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第17話 裏庭大乱闘!

 夜の帳が完全に降り、レンデガルド学院の裏庭は不気味な静寂に包まれていた。

 月光だけが頼りで、石畳を白く照らし出して点在する木々や茂みの影を長く、濃く、地面に引き伸ばしている。

 ひんやりとした夜風が頬を撫で、遠くの森から獣のものとも魔族のものともつかない、咆哮が聞こえてくる気がした。

 緊張感が俺の肌をピリピリと刺す。


「……本当に来るんですの? 殿下のその、妙な『勘』とやらは。殿下の慌てぶりから、念のため見回りに来てみれば……」


 噴水の残骸の影の俺の隣で息を潜めながら、カロリーネが不機嫌そうに囁いた。

 その声には疑念と苛立ちが混じっている。

 彼女の後ろには、数名の武装した令嬢……カロリーネ取り巻き部隊も控えている。


「ああ、来る。……騎士団やヴィンスたちは配置済み。

 君たちは防衛ラインの死守を頼む」

 

 俺は短く答えた。

 内心は(リリアナとカロリーネが来てくれて助かった!)と叫んでいるが。


「わ、私、お役に立てるかわかりませんが、もし本当に魔族が現れたら、精一杯頑張ります……!」


 リリアナが震える声ながらも健気に隣で頷く。

 いや、この前の戦いの殊勲者なんだから、もうちょいと自信持ってくれよ。

 

 俺の隣には、いつも通りカイルの姿もある。

 こいつの表情も硬い。


「アレクシス様のご懸念、ただ事ではないようですね」


 と、カイルは呟いた。


「ふん、殿下の根拠のない自信には呆れますが、もし魔族が現れたのなら放置はできませんわ。わたくしの力、見せて差し上げます」

 

 カロリーネはツンとしながらも、氷の杖を握り直した。

 よし、これで一応、共闘の体裁は整ったか。


 俺は噴水の影から顔を出し、別の茂みに隠れているマリエッタに目配せする。

 手には、例の改造済み通信クリスタルと、護身用の短剣とそこら辺に落ちてた手頃な大きさの石ころを数個を握り締めている。

 魔法が使えない以上、物理攻撃ショボいで何とかするしかないのだ。

 ……情けないにも程があるぜ。


(来る……! そろそろだ……!)


 その瞬間、俺の予感は現実のものとなった。


 裏庭の中央付近の空間が、まるで黒いインクを垂らしたかのように歪み始めた。

 渦巻く黒い霧の中から低い唸り声と共に、4体の魔族が禍々しい姿を現したのだ!


 1体は前回よりもさらにデカい! 身長は3メートルを超えている。

 頭には捻じくれた角が生え、両腕は岩石を砕けそうなほど太くて巨大な鎚のようだ。

 地面をドシンと踏みつけるたびに地響きが伝わってくる。


 2体は前回も見た細身で素早いタイプ。

 鋭い爪が月光をギラリと反射し、蛇のような長い尾が地面を這って不気味にうねっている。


 そして最後の1体は……翼⁉ 黒いコウモリのような翼を持ち、軽々と空中へと舞い上がった!

 羽ばたくたびに強い風圧が起こり、近くの草がざわめく。

 その赤い瞳が、俺たちがいる方向を睥睨(へいげい)するように光っている。


「ひっ……!」

 

 リリアナが息を呑む音が聞こえた。カイルも警戒態勢を強める。


(4体か! しかも飛行タイプまでいやがる! ゲームより増えてるし、厄介になってるじゃねえか! クソゲーめ!)


 俺は内心で悪態をつきながらも、すぐさま行動に移した。

 通信クリスタルを起動させて例の偽情報を流す!


「こちら管制室! 緊急警報! 結界石の魔力反応、裏庭東側に移動を確認! 各員、直ちに東側へ向かい、結界石を防衛せよ!」

 

 俺は適当な声を使い、もっともらしいアナウンスを魔族にも聞こえる範囲に流した。


 その効果は、てきめんだった。


 翼を持つ魔族が、一瞬キョロキョロと周囲を見回した後、「グルゥ?(結界石が移動?)」とでも言いたげな声を漏らし、偽情報通りに東の方向へと猛スピードで飛び去っていった!


(よし! まず1体、釣れた! やはり魔王復活に必要な結界石の情報には弱いらしい!)


 残った3体のうち、細身の2体は突然のアナウンスに混乱したのか、互いにぶつかりそうになりながら、その場で右往左往している。

 

(クックック……単純な奴らめ!)


 一番デカい巨体の魔族は……俺が事前に地面に仕掛けておいたロープの罠(改良版)に、見事に足を引っ掛けた!


「グオッ⁉」


 巨体はバランスを崩し、近くにあった泥濘(これも俺が水を撒いて拡張しておいた)にズブリと足を取られ、動きを封じられた!

 

(よし! これでデカブツも一時的に無力化!)


「完璧だ! 俺の作戦通り! 今のうちに叩くぞ!」


 俺は噴水の影から叫び、隠れていた仲間たちに合図を送った!


「マリエッタ! 今だ! 混乱してる細身の奴らを奇襲しろ!」


「了解ですわ、お兄様!」


 茂みから飛び出してきたのは、戦闘モード全開のマリエッタがいつものお姫様口調で叫びながら、剣を手に細身の魔族の1体に斬りかかる!


「喰らいなさい! 『疾風刃(ゲイル・ブレード)』!」


 彼女の剣が緑色の風を纏い、閃光のように空を切り裂く!

 その刃は的確に魔族の長い尾を捉え、ザンッ! と小気味いい音を立てて切断した!


「ギャアアアア!」


 尾を失った魔族が甲高い悲鳴を上げて地面を転げ回る。

 黒い血が噴き出して周囲の草を汚した。

 マリエッタの金髪が乱れ、碧眼が鋭く光る。


 ……うっし、マリエッタ、その調子だ!


「俺も続くぜ!」


 声の主はガレス! 別の茂みに潜ませていたガレスが雄叫びと共に大剣を手に飛び出してきた!

 狙うは泥濘にはまって身動きが取れない巨体の魔族だ!


「でけえな、オラァ! 『大地割断(ガイア・ブレイカー)』 !」


 ガレスは大剣を振り上げ、巨体の太い腕に力任せに叩きつける! ガギン! と硬い鱗に阻まれる音がしたが、それでも剣は鱗を砕き、肉を裂いた!

 黒い血がガレスの赤毛を濡らす。


「ヴィンス様! 敵は3体! 1体は負傷、1体は泥濘に!」

「よし、混乱している隙に各個撃破する! 騎士団第1分隊は負傷した細身の魔族を包囲! 第2分隊はガレス殿の援護、巨体を押さえろ! ルシアン殿は回復を頼む!」


 ヴィンスが冷静に指示を飛ばす。

 その声に応じ、騎士団員たちが数名、槍や剣を構えて駆けだした。


「了解!」

「囲め! 逃がすな!」

「ガレス殿、我々が側面を突く!」


 騎士たちが迅速に動き出し、負傷した魔族に襲いかかる。槍衾が魔族の体を突き刺し、黒い血が飛び散る!

 だが魔族も必死に抵抗し、鋭い爪で騎士の1人の盾を弾き飛ばして体勢を崩される。


「危ないですわ!」

 

 マリエッタが魔族の前に飛び出し、身を挺して仲間を庇う!


(よしよし、このまま押し切れ!)


 俺は内心で喝采を送っていた。


「アレクシス様! 僕も戦います!」


 俺の傍らには、忠犬カイルが剣を構えて決死の覚悟で立っていた。


「よし! このまま一気に……!」


 俺が勝利を確信しかけた、その時だった。


 東へ飛び去ったはずの翼の魔族が、猛スピードで引き返してきたのだ!

 奴は急旋回すると、空中で何かをブツブツと呟いた。

 すると、その赤い瞳が妖しく光り、こちらを指差した!


「グルルル……(偽情報……感知失敗……発信源は、ソコ……!)」


 どうやら偽情報だと気づいただけでなく、俺が通信クリスタルを使ったことまで感知したらしい!


(クソっ! 感知能力まであるのかよ! しかも、俺が発信源だってバレた⁉)

 

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