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死にたくないから聖女と悪役令嬢、ついでに妹を攻略します!  作者: ハムえっぐ


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第32話 vs魔将バザルガス!(後編)

 目を閉じた瞬間! 凍てつくような、絶対零度の冷気が洞窟全体を支配した!


「『氷獄の薔薇(フリージング・ローズ)』!」


 カロリーネだ!

 鎖で四肢を繋がれながらも、俺が必死に鎖を破壊しようとする姿、そして仲間たちが彼女のために命を懸けて戦う姿。

 それらが引き金となり、リリアナの聖光による鎖の弱体化も手伝って、彼女の中に眠っていた氷の力がついに限界を超えて覚醒したのだ!


 彼女の周囲に、絶対零度の冷気を纏った巨大な氷の薔薇が荘厳に咲き誇る!

 無数の鋭い花弁が一斉にバザルガスへと降り注ぐ!


 放たれた極低温のブリザードは、バザルガスの燃え盛る炎の鞭を完全に凍結させ、その動きを一瞬、完全に封じ込めた!


「カロリーネ! すげえ!」

「早く……! アレクシス殿下……! 今です……!」


 カロリーネが最後の力を振り絞るように叫ぶ!


「ああ!」


 俺は最後の力を込めて、リリアナの聖光とカロリーネの氷によって脆くなった最後の鎖に、短剣を突き立て全体重をかけて捻り上げる!


 バキイイイイイイイイイイイイイン!


 ひときわ甲高い澄み切った破壊音が響き渡り、ついにカロリーネを縛り付けていた最後の呪われた鎖が砕け散った!


「やった……! カロリーネ!」


 自由になったカロリーネだが、限界を超えた魔力を使ったためか、力尽きたようにその場に崩れ落ちそうになる。

 俺は咄嗟に駆け寄り、その華奢な身体を壊れ物を抱きしめるように、強く、優しく支えた。


「立てるか、カロリーネ⁉ しっかりしろ!」


 俺が彼女の顔を覗き込むと、そこには汗と涙と煤と血にまみれながらも、安堵と、熱い感謝、そして……揺るぎない信頼と好意を宿した、美しい紫の瞳があった。

 乱れた銀髪が額に張り付き、ボロボロの服が彼女の白い肌を痛々しく晒している。

 その姿は守り抜けたことを誇らしく思わせる、儚くも気高い輝きを放っていた。


 俺の心臓が、ドキン! と甘く、力強く高鳴るのを感じた。

 ただの打算じゃない。利用するためなんかじゃない。この感情は……


(……ああ、もう認めよう。俺はこいつのことが……カロリーネのことが、好き、なんだな。……卑怯で、クソザコで、魔法も使えない、こんな俺だけど……それでも、こいつを守りたいって、本気で、心の底から思ったんだ)


 俺が内心で初めての純粋な感情を自覚し、柄にもなく顔を真っ赤にしていると、背後でカロリーネの氷獄から辛うじて脱出したバザルガスが、屈辱と怒りにその巨体を震わせて最後の咆哮を上げた!


「おのれええええええええ! よくも我が晩餐を! よくもこの魔将バザルガスにこれほどの屈辱を与えてくれたな! 許さんぞ人間どもめえええええ! 全員、我が灼熱の業火に焼かれ、塵となるがいい!」


 バザルガスが両腕を天に掲げると、洞窟全体が唸りを上げて天井の溶岩が活性化し、凄まじい炎熱の魔力が渦巻き始めた! その力は先ほどまでとは比較にならない!


 これはヤバい! 全てを焼き尽くす、最後の自爆覚悟の一撃だ!


「もう終わりですわ、哀れで愚かな魔将!」


 カロリーネが俺に支えられながらも覚醒した力を再び解放し、両手に絶対零度の冷気を集中させる!

 その瞳にはもはや絶望の色はなく、絶対的な女王の如き誇りと、俺への揺るぎない想いが宿っていた!


「総攻撃だ! あいつが力を完全に解放する前に、全てを叩き込むぞ!」


 このままでは全滅しかないと判断したのだろう、ヴィンスが叫んだ!


 仲間たちの最後の猛攻が、力を溜めるバザルガスに叩き込まれる!

 マリエッタの風が嵐となり!

 ガレスの剣が大地を割り!

 リリアナの光が天罰の如く降り注ぎ!

 ルシアンの風が敵を拘束し!

 癒しの光を受け、傷つきながらも立ち上がったカイルが最後の力を振り絞り、腰の予備の短剣を抜き放って突撃する!


 そしてカロリーネの絶対零度の冷気が、バザルガスの放とうとしている炎の勢いを抑え込み、動きを鈍らせる!


 魔将の最後の抵抗は凄まじい!

 仲間たちの渾身の攻撃とカロリーネの冷気を受けながらも、その身に纏う炎は消えず、むしろさらに凝縮されて一点に集中して爆発の瞬間を待っている!


(くそっ! 相打ち覚悟の自爆か⁉ このままじゃ全員吹き飛ぶぞ! 俺にできることは……! 何か……! 魔法が使えなくても、この状況を打開できる、俺にしかできない……!)


 俺はカロリーネを支えながら、必死に思考を巡らせる!

 武器は頼りない短剣一本! 俺の力……卑怯な知恵……そうだ! あれだ! 俺にはまだ最後の、最後の切り札が残っている!


 俺は懐から最後の切り札を取り出した。それはヴィンスが改造してくれた特殊なクリスタル――ただの爆弾じゃない! 周囲の魔力を強制的に暴走させ、制御不能にする対魔力暴走機能を組み込んである!


「バザルガス! お前のその膨大な炎、利用させてもらうぜ!」


 俺はバザルガスが凝縮させている炎の中心核めがけて、魔力暴走クリスタルを全力で投げつけた!


「なっ⁉ また小賢しい真似を!」


 バザルガスは迫るクリスタルを炎で焼き払おうとするが、クリスタルにはヴィンスが施した特殊な耐熱結界が張られており、炎を突き抜けてその中心部に到達する!

 そして、起動!


 ドクンッ!


 クリスタルが不気味な波動を放ち、バザルガスが制御していた膨大な炎の魔力が、一気に制御を失い内部から凄まじい勢いで暴走を始めた!


「ぐ……ぐおおおおおお⁉ 我が力が……! 馬鹿な! 何をした人間めえええええ⁉ コントロールが……効かぬ!」


 凄まじいエネルギーの奔流が、バザルガス自身の体を内側から破壊していく!


「いっけええええええええええ! みんな! 今だ! 奴が自滅する前に、完全にとどめを刺せええええ!」


 俺は勝利を確信し、最後の総攻撃を指示した!


 仲間たちの渾身の一撃が、内部から崩壊し始めたバザルガスに容赦なく叩き込まれる!

 今度こそ魔将の巨体は断末魔の絶叫を上げながら、自身の制御不能となった灼熱の炎に包まれ、塵一つ残さず消滅した。


 魔法が使えないクソザコな俺が、知恵と仲間との絆、そして最後の悪あがきで、ついに強大な魔将を打ち破ったという事実に、言いようのない興奮と達成感を覚えていた。


「……殿下……」


 俺の腕の中でカロリーネが涙で濡れた美しい紫の瞳で、じっと俺を見上げていた。

 その表情は、感謝、安堵、そして……言葉にならない、熱い想いが込められているように見えた。


 戦闘の喧騒が嘘のような静寂の中に、戦いを終えた仲間たちの荒い息遣いだけが響いていた。そして、俺とカロリーネの間には、少し気まずいような、それでいてとてつもなく温かい空気が流れていた。

 

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