萎えてる場合じゃない
ようやく初めての戦闘描写です。
難しいですネ。
本日二回目のノック。
ルノが何か忘れ物をしたのか?と今度は自分が扉を開く。
そこには少女ではなくカルロ率いる青年たちが佇んでいた。
「やぁ、こんばんはイラン」
「こんばんは、こんな時間にどうなさいましたか?」
「鍛錬の時間だ」
「…は?」
と呆気に取られているイランの腹部目掛けてカルロの拳が放たれ––––
バチン、という手のひらと拳の音が響く。
イランの小さな手のひらがカルロのゴツゴツとした拳を覆う。
「あの……これは一体どういう…?」
この程度、脅威に感じていないのか、余裕とも取れる様な態度で問いかける。
「はぁ、やはりお前は一筋縄でいかんな。まぁどうせ好んで付いてくるだろうからいいか」
こうしたほうが早いだろうからな、と観念した様に話し始める。
「これから俺たちとお前で実践の稽古だ。訓練室へ行くぞ」
その言葉に目を輝かせるイラン
「行きます!是非お願いします!!」
即答だった。
**
「さて、稽古を始める前に一つ言ってこう」
訓練用の服に着替え、木剣を取り出し訓練室で準備を行いながら、カルロが口にする。
「今からする稽古は3対1で行う。もちろんお前が1だ。手心は加えない、本気でお前をぶちのめす。」
10歳の少年相手に成人済の青年が3人で束になって襲いかかる。ただのリンチとも取れる様な内容。
そう、これはまともな稽古などではない。
最後の洗礼である。
この洗礼は慣れてきた頃、一ヶ月ほど経った頃に行われる。自分はまだまだなのだと身体に直接教え込む。
そういった趣旨を含む最後の通過儀礼。
そんな理不尽な内容に、当然イランは––––
––心を躍らせていた。
予想通りの反応にカルロたちはため息をつく。
本来彼らも年端も行かない少年を痛めつけるのは自分の心も痛む。
だがイランに限っては違う。日々の鍛錬の姿を見てればどうなるか容易に想像がつく。自分たちのストップを無視して縋り付いてくるだろう。この洗礼も何度か経験のある彼らだが今までで1番心が重い。
「あの!魔術の使用は許可して頂けますか?」
そんな彼らの気持ちも知らずにワクワクとしながら質問を投げかける。
いつもの実践稽古とは違う圧力を感じ、気分が高揚している様だった。
「当然だ、だが俺達は強化魔術の使用のみだ。お前の様なガキ相手に3人でも大袈裟なんだ。これくらいの枷はやらないと勝負にならん」
「えっ……」
悲壮感の漂う残念そうな顔をするイラン。
その顔を見てカルロ達もうんざりした表情になる。さっさと終わらせて部屋で休もう。
そう心に決め––––
「構えろ、イラン。始めるぞ」
「はい!お願いします!」
––––稽古を始めるのだった。
**
怒涛の剣撃がイランに降り注ぐ。四方八方からこちらに向けて振り抜いてくる。
普段から魔獣を狩っているタロンの兵士。その連携は凄まじい。
だがイランもやられっぱなしではない。
オルギアス家から授かる魔術の属性。それは魔力を介し独自の金属を生成・操作する魔術。光を吸い込む漆黒の金属。
その色から彼らの生成する金属には、『黒鉄』という名称が与えられていた。
それを巧みに扱い戦術へと昇華する。
死角からの防御。黒鉄を足場に生成し、足場にする立体的な機動。大振りの後の隙を埋める巧みな生成技術。
それらを駆使し縦横無尽に部屋の中を駆けまわる。
多数対一の場合、今の自分では囲われたら抵抗できない事は理解していた。それ故に的を絞らせない素早い動きで翻弄し、攻撃と撤退。
それを繰り返す。
自分の体の小ささを逆に利用する。強化魔術を全力で施し、死物狂いで駆け抜ける。
全力で駆け、全力で攻撃をする。
その繰り返し。体力スタミナの温存など頭にはない。
だが相手はタロンの兵士。鍛え抜かれた精鋭達。実践経験もイランとは比べ物にならない。
本来の定石であれば背中合わせで死角を無くし、迎撃する。
だが相手はたかだか10歳の子供。シンプルに身体能力でねじ伏せるのみだった。
カルロは駆け回るイランに追いつき足を掴む。即座に反応したイランは身体を拗らせカルロの顔面目掛けて木剣を振る。が––––
もう一人がそれを受け、またもう一人が無防備なイランの腹に目掛けて拳、渾身の一撃が炸裂し地面に打ちつけられる。
「カハッ」
イランの口から胃液が飛び散る。
クッキーまだ食べてなくて良かったなぁ、などと悠長な思考はすぐに消え去り、防御体制を取らされる。木剣が体のあらゆるところに降り注ごうとし––––
黒鉄に阻まれる。
自分の全体を球体状に覆う様に黒鉄で防御する。今のうちになんとか体制を立て直そうとするが……
「退け、俺がやる」
そう甘くもない。カルロがその黒い球体に掌を当てる。するとヒビが入り
「…フンッッ!」
粉々に砕け散った。飛び散った破片がカルロ達の視界を奪う。
生成。
黒鉄の塊が3人それぞれに向かって伸びてくるのを破片の隙間から視認する。背をのけ反らせ、避ける。後退しながら先ほどの場所に目を向ける。
イランを見失う。
上から気配––––
降り注いできた木剣を受け、他の二人が即座にカウンターを仕掛ける。
イランはそれを鎧の様に身体を覆った黒鉄で受けるが、空中故に踏ん張りは効かず、そのまま吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
「ハァ……ハァ……」
土埃が舞い上がり視界が濁る。その煙の向こうでイランはつぶやく。
「た、…たまんねぇ……ッ!」
その表情は興奮と愉悦に塗れていた。
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