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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
古いものは過ぎ去り全てが新しくなる
34/71

揶揄ってる場合じゃない①


––––以上。これにて本日は終了とする。しっかりと復習しておくように」

教師が去り、生徒たちの話し声がざわめき出す。


イラン達が入学してから1週間。

「はぁ〜疲れた。机に座りっぱなしってのも案外体力使うなぁ」

「そうですか?クレアは色々知れて結構楽しいです」

感覚派のネプトと理論的なクレアはどうやら意見が合わないらしい。

そんな2人の間でイランはどうしてるかというと……

「qgvなえkan'\にぇ?」

いつものように頭から煙を出していた。

「ま〜た壊れちった」

「ご主人様ぁ〜?生きてますかぁ?授業終わりましたよぅ?昼食に行きましょう?」

「流石に四年もブランクあるときつそうだ」


「あ、あの……っ!」

そんな3人の後ろから1人の女性が声をかける。

「……どなたですか?」

「……」

2人は警戒心を隠そうともせずその女性に猜疑の目を向ける。


イランは自分や大切な人に敵意を向ける者、または怪しいと感じた者にはすぐにスイッチが入り、昔の傲慢とも呼べるような強気な態度で相手を下す。

だが反対に脅威ではないと判断した人間に対しては割と懐が緩い。

それがこの数日の学園生活で判明した。


イランの警戒は物理的な危険性に特化しおり、人間関係や貴族の派閥争い…そういった戦闘以外のいざこざにはてんで興味がない。

これでも公爵家の息子だ、利用しようとする輩は後が立たないだろう。

その為、あれからネプトとクレアは対策を講じた。


人間関係などには2人が目を光らせるのだ。

本人の望まぬところで政略や貴族関係のいざこざに巻き込ませるわけにはいかない。特に女は厄介だと判断している。

イランがダウンしている今はクレアとネプトのスイッチが深く入る。


「あ……す、すみません!私、プレム・フロガルテと申します……っ!」

2人の態度に気付き失礼がないように、としっかり頭を下げる()()()()()()プレムと名乗る女子生徒。


フロガルテ……その名に聞き覚えのあるクレア。記憶を洗い始める。

イランのお付きとして社交界に付き添うこともあったクレアはそれなりに貴族の知識を有している。

確か子爵家の貴族。あまりいい噂は聞かない。金使いが荒く、よくいろんなとこへ()()()()()()いたはず……。


「…で、プレム様…一体なんの用でしょうか?」

余計な面倒を避けるため、女性にはクレア、男性にはネプトが対応しようと決めている為、ネプトは口を出さずに見守る。

「あ、あの。イ、イランく……いえっ!さんっ!あっ、様!イラン様にお話があって!」

うちの主人を舐めているのか?と言わんばかりの2人の視線に刺され、敬称を二回も改める。

「…まぁ、いいでしょう。ご主人様、話がしたいという方が…」

クレアの真剣な声色にすぐさま正気を取り戻す。

「……あぁ、わかった」

チラッとその女子生徒を眺め、2人で話してくる。とクレアとネプトを置いて2人で食堂へ向かった。


そんな2人を見送り、残されたクレアとネプト。

「……あぁ、今日こそお弁当渡そうと思ったのに……」

「恋する乙女は辛いねぇ、姐さん」

タロンの訓練を受けながらも休日を使いひっそりとエフィに料理を教えてもらっていたクレア。肝心の渡すところ(ゴール)まで中々辿り着けないでいた。

「……食べます?」

『いいのっ?』と大はしゃぎするネプトに『後学の為に味の感想教えてくださいね』と渋々渡すのであった。



**



ここ王立魔術学院:ヴァレリオは国内での名門。故に設備にかけられている費用も莫大である。もちろん食堂も無料だ。

だがここに通う生徒は貴族も多い。そんな彼らの格に合うようにと、高級レストランも出店されている。残念ながらそこは通常料金が発生する。

イランはプレムをそこへと案内(エスコート)していた。


「…え?え?私、こんな高いところ……は、払えませんっ!」

「何をいってる。女性との食事で金を出させる男がいるものか。その心遣いは逆に失礼だ」

男のプライドを傷つける。と言い足す。

遠慮しながらも『いいんでしょうか?』という彼女を連れて入店する。


「は、恥ずかしいんですけど…わ、私、食事の作法とか……上手じゃなくて……」

「安心しろ。そんなこと気にしなくていい」

そう言い店員に話をつけ席に案内してもらう。

「こういう席も…あるんですね」

そこは個室、というわけではないが周りに高い壁があり、()()()()()『礼儀作法を知らない平民でも周りの視線を気にせず食事を楽しめる』といったコンセプトの席だった。

ネプトとクレアを連れて何度か来たことのあるイランにとっては手慣れたものだった。

移動中に『食べられないものはあるか?』と先にリサーチを済ませていたイランは案内を受けた時点ですでにメニューを頼んでいる。

彼女には女性に一番人気なものを、と。


しばらくしてゆっくりと運ばれてくる料理に手をつけながらプレムの姿を見定める。

魔力での生成で現れる炎特有の紅。自然の炎ではあまり見られない深い深い深紅の髪。腰あたりまで届きそうなその長い髪は手入れが行き届いていないのか、所々ダメージが見受けられる。

顔のパーツは全体的に丸っぽく、親しみやすく可愛らしいといった印象だ。


食事を続けながらプレムが話しかける。

「あの……あ、ありがとうございます。こんなに、良くしてもらっちゃって」

「何、気にすることはない。この程度、紳士の嗜みだ」

その言葉に少し顔を紅く染める。

「あ、あの、イランく、イラン様」

「イランで良い。そんなに畏まらなくて良いよ」

「え、えっとじゃあお言葉に甘えさせてもらうね。…イランくんはか、かっこいいね。実は私……ちょっと前から気になってて。で、でも公爵家で…家柄ちがいすぎるし……」

チラ…チラ…と、何かを期待するようにイランを見つめる。

「公爵家、ねぇ」

「あ、いや、別に家柄がどうとかじゃないんだけど……気にしなくちゃいけないのは私の方だし」

「俺も君のことは気になっていたよ」

ニコッ、と爽やかに笑う。

数年ぶりの社交界で見せていたイランの外的側面(ペルソナ)だ。

『え?ほんと?!』と嬉しそうに笑顔をつくる。

「気になるついでに一つ質問したいのだが……」

「な、なに?」

上気分のままワクワクするように質問を待ち受ける。そんな彼女に向ける顔。イランはすぐにその仮面を剥いだ。


「貴様、なぜ弱いふりをしている」


「………え?」

プレムの表情はすぐに固まった。




**




イランが思い出したのは数日前のヘレンの授業。


–––『だ、大丈夫?』

『ううん、ありがと。優しいのね』–––


ヘレンがあの不真面目な生徒へ躾を行った時。プレムは他の生徒が反応した頃にはすでに()け終えていた。あのヘレンの移動速度に対し、他の生徒より早く反応して見せたのだ。転け方もわざとらしかった。それがイランにとっては違和感でしかなかった。



「そもそもなぜ俺が公爵家だとわかる」

「え?だ、だってオルギアス家でしょ?有名だよね?」

「皆が知ってるイラン・オルギアスは黒髪だ。あまりにも容姿が違いすぎる。それに俺はここに来る前、4年間行方不明だ。死んだとすらされててもおかしくない。それなのにこの短期間で俺がオルギアス家の人間だと分かったのはなぜだ?」

公爵家の跡取り(むすこか)が4年間、社交界にもどこにも顔を出さない。その噂はすぐに広がる。

ヘレンと繋がりのあるウルカと違い、プレムにはイランの情報を知る術はない。


「え、えっと……それは……」

慌てふためく彼女を尻目に食事へ戻り手を動かし始める。

「まぁ、その辺はどうでも良い。俺が気になるのはそっちじゃない。貴様、本当はそれなりに強いだろう……なぜ隠す?」

「そ、そんな……っ!勘違いだよ…私全然…た、戦ったこ–––

その瞬間、イランの持っているフォークがプレムの瞳目掛けて飛び込んでくる。



瞬間的にプレムの体から立ち上った炎にフォークが弾かれ、金属音を鳴らしながら地面へと落ちた。


「……ハッ…ハッ…」

イランは周りの炎が空気へと溶けてゆくのを見ながら実に楽しそうに息を荒げるプレムを眺める。

無論。目を刺そうなんて思ってはいなかった。

寸止め。

そうするつもりだった。


だが彼女はイランの速度に反応して自らを防衛してみせた。焦りで肩で息をする彼女に拍手をしながら賛美をおくる。

「実に素晴らしい反応速度だ。中々やるじゃないか」

「あ、あ、あんたっ!何考えてんのっ!?私を殺す気っ?もしそうなら受けて立つわよっ!」

「それが素か。強気な態度……そちらの方が素敵だぞ?猫被りのお嬢さん(キャットレディ)?」

「もういいっ!揶揄(からか)われてただけなんて……最っっっ悪っ!」

「おいおい、自分から誘っておいて、勝手に出て行くつもりか?随分とわがままなお嬢さんだ。せめて先程の質問に答えてくれよ」

「……むかつくっ!」

プレムは地団駄を踏むように靴音を大きく鳴らしながら去って行くのだった。


• • • −–−−な、何かございましたか?!」

大きな音を聞きつけウェイターが後からやってくる。

「悪いな、面倒を起こした」

そんな彼に対し謝罪をしながら机に金色の貨幣をおいて、立ち上がる。

「え、こ、こんなにいただけません」

「迷惑料と……食器(カトラリー)の弁償代だ」


高温による融解。

先の変形したフォークを拾いながら、確認するようにそれを眺める。


ウェイターの見送りの声を背で受けながら、先の溶けたフォークを回収して店から出る。

『もうこの店には来れないだろうな』と少し惜しむ気持ちで去っていった。


拝読ありがとうございます。


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