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“役立たず王女”の華麗な退場

王都ハーモニアの王宮。その最も神聖とされる大広間で、年に一度の王族式典が執り行われていた。歴代の王族たちがその才能と品格を披露し、未来の役割を内外に示す、厳粛な儀式だ。ひんやりとした大理石の床には、細やかな紋様が描かれ、天井からは王室御用達の巨大なシャンデリアが幾重にも吊るされ、煌びやかな光を放っていた。その光は、王族たちの硬質な表情を照らし出し、場に厳かな緊張感を漂わせる。漂うのは、清らかな聖香の匂いと、貴族たちの着飾った香水の混じり合った、息苦しい空気だ。


「これより、第十二王女、リリアーナ殿下による『聖歌による治癒の儀』を執り行います」


厳粛な声が響き渡る中、カグヤの二つ上の姉であるリリアーナが、優雅な所作で舞台の中央に進み出た。彼女は、透き通るような声で聖歌を詠唱し、傷ついた小鳥を一瞬で癒やしてみせた。会場からは、感嘆のため息が漏れる。彼女の動きは寸分の狂いもなく、その魔力は清らかで、いかにも王族らしい。


続いて、第十一王子、アルベールが舞台に上がった。彼は、複雑な数式を宙に描く「魔導兵器の設計図」を披露し、新たな対魔物用ゴーレムの完成を予見させた。精密な魔力制御と、論理的な思考力。まさに、王国の未来を背負うにふさわしい、完璧なプレゼンテーションだった。机には、彼が研究に没頭した証拠のように、分厚い魔導書や設計図が山と積まれていた。


「……つまんねぇの」


最前列で、あくびを噛み殺しながら、カグヤはポツリと呟いた。彼女の隣に座る侍女が、慌てて「カグヤ様!お慎みください!」と囁くが、カグヤは気にも留めない。王宮の堅苦しい食事も、彼女にとっては拷問だったが、この式典もまた、彼女の感性とはまるで相容れないものだった。


そして、ついにカグヤの番が来た。十三番目の王女、カグヤ=ハーモニア。彼女の名前が読み上げられた瞬間、会場にさざ波のようなざわめきが広がった。これまでの「粗相」の数々が、人々の脳裏をよぎる。

「では、カグヤ王女殿下。貴殿の、王族としての役割を示す魔術を披露なさい」


国王の、どこか諦めを含んだ声が響く。カグヤは、ふっと笑みを浮かべ、舞台の中央へ踏み出した。周囲の期待と不安が入り混じった視線が、まるで重い鎖のように彼女に絡みつく。

「へっ。役割、ねぇ。あたしにゃ、そんなかしこまったもんはねぇけどさ」


カグヤは、そう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。その瞳は、まさに嵐の前の静けさだ。

「あんたら、いつも『秩序』だの『調和』だの言いやがるけどさ。そんなもん、ぶっ壊して新しいモン作る方が、よっぽど面白ぇだろ?」

周囲がざわつく。貴族たちの顔に、困惑と侮蔑の色が浮かぶ。


「な、何を言い出すのだ、この娘は!」

「無礼千万!」

だが、カグヤは聞く耳を持たない。彼女は、観客席の最前列に陣取る、顔色の悪い宰相に向かって、人差し指を突きつけた。


「てめぇらの未来に必要なのは論理じゃねぇ!爆発だろうがァァ!!」

「フレア・パンツァー!!」

カグヤが詠唱を終えた瞬間、宰相の豪華なローブの下から、突然、ポンッ!と乾いた音が響いた。そして、煙と共に、彼の豪華な絹のパンツが、見事に爆破されて消し飛んだ。白い煙が立ち上り、会場に焦げ付いた硫黄のような異臭が漂う。


「なっ……ななな、なんという無礼を!!わ、わたくしの……わたくしのズボンが!!」

宰相は、顔を真っ赤にして立ち上がり、慌てて自分の下半身を隠そうとするが、もう手遅れだ。会場は、一瞬の静寂の後、どよめきと悲鳴に包まれた。貴族たちの間からは、失笑と怒号が入り混じった声が上がる。


「わ、わたくしのお気に入りのローブが、この、この破廉恥な……!」

「カグヤ様!一体何を……!」

しかし、カグヤの暴走は止まらない。彼女は、満足げに笑い、さらに次々と爆発系の魔術を放ち始めた。

「次はお前か、堅物じじい!」

「エクスプロード・ウィッグ!!」


隣の伯爵の立派なカツラが、ボフンッ!という音と共に爆発四散。白い粉が舞い、伯爵は素頭を晒して唖然としている。

「あらよっと!」

「ファイアー・スツール!!」

王妃の座っていた豪華な椅子が、ドカン!と音を立てて木っ端微塵に砕け散った。王妃は、間一髪で侍女に支えられ、尻もちをつかずに済んだが、顔は怒りで蒼白になっている。

会場は完全にパニック状態だ。悲鳴と怒号、そして、時折聞こえる爆発音。王宮全体が、カグヤの魔力によって揺れているかのようだ。漂う微かな土の匂いと、焦げ付いた木材の匂いが、混沌を増幅させる。


「カグヤァァァァァッ!!!」

国王の怒声が、大広間に響き渡った。彼の顔は、かつてないほど真っ赤に染まっている。女王(母)は、冷たい目でカグヤを睨みつけた。彼女の目は、まるで感情を持たない氷の彫刻のようだ。


「カグヤ。貴様には、もはや王族としての資格はない。貴様の魔力は制御不能。品格は微塵もなく、秩序を乱すことしかできぬ。このハーモニアにおいて、貴様が担うべき役割など、何一つとして存在しない」

女王の言葉は、氷のように冷たく、カグヤの心臓を直接叩いた。周囲のざわめきが、まるで遠いこだまのように聞こえる。その言葉は、カグヤの存在そのものを否定するものだった。

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるような痛みを感じた。しかし、カグヤは、その感情を表に出さない。彼女は、無言で肩をすくめた。その表情には、ほんの少しだけ、寂しさが滲んでいるように見えた。

だが、すぐにその感情は、不敵な笑みに変わった。

「上等じゃん。あたしが外で“自分の役割”探してくるわ。世界ごと巻き込んでな!」


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