爆裂姐御、爆誕
「くっそ、最悪のタイミングじゃないか!」
カグヤは悪態をつきながら、とっさに身を低くした。しかし、彼女のすぐ近くに、片方のマフィアの一員が振り上げた刃が迫る。反射的に、カグヤは手に力を込めた。体内に、あの「禁呪書」から流れ込んだであろう、得体の知れない力が満ちるのを感じる。
「うるさいね!こっちは寝起きなんだよ!」
彼女は叫びながら、その力を解き放った。
《爆裂!!》
カグヤの掌から放たれたのは、強烈な光と、全てを飲み込むような轟音だった。それは、まさに天地を揺るがすほどの爆発。マフィアたちは何が起こったのか理解する間もなく、その衝撃波に吹き飛ばされる。肉塊と瓦礫が宙を舞い、瞬く間に、抗争の場は静寂に包まれた。焦げ付いた匂いが一層強くなり、土の匂いと混じり合う。
煙が晴れると、そこにはクレーターのように抉られた地面と、意識を失って倒れるマフィアたちの姿があった。カグヤは、ふう、と息を吐いた。
「ったく、派手にやりすぎたか?」
その時、瓦礫の陰から、恐る恐る数人の男女が姿を現した。彼らはこの都市の住民なのだろう、皆、痩せ細り、その顔には飢えと疲労の色が深く刻まれている。彼らは、カグヤと、その背後に広がる爆発の痕跡を交互に見て、目を見開いた。
「な、なんて力だ……」
「ま、まさか……救世主様か!?」
住民の一人が、震える声で呟いた。その言葉に、他の住民たちもざわめき始める。彼らの目は、恐怖と同時に、希望の光を宿していた。この都市は、長年にわたるマフィアの抗争と、魔物の脅威に苦しめられてきたのだ。彼らは、カグヤの起こした爆発を、天からの恵み、あるいは新たな秩序の到来と解釈したようだった。
その中に、抗争に巻き込まれていなかった、マフィアの生き残りのような男が、血を吐きながら這い出てきた。彼はカグヤを見上げ、その目に狂信的な光を宿した。
「姐御ォ!あの爆発……美しかったス!!」
男は、全身から血を流しながらも、崇めるようにカグヤに膝をついた。その言葉に、カグヤは呆れたような、しかしどこか満足げな笑みを浮かべた。
「うん。アタシ、ここ気に入ったかも!」
カグヤは、見上げた空に二つの月が浮かんでいることに気づいた。赤と青の、奇妙な光。この荒廃した都市「アーク・ディストピア」で、彼女は新たな居場所を見つける予感がした。彼女の心臓が、高鳴っていた。これは、始まりだ。
よっしゃ、アーク・ディストピア!今度はアタシが、このクソ世界の秩序ってやつを、逆にしつけてやる!