禁呪書との出会い
アスファルトがひび割れ、鉄骨が錆びた廃墟の街、カザリオン。かつての賑わいは影を潜め、風が吹き抜けるたびに、瓦礫の隙間から乾いた土の匂いが立ち上る。カグヤは、この街の探索を始めてから数日が経っていた。彼女の目的は、この地に眠るとされる「古代の遺物」を探し出すことだ。ウーゴとバイは、警戒しながらも彼女の後を追う。廃墟となったビル群の間を縫うように進むと、突然、バイが声を上げた。
「姉御!あそこを見てください!」
バイが指差す先には、かつて図書館だったであろう建物の残骸が、辛うじてその形を留めていた。崩れかけた壁には蔦が絡みつき、窓ガラスはすべて割れている。その入り口からは、微かな土の匂いと共に、埃っぽい空気と、古びた紙の匂いが混じり合った独特の香りが漂ってきた。ウーゴが警戒しながら呟く。
「こんな場所に、一体何があるんだ…?」
カグヤの胸は高鳴った。この場所には、何か特別なものが眠っている。そんな予感が彼女の好奇心を刺激した。
「行こう、二人とも。何か面白いものが見つかるかもしれない」
図書館の内部は、想像以上に荒廃していた。本棚は倒れ、大量の本が床に散乱している。紙魚が這い回り、ネズミの糞がそこかしこに転がっていた。その中で、カグヤの視線は、一際異彩を放つ一冊の本に釘付けになった。それは、まるで漆黒の皮膚を持つかのような表紙に、不気味な文様が刻まれた古書だった。周囲の埃まみれの本とは明らかに違う、禍々しいオーラを放っている。カグヤはゆっくりとそれに近づいた。
「姉御、あれは……」
バイが震える声で呟いた。その本からは、ただならぬ魔力を感じたのだろう。ウーゴも眉間に皺を寄せ、警戒を強めている。カグヤは、本に手を伸ばした。触れると、ひんやりとした感触が指先に伝わる。まるで生きているかのような、奇妙な感覚だ。表紙には、見慣れない文字でこう記されていた。
「禁呪書:アナヒメの心臓」
その禍々しい名前に、カグヤの心は一層掻き立てられた。彼女は本を開いた。すると、中に記された文字が、まるで意思を持っているかのように輝き始めた。
「選ばれし混沌の器よ。我を目覚めさせよ――」
その言葉が、カグヤの脳裏に直接響き渡る。ゾクリと背筋を冷たいものが走った。しかし、彼女の好奇心は、恐怖を凌駕した。カグヤは、さらにページをめくろうとしたその時だった。
空間が歪み始めた。図書館の壁が、天井が、床が、まるで波打つ水面のように揺らぐ。ウーゴとバイが叫び声を上げた。
「姉御!何が起きてるんですか!?」
「これは……まさか、次元崩壊!?」
カグヤの手に握られた「禁呪書」が、より一層強い光を放ち始める。その光は瞬く間に彼女の全身を包み込み、周囲の景色をすべて飲み込んでいった。強烈な光と、耳鳴りのような轟音がカグヤの意識を奪い去る。彼女は、光に包まれながらも、その奥底で、未知の世界への扉が開かれる予感を感じていた。
そして、彼女の意識は、真っ白な光の渦へと消えていった。