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第18話 王子、ついに動く!

「グルルルル……!」


 翼の魔族は空から鋭い爪を振り下ろし、最も厄介だと判断したのか、マリエッタに襲いかかった!


「しまっ……⁉」


 マリエッタは咄嗟に剣で防御しようとしたが、間に合わない!

 鋭い爪が彼女の肩を深く切り裂き、戦闘服の布地が破れ、鮮やかな赤い血が白い肌を染めて、地面の草にポタポタと滴り落ちた!


「くっ……! この鳥野郎……!」


 マリエッタは痛みに顔を歪めながらも、負けじと剣を振り上げ反撃しようとする。

 だが、その瞬間、泥濘にはまっていたはずの巨体が、信じられないほどの馬鹿力でロープを引きちぎり、泥から脱出したのだ!

 周囲の騎士数名を薙ぎ払いながら!


「うわああ!」

「隊長!」


 悲鳴が上がる。


「グオオオオオオオオオ!」


 怒りの咆哮を上げ、巨体は近くにいたマリエッタめがけて、その巨大な鎚のような腕を力任せに振り下ろした!


 ドゴォォォン!


 凄まじい衝撃波が地面を砕き、マリエッタの華奢な体は、まるで木の葉のように軽々と吹き飛ばされた!


「きゃっ……!」


 短い悲鳴を残し、マリエッタは裏庭の石畳に激しく叩きつけられた。彼女の手から剣が滑り落ち、カラン、と虚しい音を立てて転がる。


「マリエッタ!」


 俺は思わず、噴水の影から飛び出していた。

 仲間が、妹(仮)が、目の前でやられたのだ。頭にカッと血が上る。


 俺は手に持っていた石ころの一つを掴むと、巨体の魔族の、あの忌々しい赤い目玉めがけて渾身の力で投げつけた!


 ビュンッ!


 石は正確に(まぐれで)巨体の右目に直撃!


「グギャアアアアア⁉」


 巨体は顔を押さえて苦悶の咆哮を上げ、数歩後退した。


「こっちだ、このデクノボウが! 目ん玉潰されたいか、ああ⁉」


 俺は完全にキレて、ありったけの罵詈雑言を浴びせながら魔族を挑発した。

 マリエッタが起き上がるための、ほんのわずかな時間稼ぎだ。


「マリエッタ様!」


 リリアナが、噴水の影から飛び出した!

 彼女は倒れているマリエッタに駆け寄り、迷わず『聖光の癒し(ホーリー・ヒール)』を放つ!

 柔らかな光がマリエッタの肩の傷を包み込み、みるみるうちに血が止まっていった。


「……ん……ありがと、リリアナ……」

 

 マリエッタがうめき声を上げながらも、ゆっくりと立ち上がった。


「さすが聖女様! 素晴らしい回復力だ!」

 

 ガレスが叫ぶ。


「いえ……私は、ただ皆さんを守りたいだけですから……」

 

 リリアナは謙虚に微笑む。


 そこへ、さらにカロリーネが動いた!


「まったく、殿方は頼りになりませんわね! わたくしの氷魔法で、一気にケリをつけますわ! 『氷嵐の刃(ブリザード・ブレード)』!」


 カロリーネは戦闘用のドレス(フリル付き)の裾を翻して杖を構える!

 彼女が放った無数の氷の刃が、空からマリエッタを襲った翼の魔族を正確に貫いた!


「ギシャアアアア!」


 翼を引き裂かれ、魔族は悲鳴を上げて地面に墜落、氷漬けになって動かなくなった!


「ナ、ナイスだ、カロリーネ! リリアナも! タイミング合わせて、残りの奴らを仕留めるぞ!」

 

 俺は咄嗟に指示を飛ばした。


「ふん、殿下の策には乗りませんが、魔族を放置するわけにはいきませんわ」

 

 カロリーネはツンとしながらも、杖を構える。


「はい! アレクシス様!」

 

 リリアナも力強く頷いた。


 カロリーネの氷魔法と、リリアナの聖光魔法。

 この二つの力が奇跡的な連携を見せ始める!


 カロリーネの氷が細身の魔族の動きを封じ、そこへリリアナの聖なる光が降り注ぎ、魔族の体を浄化する!

 マリエッタたちも、その隙を見逃さずにとどめを刺す!


「グ……ガ……ア……」

 

 細身の魔族は、苦しみながら塵となって消滅した!


 残るは、あのデカい巨体だけだ!


 だが、仲間たちの奮闘も虚しく、巨体の魔族のパワーは圧倒的だった。

 再び立ち上がり、怒りのままに鎚のような腕を振り回し、ガレスと騎士数名をまとめて派手に吹き飛ばした!


「ぐはっ!」

「うわっ!」

 

 鈍い音と悲鳴が響く。


「クソッ! ガレス、死ぬんじゃねえぞ! お前の脳筋パワーは今後も必要なんだ! リリアナ! ルシアン! 負傷者を頼む!」


 俺は叫びながら、今度は石ころではなく、腰の短剣を抜き放ち、巨体の足元へと突進した!


「おらああああ!」


 ヤケクソ気味に、がら空きになっていた巨体の足首に短剣を突き立てる!

 ザクリ、という鈍い感触と共に、黒い血が噴き出した!


「グオオオオ⁉」


 巨体は痛みによろめき、ついに片膝をついた!


「今よ!」


 その隙を見逃さず、マリエッタが転がっていた自分の剣を拾い上げ、再び緑の風を纏って跳躍! 『疾風刃(ゲイル・ブレード)』が、がら空きになった巨体の首筋へと深々と突き刺さった!


 風が唸り、刃が肉を断ち切る生々しい音が響き渡る。

 黒い血が、まるで噴水のように高く噴き上がり、巨体は最後の断末魔の咆哮を上げながら、ゆっくりと前のめりに倒れ伏した。


 ……勝った……のか?


 俺は、その場にへたり込みそうになるのを必死に堪え、ハッタリでも勝利宣言をしようとした。


 だが、その瞬間。


 倒れたはずの巨体の魔族の死骸が、不気味な赤い光を発し始めたのだ!


「な、なんだ……⁉」


 次の瞬間、俺は通信クリスタルを手に取り、咄嗟に叫んでいた! これはゲームにはなかったパターンだ! ヤバい!


「クリスタル! 起爆しろ! 『緊急自爆モード』!」


 俺が改造しておいた通信クリスタルには、いざという時のための最後の切り札……強力な魔力暴走を引き起こす自爆機能(という名のただの爆弾)を仕込んでおいたのだ!


 俺はそれを、先ほど巨体の魔族が倒れ込んだ場所めがけて、全力で投げつけた!


 赤い光が炸裂し、轟音と共に巨体の魔族の頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ!


「……ふぅ。今度こそ、俺たちの勝ちだ!」


 俺は息を切らし、汗と血と泥にまみれながら、今度こそ確信を持って勝利を宣言した。

 辺りには魔力の残滓と、硝煙のような匂いが立ち込めていた。

 

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