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悪虐してる場合じゃない!  作者: 人間になるには早すぎた
恐怖は突然、そこに降り立つ
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病みつきになってる場合じゃない

オドオド、自信ない系コミュ障インキャヒロインって【良い】ですよね。

あれから1週間が経った。

5人いた新人、その内の3人が脱落(リタイア)していった。

本来は三ヶ月間は脱落など認められないタロン。

だがあまりにも、心が折れ焦燥しきった様子に、ヘレンも「ほんっとうに最近のガキどもは……ッ!!」とブツクサ文句を吐きながら例外中の例外として、脱退を認めた。


ヘレンも子供達を潰したいわけではない。

もし再起不能になればその家族である貴族達との軋轢が生まれる。

何より命を奪うのと同等の行為になる。


タロンが甘い機関だと思われるのは好ましくない。

だがヘレンも子供達の未来を摘むことなど望んでいはない。

ゆえに苦渋の決断で彼等を見送った。



残ったのは、意外にも初日の洗礼で木剣をその身に受けた2人だった。

つまり、イランともう1人の少年、ネプト・ディートリッヒという名の少年の2人だけだった。


なぜ残ったのかイランが尋ねると

『え??帰ってよかったの??帰っていいの?!帰りたいんだけどぉお!!!』

と脱落した3人の後を追いかけようとしたが、ヘレンが許してくれるはずもなかった。

『わめく元気がそんなに残っているとは、貴様もまだまだ余裕がありそうだな』とまるで獲物を見定める猛禽類のような鋭い瞳でロックオンされていた。


ヘレンの溜まりに溜まったストレスが2人に集中してしまっているのだ、そうそう逃がしてはくれないだろう。


ルノとも話す機会は増えた。

話すことに慣れてきてもあの早口、小声、吃りは解消されていない。

あれはもう彼女の個性だ、とイランは適応する形で受け入れることにした。


ちなみにそんな2人の日々の光景を見たネプトは


『お前お前お前!!何考えてんの!!?何ふざけちゃってんの!?!自分だけだけだけだけぇっ?!可愛い女の子とおしゃべりしちゃってんのォ?!!!テメェふざっ、けんじゃねぇッ!!ふざっ、けんじゃないヨォッ!?毎ッ!日毎日!!毎ッ!日毎日!!鍛錬の恐怖に苛まれる俺の気持ちも考えろぉ!!俺のこと嫌いか?!??お前俺に恨みでもあんのか?!俺たち友達じゃないのかッ?!一緒に苦境を乗り越える同士じゃないのかッ!?普通紹介!紹介するよねぇッ?!何自分だけ楽しんじゃってんのォ!!?癒されちゃってんのォ!!!?オアシスを独り占めしちゃってんのぉぉおッ?!俺にも紹介しろやこんっの鍛錬中毒者(ワーカーホリック)がッ!!お前に女の子はもったいないんだよッ!!!』

と憤慨しながら迫ってきた。

ネプトは鍛錬中、いつも早々にリタイアしていたためイランと比べると怪我も軽傷。

どうやらルノとは顔を合わせることは今まで無かったらしい。


面倒に感じつつ紹介したら『ご、ご、ごごごごめんなさい、貴方とは、あ、あんまり……話、したくない、です……』

と見事にぶった斬られていた。

ルノは気弱ではあるが好き嫌いが激しく、嫌なもの嫌とはっきり断れるタイプだった。


普段のネプトの鍛錬中の態度は

泣き(わめ)

駄々をこね

気を失ったふりをしてやり過ごそうとしている

不真面目で姑息な手を使う男だった。


だがまだイランと同じ10歳。

タロンの厳しい鍛錬を考えればそういう態度をとってしまうのは仕方がない。

むしろ毎回乗り気なイランの方がおかしいというものである。

だが2人揃って鍛錬しているとどうしても見比べてしまう。

イランの姿を憧憬、尊敬の目で見つめるルノにとって、真逆の態度のネプトはどうしても情けない姿に映ってしまう。


鍛錬に励むイランはキラキラとしていて、眩しくてかっこいい男の子。


かたやネプトはナメクジの様に地面を這いずり、情けない姿を晒すみっともない男の子。


そういう、ある意味残酷な認識になってしまっていた。

もちろんルノがあの鍛錬についていけるわけがない。だからネプトを責められる立場にはないのだが…

彼女の中では、

好きなものは好き。

嫌いなものは嫌い。

という感情的な分別がくっきり別れている。

女の子は存外、身勝手で残酷なものなのである。


イランにとってはそんなことどうでもいいことである。いきなりグイグイ行きすぎたのが良くなかったんじゃないか?という適当なアドバイス(とどめの一撃)置いて(刺して)その日は就寝した。

ネプトの心は風に吹かれてゆく砂の様に散っていった。



**



あれから何事もなく死力を尽くす鍛錬の日々が流れる。

限界を迎え倒れても起き上がり、置いてかれない様に縋り付く。

ヘレンがストップをかけてもついて行こうとし、電撃を浴びせられ気を失い、起きたらルノに世話をしてもらっている。


何度も電撃を喰らってるうちに耐性ができ始める。

また更に避けることも成功し始める。

度々、ヘレンの制止(ストップ)に対し抵抗をするがそれに合わせてより速く、より強く、より正確な電撃が降ってきた。

当然だがまだまだヘレンはイランに対し加減を行なっている。強制送還から逃れることはできない。

そんなルーティンを何度も繰り返している。



ネプトは『限界まで頑張って怪我すればルノちゅわんと会えるぅうううう!!!』

と、不純極まりない動機(モチベーション)で精を出していた。

だが不純でもここまで行けば立派なもので、実際その動機のみで厳しい鍛錬についていき始める。

ここまで来れば才能である。

ルノには嫌われ続ける一方だが。


そんな日々を過ごしながら、何度も面倒を見てもらっていることに対し申し訳ない、とルノに感謝を伝えると、『い、い、いいいいんです、ほ、他の方は、が、頑丈すぎて……あ、あ、あまりこちらに、ここここ、来ないので、ね、ネプトさんは、ちょっと、う、うるさい、けど……わ、わ、私!今、すごく、役に立ってる…!!って、感じがして、し、し、幸せ、です………!役に、た、た、立ってます、よね……?』

という感じでもじもじしながらも、なにやらやり甲斐のようなものを感じて楽しそうにしている。

お言葉に甘えつつ、タロンの正規隊員と自分との差に歯噛みしながら治療を受けていた。


驚くことにルノの魔術適性は闇属性なのにも関わらず、治療の魔術を使えるらしい。

本来、治療魔術は光の属性を持つものにしか与えられない希少価値の高い技術。

それを反対属性を持つルノが使用しているのだ。

自分はまだまだだ、とイランがその才能に嫉妬する程だった。

負けていられないな、と動機(モチベーション)の昂りとともに鍛錬に精を出す。


本来人生にそう多くもないはずの死線を強制的に作り出し、その上を目隠しで綱渡りしていくような日々。

限界を越えるたび体が強靭になっていくのをイラン本人も感じていた。



その感覚にイランは、すっかり耽溺していた。



もはや依存と言ってもいい。強くなる度にあの恐ろしい夢を払拭出来る気がしていた。

強さを得る度にあの予知夢にも似た光景から逃れられる気がしていた。

壁を乗り越えるたびに力が増していく。


その感覚に溺れていった。


新しい鍛錬内容を課される度に、今回はどこまで追い詰められるのだろう、と例の気色悪い笑みを浮かべながら喜んで身を投じていくイラン。

その姿を見てヘレンも嗜虐心に溢れた(サディスティックな)笑みを返し、イランを追い込む。


一緒に鍛錬している人間からすれば気味が悪すぎるその光景も徐々に見慣れていき、今ではすっかり日常風景と化していた。

そんな周りとは対照的にイランにとっては新鮮で刺激溢れる毎日。

次はどんな試練が待ち受けているのだろう、とピクニック前の幼子の様な、サンタさんからのクリスマスプレゼントを心待ちにするような、待ち遠しいワクワクの連続だった。


そしてその日はやってきた。

イランの望む––––


苦境。

逆境。

断崖絶壁。



新たな洗礼(試練)である。


拝読ありがとうございます。


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