れた。



「……はっ、ははははっ、ははははっ」

「な、何よ…っ?魔炎竜の熱で頭壊れちゃったの……?」

「いや……良い。実に良い」

彼の本当におかしそうなその顔に、彼女は理解ができないままだ。

イランは彼女から差し伸べれた手をしっかり握り、立ち上がる。


「………何言ってんの?ファムナームみたいなやつは1人で十分なんだけど…?」

「………ふっ、お前は良い女だ、そう思っただけだよ」

「…はっ、ハァッ?!こんな時にふざけないでくれるッ?!く、口説くにしても時と場所を選––––


『ガァ◾️◾️ォオオ◾️ァアッ』

この場に似合わない雰囲気をかき消すように、紅光が2人を襲いかかる。



イランは黒鉄の壁で迎え撃つ。

だが……



「《ホアフロスト》」



その必要性は無かった。

紅い光が落ち着くと、そこには神秘的な光景が広がっていた。氷の樹木。森の木が凍って出来たものではない。その枝の先にはそれぞれ氷の結晶が葉として生い茂り、日光を透過させキラキラと綺麗に乱反射させている。


それらがイランの前に聳え立ち、あの紅の炎を防いで見せた。

周りの草木はその冷気を受け取り、凍てついている。それイランたちにも降り掛かり、竜の熱から身体を冷ました。


「……ハァ、……ハァ、おい、…ついた」

後ろから息切れの声。

振り返るとそこには、膝に手をつき肩で息をしている氷の少女の姿があった。



少しして、落ち着きを取り戻した彼女はいつもの無表情でこちらを見つめる。


「……真打登場…ぶい……」


ファムナーム・ルヴ・スノークは、2人に向かってピースサインを向けた。




**




「何でお前までここに…ッ?!というか、なぜ魔術を行使できるッ?!」

「……われ、えるふ……ぞ?」



『エルフ』

魔術の達人(エキスパート)

無尽蔵の魔力。魔術を操る技術(センス)

マナの支配は、魔竜にすら劣らない。



「流石としか言いようがないな」

「……どや」

そのまま彼女はイランの元へゆき、頭を差し出す。

「ん」

「……?」

その行動が何を意味するかイランには理解ができていない。

「……ほめて、いいよ?」

「……は?」

「…なでて?」

「……いや、お前」

『こういう時だけ語彙力を振り絞るのはやめろ』そう言い切る前に、三人の視界はブレる。



イランはファムナームを抱え駆け出し、ウルカは宙にいた。

元いた場所に目を向けるとそこには炎が猛る。


それを目に映しながら、その勢いのままウルカの着地点へと集合する。

「ちょっと!あんたらこんな時にまでイチャついてんじゃないわよっ!」

「……」

『お前がそれを言うのか』と言わんばかりに目で訴えるファムナーム。

「な、何よ…」



竜の猛り狂う咆哮と共に、迫り来る炎。それをファムナが時間稼ぐようにその冷凍で遮る。



イランは叫ぶ。

「ファムナッ!お前の魔術であれを仕留め切れるかっ?!」

「……さすがに、きびしい」

先程の氷の樹木を見る。

すでに蒸発していた。液体への変化をすっ飛ばし直に気体へと昇華させている。



「なら、あたしがやってやる…ッ!あたしがあいつを……穿つッ!!」



《エレク・ボルグ》

あれは一度放てば竜の魔力の影響など関係なしにその絶大な速度を持って貫くだろう。


だが結局あれは一度も成功しなかった。

ウルカはまだそれを成功させていない。



それが……なんだと言うのだ。



「俺とファムナで時間を稼ぐ、いいなっ……!」

「わかったわ…ッッ!」

「…賛成。……じゃ、もっかいだっこ」

「…は?」

何が、『じゃあ』なのかイランには理解ができない。彼女の行動はこんな時まで要領を得ない。


「……イラン、そいつ体力クソ雑魚なの。…背負って移動してあげないとダメなの」

『なんの冗談だ?』と目で訴えてくるイランに対し、ウルカは目を瞑り首を振ることで答えとした。

ファムナームの目を見る。至って真剣だ。



氷の壁の向こうで炎が衝突し、水蒸気がその先の視界を曇らせていく。



「お前は……本当になんなんだ…?」

彼の中でファムナームの評価が縦横無尽に暴れ回っている。だが今はそんなことどうでも良い。


「…もういいッ!来いッ!」

「……ん………んゃッ……?!」

抱き上げた瞬間、変な声を上げるファムナーム。

突然の声に慌てるイラン。


「……な、なんだ…っ?」

「……」

ジトってした目つきで何かを訴えてくる。

「……ぇっち」

「な、なにを言っ––––

「来るわよッッ!」



魔炎竜ザラクフェードの魔力に支配され、炎のマナが過剰反応を起こす。

そこから発生する絶大な火力が三人へと襲いかかる。



まだ、脅威は去っていない。


拝読ありがとうございます。


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