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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
恐怖は突然、そこに降り立つ
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ワクワクしてる場合じゃない


「ハァッ……ハァッ…参ったよ。降参だ」

「……ハァッ、ハァッ…手合わ、せありがとうございました」

イランは座り込んでいるカルロへ手を伸ばし引き上げる。

タロンへ入隊してから、一年が経とうとしていた。


「やられたよ、強くなったな」

「いえっ!まだまだですッ!やっと一本なので!」

(やっと一本……か)

カルロは木剣を握る自分の手を見つめる。

この手合わせは強化魔術のみを使用したシンプルな身体を使った接近戦。魔術を使用した戦闘ならばどうなるか……すくなくともあの夜の時のようにはいかないだろう。


二人を観戦していた隊員達がイランの成長の早さに、それぞれ驚きを示す。タロンのNo.2であるカルロを相手に11歳の子供が一本を取る。

前代未聞なことである。


「あのカルロ相手にたった一年で一本取るとは、末恐ろしいな」

「まったくだねぇ〜、ネプトくんも頑張れよ〜」

「……ぁ、ぁへぇ……」

「あらら、また壊れちゃってんねぇ」

「少し強くしごきすぎたか、ふむ、次はもっと強くしてやろう」

「……ぃへへぇぁ…(そこは優しくするところでしょうがッ!)」

何回か叩けば治るっしょ、と言う恐ろしい一言がどこからか聞こえてくることに心底恐怖する。なんとか逃げようと試みるが死にかけのゴキブリのように体をぴくぴく震わせることしかできない。そんなネプトの襟を掴み、容赦なく引き摺ってゆくタロン兵の女性達。

先輩からのご鞭撻(しごき)に引っ張りだこなネプトを羨ましいと感じるイランも少し異常だ(おかしか)った。


「イラン」

「ヘレン隊長。どうしましたか?」

「次の魔獣討伐、お前も参加しろ」

「い、いいんですか?!」

「構わん。私が面倒を見てやる。好きなだけ暴れるといい」

そう言いながら後ろ手を振り去っていった。


魔獣討伐。

詛戒の森から溢れ出す魔獣を街の被害が出ないようにその場で討ち取る任務。人の脅威になりかねない溢れ出しを楽しみにするのは不謹慎。だがどうしようもなくワクワクが止まらなかった。


ついに《詛戒(そかい)の森》へ行ける。

何度、抜け出し無許可で侵入しようと思ったことか。

初めての魔獣との戦闘。

どんな動きをするのか。

どんな姿なのか。

どれだけ出てくるのか。

まだ見ぬ逆境に思いを馳せる。

脳が歓喜で震える。

「早く発見の報告来ないかなぁ〜」



その日、呑気な考えはすぐに消え去り、あの悪夢に続き第二の恐怖が襲い掛かることをイランはまだ知らない。



**



「なんっ………なんっ…なんで俺までぇ……ッ!?」

「それだけ評価されているということだろ、一緒頑張ろう、な?」

悪態をつくネプトに宥めるように声をかけるイラン。

あれから数日後、報告が届き魔獣討伐の遠征が決まった。向かうのはタロンから約10キロ先の《詛戒の森》

普段朝から20キロのランニングを準備運動としている彼らにとって、そう遠くない距離だった。各自、少なくない荷物を背負い、隊列を組み目的地を目指す。


魔獣の討伐には早くて3日長くて1週間かかり、その間ほとんど眠る事などできない。

過酷を極める遠征。本来は非正規員のイランとネプトに随行許可は降りない。

だが実力を鑑み、特例として参加させることとなった。イランに隠れているが、ネプトの実力も相当なものに仕上がっていた。可愛が(鍛え)られる日々が攻を成したようだ。


「なんでお前はそんな平然としていられるんですかぁっ?!魔獣だよッ魔獣ッ?!しかも魔領から出てくるやつっ?!絶対ロクでもないよっ!」

目が飛び出そうな勢いで、どれだけ危険かを説いてくる。

その姿は必死そのものだ。

「嫌だよぅ、怖いよぅ、恐ろしいよぅ、せっかくヘレン隊長の目を盗んでルノちゃんといちゃできるとおもーー


その瞬間、ゾクリ、と背筋が凍る。


「ねぇぷとぉ……私の采配に文句をつけるのか、随分と偉くなったじゃないかぁ。私の目を盗んで、ルノに何をするつもりだったのか、その高尚なお口で教えてくれないかぁ?」

「ヒッヒッ、ヒェッ、な、な、なななななんでもないですッ!とんでもございませんッ!ルノちゃん様はイランとお似合いで万事解決ですッ!ひゅみましぇんッ」

「ふんっ、それで良い。初日から伝えているが、私の命令には逆らうな。わかったな?」

「ハッッ!」

と一年前と比べれば瑞ぶと様になったネトトの敬礼姿を見ながら、『それ(お似合い)……でいいのか?』と二人のやり取りに引っかかる。

「おい、見えてきたぞ」

そんな緊張感のない会話を続けているうちに見えてくる。

その先に広がる異様な光景に生唾を飲み込む。

「……あれが、


《詛戒の森》


       」


「ひっ、ヒェェ」

ネプトが情けない声を出すのも仕方がない。

溜まりに溜まった瘴気が?淡紅色(ピンク)と紫を混ぜたような赤黒い色の(もや)を周囲に撒き散らし、悍ましさを視覚で伝えてくる。まるで腹を空かせた獣が垂らす涎のように、粘っこく地面へと広がっている。その色と粘度は瘴気の濃度の深さを物語る。視界を遮り、たった数メートル先の景色さえ歪ませる。


「ヘレン隊長ッ!」

「ヘイゲルか……偵察ご苦労」

タロンには実働部隊の他、彼らのような偵察部隊も存在する。彼らは戦闘ではなく、広範囲魔術を使用した魔力による探知を得意とする。

交代しながら常に詛戒の森に目を光らせ、異常がないかを確認している。


「目標は変わらずか?」

「はい、大型と中型の二体、こちらへの接近反応があります」

魔領に住む生き物はその危険な為、まだ解析が進んでおらず、初見の魔獣が現れることもざらにある。そのため魔力探知では種類の特定までは至らない。

「ふむ、雌雄で体格差のある個体か、餌として襲われた中型を追いかけるように大型を引き連れてきた……か?現在の距離は?」

「現在3キロ先ですが、こちらへゆっくりと接近を続けてます。このペースでいけば残り15分ほどで到着します。」

「速度はそこまでない、ならば少なくとも敵対関係ではないな……よし。お前達は所定の位置へ戻れ」

偵察部隊の隊員、ヘイゲルが下がり、ヘレンは隊員達に向けて口を開く。


「皆のもの聞けぇぇえっ!」


いつもより大きい怒号がタロン兵達へと響き渡る。

そのままヘレンは先程の情報を伝令する。


番や共生関係にある場合、連携を組まれたら厄介なことになる可能性が高いこと。

会敵次第、分断、各個撃破すること。

片方が強化(バフ)弱体化(デバフ)の役割を担う後方支援型(サポート)型の場合、そちらに戦力を多めに割き、優先的に討伐すること。

もう片方は時間を稼ぎ無理をしないこと。

そして、想定外のことが起こりうるため、臨機応変に対処すること。

油断はするな、気を引き締め、脳を働かせ、生命を握れ、そう激励される。



魔獣に準え、隊列を組み、皆、一様に構え始める。

ネプトは雰囲気に呑まれ、恐怖で

イランはワクワクで、両者震え始める。

そんな二人を見越して、ヘレンは前を見つめたまま隊員に伝える。


「安心しろ、私がいる限り誰も殺させん。私は……


『敵、きます!』

拡声魔石からの声と共に地鳴りが近付いてくる。


……ヘレン・ソルだ。『英雄』であり、貴様らの隊長だッ!」


タロン兵と二体の魔獣が会敵した。


拝読ありがとうございます。


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