授業に集中してる場合じゃない
そういえば人物の容姿を綴ったことがないなと思い、表現してみました。遅くなりました。
あとこの話だけ読んだ方は、《ep.17:ヘレンの慙愧》と《ep.18:ヘレンの懐古/イチャついてる場合じゃないPart2》だけでも読んでもらうとちょっと楽しいかもしれないです。
「ここか……」
初めての登校。授業に間に合うよう早朝に到着し、寮にて受付と荷物の準備を済ませた3人。それぞれ支度を終え、指定された教室へと向かう。
中は広い講堂のようになっており、奥の席からでも教師や黒板が見えやすいようにと席が後ろへ行くたび高くなっていっている。
中を見渡してみると左腕に違和感。ピリリと少しの痺れのような違和感だ。
なんとなく感じるそれをもとに、視線をやる。そこには端の方で静かに本を読んでいる銀髪の小柄な少女がいた。
まるでそこだけ時が止まったかのような神秘的な空気を纏っている。
白い肌は儚さを感じさせ、本へと向かっている瞳は大きく、そのまつ毛は遠くから見ても長いことがわかる。少し眠そうなその目は開ききってないかのように瞼が並行だ。
丸みを帯びた頬に、ぷっくりとした下唇、丸い顔の輪郭には幼さを感じる。
額を隠す前髪は少し目にかかるくらいの高さでそれぞれ束が作作られており、その分け目から輝くような銀色の瞳を覗かせている。横顔を隠す顎まで届きそうな横髪が、窓から吹き込む風に揺られるたび丸みを帯びたその輪郭が顕になる。風に揺れる銀髪は日光をキラキラと反射させており眩しさを感じる。ふわふわとした不思議な雰囲気で静かに佇んでいた。
「ご主人様〜ここです!ここー!」
「待ってたぜ主様」
なぜか妙に目に留まった少女に気を取られているうちに二人から聞き慣れた声がかかる。
その先には茶髪のミディアムヘアの女の子。こっちを見つめる大きくつぶらな瞳に庇護欲を掻き立てられる。前髪は目の上で揃えられており毛先は少しカールしている。犬のしっぽのように手をブンブンと横に振る動きに合わせて前髪も少し揺れていた。
その横には自分のことを『主様』と呼ぶ薄緑の髪の少年。ふわっと浮くように軽そうな髪には癖があり、跳ねるように様々な方向へ曲がっている。
タレ目で柔らかい印象を与える顔つきは爽やかそのものだ。
どうやらクレアとネプトが出迎えてくれたようだ。席は自由らしく自分のスペースまで確保してくれていた。
「助かるよ、ありがとう」
と二人並んで座るクレアの横へと腰掛け–––
「あんたがイラン・オルギアス?」
その途端、バンっ!とイランの前に机を叩く金髪の少女の姿。腰に手を当て、不遜な態度のまま声をかけてきた。
顔は整っており美人でクールでな顔つき。血色の良い唇は血を連想させるほどに紅く、吊り目っぽい瞳には力強さが込められのている。不機嫌そうな顔つきを隠そうともせず、こちらを見つめるその容姿はきつそうな美人と言ったところだ。先ほどの不思議な印象の少女とは対照的。イランはその顔にどこか見覚えを感じる。
だがその気に食わない態度がそれらの引っ掛かりを置き去る。
「人に名を尋ねるときはまず自分からだと教わらなかったか?厚顔無恥にもこの俺にたい–––ムグッ」
クレアに人差し指で口を塞がれる。
「ご主人様、レディ相手にその態度はめっ!。めっ!ですよ?同じ学園に通う者同士なんですから、こちらが大人な態度というものを示してあげましょう!」
「あんたそれ……フォローしてるつもりっ?!」
「そうそう、大事なのは敵を作らないことだぜ主様。いくらこのお嬢さんがムカつくからって」
「ふざけんじゃないわよっ!バカにしてんのっ?!」
あぁもう!とイラつきを隠そうともせず髪を掻きむしる。
「わかったわよっ!名乗ってやるわよっ!あたしの名前はウルカ・ソル!聞いたことあんでしょっ!」
『ウルカ・ソル』、その名に3人がそれぞれ反応する。
イランは先程の見覚えに確信を得る。
「……似ているな」
「当然でしょっ!あたしはマ……じゃなくて母様と父様とお姉様の子供なんだから!」
『それだと家族関係ぐちゃぐちゃだぞ』そう問いただしたくなるが踏み止まる。一体ヘレンはこの娘に何を吹き込こんでいるのか。
「ああっ!ヘレン隊長の姪っ子さん!ですか!」
「えぇ、そうよ。ヘレンお姉様の姪であり一番弟子のウルカ・ソルよ。あんた達もお姉様に色々と鍛えてもらってるみたいだけれど、私の方が–––
「隊長がよく話してたウルカちゃんか!」
「えっ!?なになにっ!?お姉様私のことなんて言ってたの?!」
感情を180度に反転させ、机に手をつきながらぴょんぴょん跳ねる。まるで興奮したウサギのようだ。実に嬉しそうにその話に食いついてる。
「確か、『あの子の才能は別格だ。私すら超えるだろう。自慢の姪だよ』とか」
「んふふっ。えぇ、えぇ。そうでしょうとも」
うんうん、と腕を組みながら大きくうなづく。
「『大切なあの子のためなら私はなんでもしてやれる』とか」
「んひひひ。えぇ、えぇ。」
「『ぷくぷくのほっぺが可愛すぎて何度喰みたいと思ったか』とか」
「えぇ、え……え?」
「『あの子はきっと美人になる。今からでも悪い虫がつかないように目を光らせておかねば』とか」
「ちょ、ちょっと、まちなさ–––
「『おねしょの隠蔽を頼まれて、ついベッドのシーツを焼いて灰にしてしまった』とか」
「その話はやめてぇええええっ!?」
『なんでっ?なんでそんな話までしてるの?まさかタロンのみんなに話してるの?!ど、どこまで話しちゃったの?!』と深刻そうに頭を悩ませる。
「ぅ、ううぅううう。お、おぼてえきなさいよっ!」
しばらく頭を抱えながら葛藤した後、捨て台詞を吐きながらどこかへと消えてしまった。
「な……なんだったんだ」
イランにはその姿を見送りながらそう呟くことしかできなかった。
**
チャイムがなり授業が始まる。
魔術に特化したこの学園では、魔術のための知識や戦闘方法。そのコツや応用、希少な現象、属性、その特性などさまざまな講義が行われた。4年間森の中で生活していたイランにはなかなかハードルが高く、クレアの助力を得ながらなんとかついていった。そして–––
「以前の講師に変わり、魔術の実践授業を担当することになったヘレン・ソルだ、よろしく頼む」
そこには大戦の英雄でありタロンの隊長の姿があった。
**
後ろからざわざわと雑音が混じる。
『あの英雄の?』『迅雷のヘレン?本物?』『確かタロンっていう機関にいたんじゃ』『ゔっ、ぉおろろろろ』『お姉様ぁあああっ!』など様々な声が上がる。
トラウマを思い出したかのように吐き出す者もいれば熱狂してる者(約一名)。反射で敬礼を行なっているものもいた。クレアとネプトもその1人だった。
「なぜ私がここにいるのか、気になっている者もいるだろうが…それは追々、個人で私の元へ聴きに来るといい。そして私はタロンの隊長としてではなく一教師としてここに立っている。そう構えなくとも良い」
流石に教師として雇われた身。その手にはいつも持っている酒瓶は無かった。
ヘレンの言葉にそれぞれ敬礼を解き、そらした背筋を戻し始める。
生徒達から少し距離をあけたままそのよく通る声で、『まず初めに』と前置き、話し始める。
「私が教えれることは、戦闘に関する事だけだ。そして、教え方も強引になるだろう。先に謝っておく。だが必ず役に立つことを教えるつもりだ。よく聞いておくと良い」
そしてようやくヘレンの魔術の授業が始まった。
「自論になるが、戦闘にあたって必要なことが3つある。」
1つ、情報。2つ、準備。3つ、危機察知。
と三つを挙げた。
『情報』「争いにおいて情報は要だ。相手の情報を知り自分の情報を隠す、これだけでもだいぶ違う。相手の属性や魔術の効果範囲、どんな技を使い何を得意としているのか。相手の数、状況、それらを知ることで有利に働く」
『準備』「情報を集めることも含まれる。それ以外にも心持ち。こちらの油断を消し、身体を高めておくこと。相手より先に準備を済ませば、それだけリードできる。理想は相手の態勢が整う前に万全の状態をぶつけることだな」
『危機察知』「これは常に働かせていろ。警戒を怠るな。いつ、それはやってくるかわからない。そして、勝てないと判断したなら逃げろ。生きていれば何回でもやり直せる。生き延びることを最優先しろ」
「お言葉ですが」
ヘレンの言葉を遮るように、手を挙げた前列の青年が少し怪訝な顔つきで意見を挟む。
「私は貴族です。もし、領民を…民を…襲われた場合、我々が盾となり守るべきではないですか?我が身可愛さに逃げ出すなど……」
その先は言えなかった。
「立派な心掛けだ。尊敬するよ」
何か思うことがあるヘレンは複雑そうなに微笑む。
「あ…い、いえっ」
かの英雄に『尊敬する』と言われ、表情を維持できず少しニヤけてしまう。
「確かにそれは大切だ。だが、それは本来、もっと上の立場のモノだ。貴様らのような子供にやれるモノではない。だがどうしようもない時もあるだろう。貴族でなくとも、大切なものを守るため、助ける為に盾になら無ければなら行こともあるだろう」
クレアとネプトは、強く強く拳を握り締める
「ならばその者を抱えて逃げろ。それすら無理なら時間を稼げ。決して命を賭そうなどと考えるな。最後まで足掻いて命を掴め」
「そして、そうならない為に私が貴様らに戦い方を叩き込む。精々置いてかれないように励むことだ」
『お、ぉおねえさまぁああっ!』という感激の声と共に後ろから1人の大きな拍手の音が聞こえてくる。その姿はもはや熱狂的な信者だ。
先程の青年は、納得したように失礼しました!と頭を下げる。
「っていうかぁ〜、」
そんな中、先程の青年とは違い不真面目そうな生徒がだらしない立ち姿で問いかけてくる。
「ヘレンさぁんって〜…本当にすごいんですかぁ?なーんか…偉そうっていうかぁ〜、身体も……」
ヘレンの袖の通っていない左腕と、眼帯に覆われた右目に粘っこく眼を沿わせる。
「…ぶふっ、ぼ、ボロボロだし、せ、説得力ねぇ〜っ」
ニヤニヤしながらヘレンを侮辱し始める。
その様子に、タロンのしごきを経験した生徒達が恐ろしいものを見たかのように青年へと視線を向ける。
ウルカは『あ"ぁ"っ?!』と鬼の形相で睨みつけ、身体から電流を立ち昇らせる。
「おい、低俗。貴様誰をあい」
イランも、聞き捨てならない言葉を聞き突っかかろうとしたがネプトとクレアに制止される。
当事者のヘレンはふふっ、と微笑みながら呟く
「では、実践しよう」
「へ?」
すでにヘレンはその不真面目な生徒の前に立っており、束にした第二指と三指の指先を彼の喉仏へと触れるように押し込んでいた。
彼らの視線の先にいたヘレンの姿は無く、その場には雷山の残滓がたちのぼり小さくパチパチと音を鳴らし消えてゆく。
その姿はまさに『迅雷』
ヘレンが移動したことにようやく気付いた生徒達が驚き、円を作るように一斉に距離を開ける。
「だ、大丈夫?」
「ううん、ありがと。優しいのね」
後方で、こけた女子生徒に手を差し出す男子生徒。2人の姿を横目にイランはヘレンへと視線を戻す。
「…ひ、ひひひひぃぇぁ…」
その生徒は遅れて後ろへ倒れるように尻餅をつき恐怖に無様を曝け出した。
それを見下しながら、このように、と続ける
「情報不足の上、油断し、警戒を怠ると悲惨なことになる。皆も心に留めて置くように。……わかったな?」
尻餅をつき武様を晒す生徒に念をおすように視線を向ける。その生徒は必死に何度もうなづいた。
「……以上。長くなったが、早速鍛錬に取り掛かろう。まずは基本の強化魔術から始めるぞ」
そう言い、授業が本格的に開始された。
**
生徒達に寄り添い、それぞれに優しく手ほどきする。の姿はタロンの時とは似ても似つかない。タロンの兵士達からは想像もつかない姿だろう。
このまま何事もなく終わるだろう。イランが自分の鍛錬へ集中しようとすると今日初めて聞いたはずなのに、何度目かもわからない声が耳に届いた。
「お姉様!もっと見てよ!ウルカ強くなったんだよっ!もっとたくさん教えてよっ!久しぶりに会えたんだから!もっといいでしょっ!」
「う、ウルカ。だめだ。今私は教師なんだ。1人の生徒を特別扱いするわけにはいかないんだ」
『なんでぇ〜』と『許してくれウルカ〜』というやり取り。それはまだまだ続く。
「だってだって、ウルカは『自慢の姪』なんでしょ?『ウルカの為ならなんでもしてくれる』んでしょ?『ほっぺ』でもなんでも『喰ま』せてあげるから〜っ!」
その言葉にピクリと動きが止まる。
「う……ウルカ、それは一体誰に聞いた……?」
「え?…あの薄緑髪の––––
ウルカはネプトを探し、
「あ、やっべ」
ネプト死を悟った。
そんな2人を無視して暴走を続けるウルカ。
「あ、あんな優男なんてどうでもいいのっ!ウルカ怒ってるんだからねっ!お姉様!お、お、(ぉねしょ)……のこと喋ったでしょ!秘密にしてくれるって、誰にも言わないって、絶対絶対隠し通すって言ったのにぃいっ!」
流石に周りに聞かれるのは恥ずかしいのか『ぉねしょ』の部分だけはこれでもかというほど小声だった。
「……っ!ネプトォっ!貴様ぁああああっ!」
「それに関しては隊長も悪いでしょぉおおおおっ!」
2人の咆哮のような叫び声が重なる。
その後、しばらくしてネプトの悲鳴が鳴り響いた。
イランとクレアはこんがり仕上がったネプトを回収して寮へと帰るのだった。
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