怠けてる場合じゃない②
「あ、あの……なんなのですかあれは……?」
まだ幼さが残る少女は指を刺し問う。
そこにはヘレンが生成した光玉が三つ浮かんでいた。それはバチバチと弾けるような音を鳴らせながら時たま放電を行なっておりわ近づけばただでは済まないことは実践経験の少ない少年少女らにも容易に想像できた。
「ふむ、初めての貴様らには一応説明してやろう」
誇らしげに語る。
「あれは《フローライトニング》我がソル家に伝わる雷魔術の一つ。生物の放つ微量な電磁波に反応して自動で電撃を放つ。」
少年少女らに怖気が走る。それを察してか、付け加えるように『あぁ、安心しろ』と説明の補助をする。
「倒れられては意味がない。威力は抑えてある。そう簡単に失神することはない。ただ死ぬほど痛いだけだ。今回はそうだなぁ……カルロ!貴様だ」
指を刺されカルロという青年が返事をしながら敬礼を行う。
「あの男の300メートル後ろをついて行くように設定しておく。放電感知の範囲は半径10メートル程にしておいてやろう。つまりあの男から290メートル差を付けられれば楽しい電気マッサージを味わえるというわけだ、光栄だろう?ちなみに一つは別にグラウンドの中心に固定しておく。くだらん怠心でコースから外れ、楽をしようとした奴にはこいつからキツい一撃が見舞われる」
怯える少年少女らとは正反対に実に楽しそうにニヤつきながらわざと詳しく説明をするヘレン。
「ゴールが分からなければ苦しいだろう?走る距離を教えておいてやろう。このグラウンドを20週だ」
この外部訓練場は一周約1キロ程ある、つまり準備運動に、魔術無しで20キロ走れと言われているのである。その距離は見た目だけでは想像も付かず、今日初めて訓練に参加する彼らには途方もない距離だということしかわからなかった。
ついて行く、以前の話しである。
「それでは配置につけ」
だが、時は待ってくれない。絶望が忍び寄る。
「ま、待ってください!いくらなんでも––––
「なんだ貴様、何もできない分際で一丁前に文句か?たかが準備運動で?」
わざとらしく木剣を振り、空を切りながら近付いていく。
先程、少年が木剣で腹を打たれた光景が脳裏に過ぎる。
「ヒィッ!すみませんっ!なんでもないです!すみませんっ!」
「はっ、最初からそうしておけ、無駄な時間を取らせるな、あのガキを見習え」
そうして刺した先には、先輩に習い、すでに配置についているイランの姿があった。その表情はなんとも奇妙で、怯えながらもニヤ付きを抑えらないような、気色の悪い表情だった。
その表情に困惑しつつ他の子供達も渋々並び始める。
「それでは、始め!!」
ヘレンの号令と共に、走り出す。
地獄の鍛錬が始りだ。
そこからは幼い声の悲鳴が響き続けた。後ろから迫ってくる電撃を放つ球体。自分たちのことなど気にも留めずどんどん走り進むカルロ達。電撃が放たれるたび強烈な痛みが体を襲い、いっそ気を失ってしまいたい。
だがヘレンが言ったことは本当のようで、実に巧妙に威力の制限がされており、電撃のダメージで気を失うことはなかった。
当然、ひと回り近く歳の差が離れているカルロ達のペースで走り切ることなど出来ず、次々と体力の限界を迎え、リタイアして行った。
ただ1人を残して。
拝読ありがとうございます。
評価・コメント・ブックマークお待ちしております。
ワイのモチベ向上にご協力お願いいたします。