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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
古いものは過ぎ去り全てが新しくなる
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煽ってる場合じゃない

本日の授業は一日中座学。

実践の授業はなく、イランには辛い一日となった。

だが……

「さぁ帰ろうか」

「め、珍しく生き残ってますね…っ!成長を感じます!」


よしよし、とクレアが頭を撫でてくる。事情により詳しい年齢はわからないでいるが、イランよりも年上ではあるため、日々日々彼を甘やかすようになってゆく。


「やっと脳みそが順応してきた感じ?」

「いや……少し考え事をな」

いつものように、悪くないと感じながら撫でられたまま帰りの支度をし始める。

『ちゃんと授業は聞かないとダメですよ…?』という言葉に何か返事をしようとして……

「イラン・オルギアス、あとあんた達も、姉様のことで話があるから、ちょっと面貸しな––––


「あなた、さっきは良くもやってくれたわね」

 

プラムが、今度はウルカを押し退け、強引に3人の前に姿を現す。

完全に無理矢理割り込まれたウルカはただただ茫然とプレムを眺める。

信じられないものを見たとい言った顔だ。



ネプトとクレアが立ちはだかろうとするが片手でそれを制する。

「おや、もう猫被りはやめたのか?お嬢さん(レディ)?」

「はぁ?あんなことしておいて一言目がそれ?!」


激昂する彼女に対し、宥めるように答える。

「あぁ、そうだな。流石にやりすぎた。反省しているよ。謝罪しよう」

想定外の素直な行動に少したじろいてしまうが、すぐに振る舞いを立て直す。

「はっ、公爵家のぼんぼんのくせに下げる頭は持ってんのね。悪いと思ってんならお詫びをよこしなさいよ」


初対面の時とは違う。正々堂々、真正面からの強気な態度、イランからすればなかなか悪くいない。

「詫び…詫びか。良いだろう金でもなんでもくれてやる」

『好きなものを言え』というイランに待ってましたと言わんばかりにネプトを指刺す。

「そいつ、ネプトっていったっけ?その男を私の騎士にしなさい」



「……は?」

自分の仲間(所有物)を寄越せ。その言葉はイランの地雷である。


「私によこせっていってんの!もうこの際、騎士家の男でもいいわ。聞いてるわよ、あなたタロンで序列3位だったんでしょ。じゃあ強さも見込めるし、しっかりしてそうだし、優しそうだし!尻に敷かれてくれそうだし。この前そいつを庇ったみたいに、あたしのことも守ってくれそうだし。更にお金持ちだったらよかったけど……まぁ、そこまでわがままは言わない。でも…妹たちも……守ってくれそうだし。」

『それが一番大事だし』と妹と口にしたあたりからモゴモゴも声が小さくなってゆく。


「……とにかく!そいつで我慢してあげるっていってるの。そいつを寄越しなさい!」

「貴様、図に乗るなよ。()()は俺のだ。口が過ぎると、貴様を切り刻ん––––


「まぁまぁまぁ」

完全にスイッチが入り一触即発な2人を、このままではまずいと判断したネプトが間に入る。

本来はクレアの役割だが、当事者であることと、クレアが完全に熱くなってしまっていることもありその役目を買って出る。


「プレム様、悪いけど俺は(あるじ)様に忠誠を誓って命を捧げてんだ。いくら可愛い女の子からのお願いでもそれは聞けない。代わりになんでもするからさ」

悪い!と手を合わせ頭を下げる。



「おい、ネプトそんな低俗な輩にお前が頭を下げなくていい」

「いいじゃない。その忠誠心。ますます気に入ったわ。どうしてもくれないってんなら、こっちにだって考えがあるんだから……」


そう言い彼女は胸元から白い左手の手袋をイランの胸に叩き付ける。


「決闘よッ!」


その声に、帰宅しようとしていた生徒たちが視線を集わせ、ざわめき始める。



「私が勝ったらネプトをもらう。あなたが勝ったら私の体でもなんでも好きにさせてやるわよ」

聞き捨てならない言葉を聞いたクレアが怒りをあらわにする。

「はぁ??舐めてるんですか?なんですかそれ。ご主人様がそんな下賤な欲とネプトくんを秤にかけるわけないでしょ?ぶっ潰しますよ?」

「キャンキャンキャンキャンうるさいわよ。無駄吠えばっかりして……躾のなってない犬はさっさとハウス(帰り)なさい。私は今こいつと話してるの!」


「犬は貴様だ。欲しい欲しいとばかりに垂らした汚い涎をこちらへ飛ばすな。交渉にすらなってない。失せろ。(エサ)ならくれてやる。気が変わらんうちにみっともなく(むさぼ)っておけ」

売り言葉に買い言葉。次々と合戦を繰りひろげる。



「ご主人様、行きましょう。こんな下賤な者と関わっていても時間の無駄です。イラン様の品位まで下がります」

クレアがイランを出口へ促そうとする。


だがプレムはやめない。


「何?断る気?かのご高名なオルギアス家のお坊ちゃん様が子爵家の小さなお嬢さん相手にしっぽを巻く気?これはこれはご大層なこ明断であらせられること。由緒正しきオルギアス家では、御明瞭なそのお頭に『背を向けることこそが英断』だとでも教え込まれちゃってるわけだ……


プレムは


–––あなたまさか……


不敵に笑んだまま


–––怯え(びびっ)てるの?」


イランを焚き付けた。



「………いいだろう。その安っぽい挑発、特別に買ってやろう。…貴様のその分厚い面の皮に免じてな。ありがたく思え」

静かに、つぶやくように続ける。


「……誰を相手に戯言(たわごと)を抜かしていのか…待てすらできんその利口な頭に新しく叩き込んでやる。うるさく(のたま)う躾のなっていないそのだらしのない口、俺たちの前で一生開かんように調教してやる。ついでに伸びすぎたその牙もひっこ抜いてやろう。牙を剥くことすら叶わんことを知れ。」



「ちょぉっと、まったぁ!」

止まらない言葉のぶつけ合い。その勢いに逆らえないでいたネプトは、話がまとまりそうになっていることにようやく気づき焦ったように身体ごと止めに入る。



イランを連れ、プレムに背を向け2人で話す。

「まってってば!ここで主様が出ちゃったら俺の立場ないって!ここは俺に任せてくれよぉ〜っ!こういう時の為の騎士だろぉ?ここで出張らないでいつ出るよ。あんたの騎士が結構やるんだぞってところ見せつけちゃって、火の粉も振り払っちゃって、主様の面目上げ上げ〜しちゃって、一石三鳥いっちゃいましょうやぁ〜っ!」

いつもと変わらないネプトのふざけた態度を見てイランは少しばかり冷静さを取り戻す。


「……お前を賭けての決闘にお前が出るのか?」

「まぁ、確かに、可愛い女の子と敬愛してる主様に求められるこの状況(シチュエーション)は、ちょっと、かなり、いや結構!うれしいけど……けれども!俺はやっぱり主様の剣でありたいんだよ。それを証明すっからさ。俺のこと信じてくれるっしょ?」

「信じるも何も。お前があの程度に負けるわけないだろう?あの物知らずに世界の広さと言うものを教えてやろうとしてるだけだが……」


イランが本当に不思議雑な顔をしながら言葉を口にする為、それがたまらなく嬉しくなってしまう。

下を向きながら誰にも見えないようにニヤつく顔を必死に隠す。



「……どうした?ネプト」

「話は済んだかしら?」

待ちきれないと言わんばかりにプレムの声が背後からやってくる。

「んじゃま、そのお役目、俺に任せちゃってよ。主様じゃやりすぎそうで見てて怖いしね。」

いつの間にか平然を戻したネプトが少し強めにイランの肩を叩く。



「決まったみたいね。楽しみにしてなさい。これからはそんなむさいやつじゃなくてこの可憐な私がご主人様よ」

「ごめんね!気持ちは嬉しいけど。君の元へはいけないや」

「はっ、もう勝った気でいるの?まぁ精々油断してなさいよ。当日になればいやってほどわかるからせてあげる。あなたに相応しいのは私よ。……たくさん可愛がってあげるわよ」

勝気に笑うプレム。


ネプトを賭けた、プレムとネプトの決闘が始まる。


(あの……あたしは?)

ウルカを取り残して。


拝読ありがとうございます。


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