逃避行編 1 接近中
プロローグから半年ほど遡ります。
半年前———— テトイミナ南東の果て ヨツバ村
朝日が昇り陽光が村全体を包み始める中、一人の青年が眠りから目を覚ました。
赤黒い瞳がゆっくりと見開かれる。
窓から入り込む光が彼の灰色の髪を照らす。
窓の光を見つめながら一日の始まりを実感していた。
彼の名は”ロム”
ベッドから起き上がり、服装を整える。
「お兄ちゃーん、朝ごはんできたよー」
元気な声が家中に響き渡る。
それを聞いた青年はのろのろと階段を下る。
「あ、兄ちゃんきた」
「おはようロム。朝ごはんできてるよ」
弟のシムと義母のネーレが座って待っており、
テーブルには湯気の立つシチューと焼きたてのパンが三人分並んでいた
ロムが腰を下ろすと、同時に三人は手を合わせる
『いただきます』
弟は勢いよく食べ始める
「シム!お行儀悪いよ。もっとゆっくり食べなさい。前も言ったばかりでしょ」
すかさずネーレが注意する。
シムは「はーい」と腑抜けた声で返事し、徐々にペースを落とす
「それでよろしい・・・ん・・どうしたのロム?顔色悪いけど」
「たしかに今日はいつにも増して死んだ魚みたな目になっているよ」
シムが茶化すように言うと、ゴクりとパンを飲み込んだロムは話す
「ちょっとした悪夢を見ただけだよ。体調が悪いわけじゃない」
「そう・・それならいいんだけど・・・」
半ば不安そうに返事をする。
悪夢と聞いた瞬間目を輝かせたシムが椅子から立ち、体を前のめりにして尋ねる。
「ねえねえどんな悪夢を見たの?気になる気になる」
「シム、あまりそういうのは聞かないの。本人が悪夢って言ってるんだから、嫌なことを掘り返されることっていい気分しないよ」
シムの表情が、がっかりとした表情に一瞬にして変わり、ゆっくりと座る。
その後、ネーレが二人を見ながら口を開く。
「ねぇ二人とも、そろそろ薪がきれそうだから取ってきてくれない。お願い!」
かすかに微笑みながら両手を合わせて二人に頼み込む。
シムは大きく手を挙げ「はーい」と元気な声で即答し、ロムは俯きながら小さくうなずく。
3人とも朝食を食べ終わらせ、2人は洗濯の準備をする。
「お母さんはこれからどこかに行くの?」
シムがネーレに尋ねる。
「うん。いい野菜が大量に採れたって聞いたから貰いに行こうとおもってさ」
大きな袋を準備しながら言う
「野菜か~野菜よりお肉がたくさん食べたいんだけど・・」
「それじゃお肉も貰ってくるようにするわね」
「やったー!」
洗濯をしに2人は川へ行こうと家を出ようとした瞬間、ロムが振り返り義母のもとに戻る。
「義母さん。大丈夫だと思うけど、今日は警戒を強めておいてほしい」
ロムは真剣な眼差しで母へ頼みを乞う。
ネーレは悪夢のせいだと察しながら、優しく声をかける
「大丈夫だよ。私の探知には誰も引っかかってないから。でもそうだね、ロムがそう言うなら強めておくよ」
ロムを安心させるためロムよりも低い背で頭をなでながら話す。
「ありがとう・・・」
目を俯かせながらそれだけ呟きシムのもとへ戻った。
2人が薪割り場へ向かうのを見送ってからネーレは野菜と肉を貰いに家を離れる。
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