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第6話 転生王子でも、俺は俺

 教室での退屈極まりない授業(古代魔法史とかいう、どうせ役に立たない知識のオンパレード)がようやく終わった昼下がり。

 

 俺は忠犬カイルを伴って、学院の図書館へと足を運んでいた。

 目的はもちろん、サボり……ではなく、情報収集だ。

 この世界がクソゲーとズレがあるかどうか。

 リアルで見ることになる魔族に関する知識を、少しでも頭に叩き込んでおかないと、いざという時に作戦すら立てられないからな。


 石畳の廊下をカツカツと(革靴の音だけは一丁前だ)歩きながら、俺の頭はフル回転状態だ。


「なあ、カイル。ぶっちゃけ、この学院の防衛体制ってどうなってんだ? 騎士団の連中、ちゃんと仕事してんのか? あと、例の森の周辺の様子、なんか新しい情報とかねえの?」


 あくまで王子としての心配を装い、さりげなく尋ねてみる。

 背後を歩くカイルは、俺の妙に具体的な質問に一瞬だけ怪訝な表情を浮かべた気がしたが、すぐにいつもの忠実な従者の顔に戻って答えてくれた。


「防衛に関しましては、騎士団が厳重に管理しております。

 最近は特に巡回の頻度が増えているようですし、隊長殿も『些細な異常も見逃すな』と檄を飛ばしておられるようです。

 近隣の森については……今のところ、特に変わった噂は耳にしておりません。

 私が先日確認した際も、いつも通り静かだと感じましたが……アレクシス様は何かご懸念でも?

 最近、少し思い詰められているご様子にも見えますが……」


(おっと、鋭いな、こいつ。俺の焦りが見え隠れしてるか? いかんいかん)


 俺は平静を装って肩をすくめたが、内心では悪態をついている。


(チッ、現場はピリついてるようだが、具体的な情報はなしか!

 巡回増やしたくらいで魔族の襲撃が防げるかよ!

 やっぱり誰も気づいてねえ! ゲームだとマジで数日以内にドカンと来るってのに! この平和ボケが!)


「ふーん、そうか。ならいいんだけどな。ちょっと気になっただけだ。お前も気苦労が多いな、カイル」


 俺が軽くカイルの肩を叩くと、彼は少し嬉しそうに笑った。


「いえ、アレクシス様のお役に立てるなら、これくらいお安い御用です」

 

 こいつの忠誠心だけは、今の俺にとって数少ない癒やしだぜ。


 図書館の重厚な木製の扉(無駄にデカい)を押し開けると、独特の埃っぽい空気と古びた紙の匂いが鼻をついた。


 うへぇ、カビ臭い。本棚が天井までぎっしり並んでいて、いかにも『知識の宝庫」』って感じだが、俺にはただの埃の巣窟にしか見えん。


「カイルはその辺で適当に座って待ってろ。俺は調べ物がある」


 俺はカイルにそう言い、迷わず棚の奥へと突き進んだ。


『魔族』『魔物』『古代封印』『結界石』


 ……それっぽいタイトルの本を片っ端から引っ張り出し、窓際の大きな木製の机にドサッと積み上げる。


 カイルは俺のその剣幕に少し驚いた様子だったが、何も言わずに近くの椅子に腰掛け、静かに俺の作業を見守り始めた。

 時折、心配そうにこちらを窺っている視線を感じる。


 えーっと、魔族の斥候は小型で素早いタイプが多い……か。

 森を拠点に潜伏して、夜間に奇襲を仕掛けてくるパターンが定石、と。ふむふむ。


(……ゲーム通りなら、最初の襲撃は間違いなく数日以内に起こるはずだ)


 広げた古地図(これも読みにくい)に、森の周辺、特にゲームで襲撃があったポイントに指で印をつけながら呟く。


 だが、どんなに知識を詰め込んでも、あの忌々しい現実……俺が火花しか出せないクソザコだという事実が、重くのしかかってくる。


 俺の『炎獄の裁きインフェルノ・ジャッジメント』が使えりゃ、こんなチマチマした情報収集なんかせずに、正面から焼き払って終わりなのによぉ……!

 何か他に使える手はねえのか? この世界の魔法で、俺でも使えそうなショボいけど役立つやつとか……


 資料をめくりながら焦りが募る。

 本に書かれている魔法陣とか、古代ルーン文字とか、見てもチンプンカンプンだ。

 前世の俺は、せいぜいゲームのスキルツリーを眺めるのが関の山だったんだぞ!


 その時だった。


 グォォォォォォン……


 遠く窓の外から、不気味な咆哮のようなものが響いてきたのだ。

 それは獣の鳴き声とも違う、もっと低く、腹の底に響くような、嫌な音。


「……っ⁉」


 俺はハッとして椅子から立ち上がり、窓の外に目をやった。

 視線の先の黒々とした森の影が一瞬、大きく揺れたような気がした。

 そして学院の尖塔の頂上で輝いていた結界石が、ほんの一瞬、チラッと暗く揺らぐのを俺は確かに見た。


「……?」


 近くに座っていたカイルも、わずかに眉をひそめて窓の外に視線を向けた。


「今の音は……? 風でしょうか……?」


 カイルは俺ほど明確には異変を感じ取っていないようだが、それでも何か違和感を覚えたらしい。


 俺の背筋はゾッと凍りついていた。冷や汗がどっと噴き出す。


(や、やべえ……今の、まさか……? おいおい、ゲームの前振りイベント、もう始まってんのかよ! 早すぎんだろ!)


 俺は手に持っていた古文書を握り潰しそうになりながら、必死に深呼吸してパニック寸前の自分を落ち着かせようとした。


(落ち着け、落ち着け俺! まだ襲撃じゃない! ただの兆候だ! ……たぶん! でも、時間はねえ! なんとかしねえと!

 カイルには……まだ言えねえ。説得できる証拠がなさすぎるし、こいつを無駄に危険に晒すわけにもいかねえ)


 カイルが心配そうにこちらを見ている。


(魔法が使えねえなら……やっぱり物理的な罠か? でも、騎士団の連中を動かすには、もっと確実な証拠がいるし……クソッ、こうなったら、やっぱり俺の頭脳で補うしかねえ!)


 混乱の中で思考を整理し、俺は再び顔を上げた。

 図書館のステンドグラスから差し込む光が、俺の顔にまだら模様を描いている。

 俺は前世馴染みの歪んだ笑みを浮かべた。


 鏡代わりに窓ガラスに映る自分を見つめる。

 そこには恵まれた容姿を持つ金髪の貴公子の姿。

 だが、その中身は前世の記憶を持つ、しがないクソザコ陰キャの魂だ。


(俺はアレクシス王子なんかじゃねえ。俺は俺だ。このクソみたいな世界を、俺のやり方で生き抜いてやる……!)


 邪悪な笑みを深くしながら、俺は決意を新たにした。

 まずは、使える駒……いや、仲間たちに根回しだ。

 

 カイルが俺の異様な雰囲気に気づき、何か言いたげな表情を浮かべたが、俺はそれに気づかないふりをして、積み上げた本を乱暴に片付け始めた。


次回本日20時公開!

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