異世界アーク・ディストピアへ転移
カグヤが目を開けた時、まず鼻腔をくすぐったのは、焦げ付いた肉の匂いと、鉄錆のような血の匂い、そして微かな土埃の混じった、不快な空気だった。耳元には、金属が打ち合う甲高い音と、爆発の轟音が響いている。ゆっくりと視界が定まると、彼女は自分が瓦礫の山の中にいることに気づいた。周囲には、煙が立ち込め、視界の悪い中でも、辛うじて周囲の状況が理解できた。ここは、どこかの都市のようだ。しかし、その光景はあまりにも荒廃していた。崩れ落ちたビル、ひっくり返った車両、そして、そこかしこに転がる、血に濡れた残骸――。
「くそっ、ここは一体どこだ……?」
カグヤは呻きながら体を起こした。まだ全身が痺れるような感覚がある。ウーゴとバイの姿を探すが見当たらない。その時、すぐ近くで怒号が響いた。
「てめぇら!よくも俺たちのシマを荒らしてくれたな!」
「ふざけるな!そっちこそ、先に手を出したのはどっちだ!」
カグヤの目の前で繰り広げられていたのは、まさにマフィアの抗争だった。二つの勢力が、互いに銃火器や、異世界特有の武器であろう鈍器を振り回し、血みどろの争いを繰り広げている。彼らが身につけている衣服は、汚れ、破れてはいたが、その素材や装飾は、この世界の文化や生活水準を垣間見せる。そして、そこかしこに転がる、故障したであろう奇妙な機械の残骸が、この世界の技術レベルを示唆していた。人々が普段どのような機械を使い、それがどのように生活に影響しているのか、カグヤの脳裏には様々な疑問が浮かび上がった。しかし、それも次の瞬間には吹っ飛ぶことになる。
彼女が落下した場所は、よりによってその抗争の真っ只中だったのだ。