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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
古いものは過ぎ去り全てが新しくなる
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乗り越えるしか道はない①


響き渡る咆哮と圧迫する魔力。

その異変に気付いた魔術学園ヴァレリオの教師達に不審と違和感が走る。


『緊急ッ!緊急事態ですッ!!りゅ、竜……ッッ!魔竜が出現しましたッッ!』


試験の監視員から教師専用の通信魔石へと焦眉の声がそれぞれへと響き渡るッ!

その報告を聞いてその違和感が焦燥へと変わる。


『い、一体どころからそんなものが……っ?!と、とにくッ!!すぐに試験中止の合図をッッ!戦闘を行える者はすぐに彼らの救助に向かいさいッ!』

その声を聞き、それぞれが動き出す。


『ギルドにも連絡をッ!誰でもいいですッ!ランク8以上のハンターへ魔竜の討伐依頼を––––


「それはやめといた方がいい」


焦りの声を遮るように魔石へと語りかける。

その怪しい風貌の男は焦る彼らを納得させるために簡潔に伝える。

「あれは魔炎竜ザラクフェードだ。こと、マナの支配に関しては人間が立ち向かえる存在ではない。魔術もまともに使えない状況で、あれを倒そうとするのは……無謀だと思うね」


その言葉に教師達は絶句する。

だがそんな彼らに続ける。

「故に、生徒達の保護を優先することをお勧めするよ。間違っても討伐しようなんて考えてはダメだ」

『わ、わかりましたッ!すぐに生徒達の避難をッ!ギルドには至急、生徒の保護を内容とした依頼をッッ!生徒たちには試験の中止を魔石で伝えなさいッッ!今すぐッ!早くッ!』



魔石から流れる焦燥の叫び声。

それらを無視して彼……ネヒィム・ヴプネブマは誰に伝えるでもなく1人でに語る。

その溢れんばかりの喜びを抑えきれず、口から漏れ出すように、言葉を吐き出す。


「あぁ……この魔力……ッ!!……そこにいるのですね……?我が愛しの女神…ッ!『エドラ・ルヴ・アーフィリア』ァァッ……」


彼の表情は、恍惚に塗れていた。




**




その竜は炎を撒き散らし、空を支配している。圧倒的な魔力で、己の属性を超え、風のマナを支配する。

暴風を起こし、それを巨大な羽で受け止め、その巨体を空へと滞空させる。



––––その竜は怒り狂っていた。


『なんだぁ??おまえぇ……?トカゲさんかぁ……??トカゲは羽生えてないがぁ〜〜ッ??いや!トカゲだろトカゲ!爬虫類ッ!()がそういうんだからお前はこれからトカゲだッッ!コラっっ!トカゲが空飛んじゃダメでしょっっ!何飛んでんだコラッ!メッ!!その羽引っこ抜いてトカゲ(ぜん)としたトカゲにしてやる〜〜ッッ!んなぁあははははっ……羽根って美味いんかな?』


––––竜としてこの世に命を受けて長く経つが……己をここまでコケにしてくる存在は初めてだった。


『……なんか焦げくっせぇ、火拭くなよぉ……ゲップみたいで気持ち悪りぃよぉ〜。……うーん、萎えてきた〜。飽きたしもういいか……。おもちゃは片付けないとね〜っ?またテンマにしかられっっちゃぅうう〜〜、もういないか……ま、いいや。お片付け〜〜ぽぴぽぴぽぴ〜〜ん』


––––手も足も出ない存在に出会うのも、己が好きなように扱われるのも…


『君は育成素材だっ、!進化素材だ〜〜っ!』


––––初めて味わう屈辱だった。



生涯で味わったことのない屈辱と激怒。自分の中を渦巻く初めての感情が激流となり暴れ回る。

そして、差し向けられた先にはこれまた矮小な1人の人間の姿。


その竜は怒り狂っていた。

その感情をもってして……己の力と魔力と存在全てを持ってして……その少年へと牙を向けた。




**




空で武狂う魔竜。炎を纏わせ、それを周りへと振り撒く。

空から数多の炎の塊が落ちてゆき、その光景は世界の破滅を思わせる。

「クソがッ!範囲が広すぎるだろうッ!」

木の陰をうまく使いながら視線を惑わし避けてゆく。だが相手は魔竜。《感知魔術(ディテクション)》もお手のものらしい、イランの行く先々に炎の塊が降ってくる。

広範囲に魔力が張り詰めておりどこまでが支配圏内なのかすらわからない。



イランはすでに《強化魔術(リィンホース)》と《属性佩滞(コンヴェスト)》を同時にかけ、内側と外側からの身体能力を向上させている。得られたその高い機動力でそれらを避けてゆく。

ファムナームのおかげで、左腕を抑えるために必要な魔力量が格段に減り、戦闘に回せる量が増えた。


だがこのまま避けていても埒があかない。

相手は(そら)という圧倒的な優位性(アドバンテージ)を捨てる気はないらしい。一向に降りてくる気配がない。


イランは痺れを切らす。

隠れるのをやめ、現在得ている膂力をふんだんに使い、助走をつけ魔竜のいる空へと跳んだ。


「……ッ!ァアッ!」

跳躍のみでは届きはしない。

だが、すでに生成してある黒鉄の鎖を魔炎竜のへと投げ、その足にくくりつける。

魔竜の振り撒く魔力は絶大で、自分の近くでしか生成を行えない。黒鉄の操作も上手くいかない。魔力ごと阻害されてしまう。

故に、身近での生成と、物理的な身体能力(フィジカル)で魔炎竜へと近づくしかないのだ。


「ォオオオオオォァアッ」

その尋常ではない膂力で雄叫びを上げながら駆け上がる。

くくりつけた鎖を、足の指からなるその人間離れした握力で掴み取り、鎖を駆け登って行く。鎖が熱で溶け切る前にっ!と高速で駆け上がる。


『グォぅ◾️ヴァ◾️◾️ッ』

だが魔炎竜もそれを傍観してはくれない。

羽虫でも見るかのようなその鋭い眼光で捉え、イランへと業火を差し向ける。


「おせぇんだよッ!デカいだけのデクの棒がァッ!」

だが、すでに炎を潜り抜け竜よりも高く上空へと跳んでいるイラン。

先ほど受けた炎で体に纏った黒金が溶けており、肌も少し焦げ付いている。そこから覗かせるその表情は……歪な笑みだった。




**




「ハァアアァッ!」

「プレムっ!」

「任せなさいっ!」

炎と風が立ち上り、肉の焼ける匂いが充満している。

地面は不均等に荒れており、何度も強い力が叩き込まれたような跡が出来ていた。


クレア、ネプト、プレム、この三人は順調に魔獣達を狩っていた。

「ふぅ……そこそこ溜まってきたんじゃないかしら?ポイント」

「いえっ!まだまだですよっ!もっともっと頑張りますよっ!」

『そ、そして、ご主人様との勝負に勝って………ダメダメっ!それはダメですっ!』と1人でなにやら悶々としているクレアを置いて、ネプト声をかける。

「そうそう!プレムには悪いけど、おれたちめっっっちゃ張り切ってっからさぁ!付き合ってもらうぜっ!」

「ま、まぁ…私も成績上げたいし……付き合ってあげ––––



『ギ◾️ァア◾️アォオ◾️◾️ァァアッ』



「な、何っ?!今のッ?!」

「なんだよ……っ?!この魔力ッ?!」

尋常ではないその魔力の圧にそれぞれが戦慄する。そんな彼らをさらに焦らすように魔石から通信が入る。


『討伐試験へ参加している全生徒へ通達しますッ!今すぐその森から避難してくださいッ、試験は中止ですッ!魔竜が現れましたッッ!魔竜が現れましたッッ!繰り返します。今すぐ避難をッ!森の入り口まで避難をお願いしますッ!今教師が向かっておりますッ!ままなくギルドの魔獣狩(ハンター)も応援に来ますッ!動ける者は自ら避難をッ!繰り返しま––––


強烈なアラームを発するように、魔石から避難を促す言葉が繰り返される。それを聞きながら呆然としてしまう。まるで現実感が湧かず、倒錯する。



「なにが……起こってるんですか……?!」

「何つったってんのッ!早く逃げるわよッ!」

「姐さんっ!流石にあれはヤバすぎるッ!一旦指示に従おうっ!主様も……流石にあれには挑まないだろッ!」

「そ、そうですね……まずはご主人様の安否の確認をッ!」

そういい、三人とも森を抜け出すため駆け出したのだった。




彼ら三人の機動力は高く、すぐに森の出入り口へと避難が完了した。

『先にピナとピノを避難させるんだ』とネプトがプレムを女子寮へと帰す。『あんたも早く避難しなさいよっ!』と言い妹たちの元へと駆けていった。

ネプトはそんな彼女に肯定の返事をしながらも目と体は主人を探す。クレアも同様だ。きっと居る。ここに居るはず。彼なら先に自分たちよりも着いているはず。

不安を晴らすように探し回る。他の生徒が多すぎて魔力感知では探せない。


そんな2人へと声がかかる。

「クレアさんッ!!」

ルノだ。その表情は声からも伝わる通り、非常に逼迫している。

「ルノちゃんっ!?ダメですっ!竜が来てるんですっ!もっと遠くへ逃げてくださいっ!」

ルノが自分の主人にとって大切な存在であることはわかっている。彼女は戦闘能力はほぼ皆無。彼女に何かあれば彼がどうなるかわからない。


だが当の本人はそんなことを気にしていられなかった。

「い、いーくんが…ッ!いーくんがッ!」

その言葉に2人に焦燥が募る。

「な、なにがあっんで––––

「イランに何かあったのかッ?!」

クレアを押し除け、ネプトが激しく問う。

ルノの肩を力強く揺さぶる。本来のネプトでは絶対にしないであろう乱暴な所作を女の子相手に行う。その様子は彼の焦りをそのままに表していた。



「い、いーくんの魔力が……魔竜付近で…と、途切れて……ッ!」

ルノの顔。その顔は絶望だった。目に涙を浮かべ、不安が心を染める。

また、同じことを許してしまった。また止められなかった。また、何もしらず、失いかけている。また遠くへいってしまう。

そんな絶望を彼女は表情で表していた。



死んだ等とは思っていない。

魔炎竜のあの膨大な魔力によりルノの|《感知魔術》が妨害されているのだろう。そんなことはわかってる。

だが……だが……。あんな怪物の元に彼が取り残されている。

ルノの感知を持ってしても安否の確認がとれない。


今……動かないでいつ動く。

あの時の悔恨を。あの時の決意を。

今動かなければ全て何もかもが無駄になってしまう。無かったことになってしまう。

それだけは、それだけは許してはならない…ッ!



スイッチが、壊れるほど、深く入った。



「「……ァアアァアァアアァアァッ!!」」

駆け出す。

絶叫とも取れるその雄叫びを上げながら。

強い意志と共に鍛え上げたその体、費やした時間、その全部を……全身全霊を持ってして救い出す為に。

今度こそ助けるために。

今度こそ手を届かせるために。


何の為に今まで努力をしてきたのか。

何の為に血反吐を吐き、なおも立ち上がってきたのか。

その答えを今……ッ!その本懐を今……ッ!実動をもってして証明してみせる。



……だがそれは叶わない。


「アッ……ッ…」

「カハッ…ッ…」



2人が倒れる。

その2人の前にいたのは『迅雷』

その2人の意識を一瞬で刈り取り、倒れる2人を受け止め、そっと優しく地へ寝かす。


「ヘレン……さん」

「全く……私の授業をちゃんと聞いていなかったのかこいつらは……」


その表情優しく憂いを帯びている。


「それは……私の()()だ。……私の役目なんだ…。子供は…安全なところで寝ていろ」


ルノの頭にその右の手のひらが優しくかぶる。

「へ、ヘレンさぁん……ッ」

「安心しろ…ルノ。あいつは私が必ず助ける。これは願望でも希望でもない……事実だ。この命に変えてでも……事実としてみせよう」


ルノに2人の治療を頼み、起きたらすぐに避難するよう伝える。

もうそこに、彼女の姿はなかった。

彼女はその最速をもって駆け出していた。


差し出がましいお願いをしようと思います。


もし何かしらあなた様方の気分を高揚させることができたのであれば……よければ何かしらの評価やブックマークなどいただけると元気が出ます。

それはもう、もりもりと。

もりもりもりもりもりと。


ので、まぁ、ちょこっとそんな感じの気分になったらそう言うノリでポチッとお願い致します。



もし、不快に思われたら申し訳ござぁいやせん。



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