ナナ&カズマとの出会い
カグヤが教会に到着した時、そこはすでに騒乱の渦中にあった。石造りの重厚な扉は破壊され、内部からは剣戟の音と、悲鳴が響き渡っている。埃っぽい空気と、血生臭い匂いが入り混じり、周囲の状況を五感で感じ取れるほどに、その場は緊迫していた。どうやら、教会の人間が何者かに襲撃されているようだ。
「おいおい、退屈してる暇もなかったってわけか」
カグヤはニヤリと笑い、ためらうことなく教会へと足を踏み入れた。内部は、かつての神聖な雰囲気を失い、血と破壊に彩られていた。騎士らしき集団が、教会関係者であろう人々を追い詰めている。金属がぶつかり合う甲高い音と、魔法の詠唱が飛び交う中、カグヤは標的を見定めた。
「ったく、邪魔ばっかりしやがって!」
カグヤは、騎士たちの一団に向かって、容赦なく爆裂魔法を放った。《爆裂!!》轟音と共に騎士たちが吹き飛ばされ、一瞬にしてその場は静寂に包まれた。焦げ付いた土の匂いが、その場の混沌を物語っている。
その爆発の煙が晴れると、カグヤの目に飛び込んできたのは、一人の少女だった。白を基調とした神官服は血で汚れ、その手には短剣が握られている。彼女は、騎士たちから身を隠すように柱の影にいたが、カグヤの爆裂魔法によって窮地を脱したようだった。その瞳は、まるで深い森の奥底のような色をしていたが、同時に、鋭い光を宿していた。
「あ、あなたは……!?」
少女は驚いたようにカグヤを見上げた。その声は震えていたが、その奥には強い意志を感じさせた。彼女こそが、聖女ナナ=アイゼルだった。しかし、ナナはただの聖女ではなかった。彼女は毒殺に長けた暗殺聖女であり、実は教会に裏切られ、追われる身となっていたのだ。
その時、もう一人、奇妙な男が物陰から現れた。その男は、チャラチャラとした服装に身を包み、手にしているのはなぜかバラの花束だ。
「おや、そこのお嬢さん。こんなところで一人かい?僕と一緒に、夜の街へ繰り出さない?」
彼は、戦闘が終わったばかりの血生臭い状況にもかかわらず、ナナにナンパを仕掛けていた。ナナは、冷たい目で彼を一瞥すると、手にした短剣を突きつけた。
「近づかないで」
男は、バラの花束を落とし、がっくりと肩を落とした。彼こそが、勇者カズマだった。しかし、彼は「ナンパに失敗し続ける軽薄勇者」という肩書きとは裏腹に、実は失恋から立ち直れず、「女心勉強中」なガチ恋男子だった。
「ちくしょう、また失敗か……」
カズマは、項垂れながら呟いた。カグヤは、そんな二人の様子を面白そうに眺めていた。ナナの、内に秘めた心情や葛藤が垣間見え、カズマの行動の裏にある赤裸々な心情や欲望も深く掘り下げて描かれる予感がした。
「あんたたち、何やってんだい?」
カグヤが声をかけると、ナナは警戒心を露わにしながら、カズマは情けない顔で、それぞれカグヤを見た。ナナは、カグヤの爆裂魔法が自分を救ったことを理解していたが、同時に、その圧倒的な力への警戒心も抱いていた。彼女の内面的な葛藤が、その表情に現れている。
「私はナナ。この教会に仕える聖女……でした。あなたに助けられました。感謝します」
ナナはそう言って、深く頭を下げた。その言葉に、偽りのない感謝の念が込められているのがカグヤには分かった。
一方、カズマは、カグヤの姿を見るなり、そのナンパ癖が発動した。
「おや、そこのお姉さん。まさか、今の爆発を起こしたのは君かい?こんなところで会えるなんて、運命かな?」
カグヤは、呆れたような視線を彼に向けた。
「あんた、学習能力ってもんがないのかい?それとも、生粋の馬鹿か?」
カズマは、カグヤの辛辣な言葉にもめげず、バラの花束を拾い上げて再び差し出した。
「いやいや、これは僕の使命みたいなもんでね。女心ってやつを勉強してるんだ」
その言葉に、ナナが冷たい視線を向けた。
「女心を勉強するなら、まずは相手の気持ちを考えるべきですわ。この状況でナンパとは……」
カグヤは、ナナとカズマの間に流れる奇妙な空気を面白そうに感じていた。この二人、何かある。彼女の直感がそう告げていた。
「ま、いいさ。とりあえず、ここじゃ話もできないだろ。場所を変えるぞ」
カグヤはそう言って、二人を促した。ナナは、警戒しながらもカグヤの言葉に従い、カズマは、カグヤとナナという二人の女性に囲まれている状況に、内心ニヤニヤしながらついて行った。