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第15話 兄妹タッグ成立⁉

 マリエッタ(中身ヤンキー)との危険な協力関係を結んだ俺たちは早速、次の魔族襲撃への対策会議(という名の俺による一方的な作戦説明会)を始めていた。


 俺の手には、王宮の備品庫からこっそり持ち出させたクリスタル。

 ちょっとした通信妨害機能付きの、いわくつきの逸品らしい。

 

 手のひらサイズの魔法道具が、青白い妖しい光を放っている。本来の用途は学院内の連絡用らしいが、そんな高尚な目的のために使う俺ではない。

 

 魔族への偽情報流布。

 これぞ、俺の頭脳が導き出した最適解だ。

 我ながら悪知恵だけは泉のように湧き出てくるぜ!


 噴水の水音がチロチロとやけに静かに響いている。

 石畳に落ちる午後の陽光が、俺とマリエッタの間に見えない境界線のような影を刻んでいる。

 遠くで聞こえる生徒たちのキャッキャウフフな笑い声が、今の俺には世界の違いを突きつけてくるようで、ひどく耳障りだった。


「いいか、マリエッタ。次の襲撃は裏庭だ。ゲームのパターン通りならな。

 しかも、前回よりデカいのが複数体来る可能性が高い。

 そこでだ。お前が前線に出て、派手に立ち回って魔族どものヘイトを一手に引き受けろ。

 その間に俺が後方から、小賢しい罠と偽情報で連中を混乱させる。この連携がピタッとハマれば、前回の二の舞は避けられるはずだ」


 俺は通信クリスタルを弄びながら、ニヤリと悪巧みの笑みを浮かべて提案した。

 しかし内心では、根深い不安とチキンな恐怖が渦巻いていた。


(こいつ、本当に戦えんのか? 俺と同じで弱体化してねえのか? もし期待外れだったら、俺の考えた完璧な作戦が台無しじゃねえか……)


 俺、基本的に自分以外信用してないからな。


「はぁ? 何それ。『あたい』が前線で身体張って、アンタは後ろで高みの見物ってわけ? とことん腐ってんな、アンタの根性」


 マリエッタが心底軽蔑したというように、細めた碧眼で冷たく言い放った。

 一人称は完全に『あたい』に定着している。

 その声には、もはや隠そうともしない苛立ちと呆れが滲んでいた。

 金色のツインテールがサラリと風に揺れ、その可愛らしい容姿とは裏腹な鋭い視線が俺を射抜く。


 ……うん、可愛い顔してるのにドスが効きまくってるぜ、こいつ。


「ぐっ……仕方ねえだろ! 俺は頭脳派(自称)なんだよ! 適材適所って言葉を知らんのか?

 お前みたいな気が強そうなタイプは、前線で暴れるのがお似合いだ。

 俺が後方から手厚くサポートしてやるんだから、むしろ感謝しろってんだ」


 俺はあくまで兄(仮)と王子(仮)としての威厳を保とうと強気に言い放つ。


 しかし内心ではビクビクしてる。


(こいつの機嫌損ねたらヤバい……何か……何か手段を考えねえと……)


「頭脳派ねぇ……つーかさ、アンタ、いい加減あの『炎獄の裁きインフェルノ・ジャッジメント』とかいう大層な名前の魔法、使えねえ理由を正直に白状したらどうなんだよ。

 まさかとは思うけど、マジで使えなかったりして?」


 マリエッタのド直球のツッコミ。ぐはっ……! やはりそこを突いてくるか! さすが転生者、観察眼が鋭いぜ!


 俺の額からは滝のように冷や汗が流れ落ちる。完全に蛇に睨まれた蛙状態だ。

 もはや、この追求からは逃れられない。観念するしかない。


「……お前だから言うんだぞ。絶対に、絶対に他の誰にも漏らすなよ。これは、俺とお前の、血よりも濃い(?)転生者同盟だけのトップシークレットだ」


 俺はわざとらしく勿体ぶった前置きをしてから、ついに重い口を開いた。


「……使えねえんだよ、マジで。どんだけ頑張っても、線香花火以下の、情けねえ火花しか出ねえ」


「……はぁ~~~~~~~~~~~~~~~っ」


 マリエッタから、地球の反対側まで届きそうな、クソでかいため息が吐き出された。


「やっぱりかよ。そんなこったろうと思ったわ。マジで役立たずの王子(仮)だな、アンタは」


 心底ガッカリした、憐れむような視線が俺に突き刺さる。ぐうの音も出ません。完敗です。


「……う、うるせえ! じゃあ、お前の方はどうなんだよ! その自信満々な態度は、ちゃんと戦えるっていう裏付けあんだろうな⁉

 マリエッタの属性核は『風』。お前の『疾風刃(ゲイル・ブレード)』は、ちゃんと使えるんだろうな⁉」


 俺は少しでも劣勢を挽回しようと、必死に反撃の質問をぶつけてみた。


「ったりめーだろ。あたいを誰だと思ってんだ?

疾風刃(ゲイル・ブレード)』くらい、鼻歌まじりで余裕で使えるわ」


 マリエッタは身体を捻らせて手刀を斬る仕草をすると、風がうねって俺の頬を掠める。


 疾風刃(ゲイル・ブレード)だ。

 ……うん。頬から血が出てるのもわかるし、パンツがちょっと濡れちゃったよ。

 

「……はーあ、それにしても、あれほど憧れて、夢にまで見たアレクシス様が、まさかこんな戦闘能力皆無の、卑怯で、口先だけのクソザコ野郎になってるなんてなあ。

 ……マジで転生ガチャ大爆死だわ、これ」


 マリエッタは再び深いため息をつき、恨めしそうに空を仰いだ。

 その一言一句が、俺の繊細なガラスのハートに深々と突き刺さりって砕け散る。

 ……ちくしょう、泣きそうだ。


「ひ、卑怯じゃねえし! 限られた手札の中で、最善を尽くして結果を出すのが今の俺の戦い方なんだよ!

 だから頼む! お前の力が必要なんだ! お前が協力してくれなきゃ、俺は……俺はきっと、次の襲撃で……!」


 俺は涙目で、情けなく震える声で、必死に彼女に懇願した。


「……はいはい、わかった、わかったよ。協力すりゃいいんだろ、協力すりゃ。

 ここでアンタが見捨てられて死んだら、後味悪いしな。死にたくねえのは、あたいだって同じだし」


 マリエッタは心底面倒くさそうに、一応は承諾の意を示してくれた。

 ふぅ……よかった……これで完全に詰む未来は回避された……かもしれない。


「それにしてもよぉ」


 マリエッタが、再び訝しげな視線を俺に向けてくる。


「あたいたち以外に転生者いたりすんのかね?」


「どうかな? 多分いないと思うぞ」


 俺が見える好感度システムの表示。

 転生者だったマリエッタ以外は、素直で露骨で不愉快極まりない現実感たっぷりの、裏を知らない生な感想がありありと表示されている。


 ちなみにマリエッタは、俺の告白で【憎悪】から【絶望】に変わってる。数字はゼロのまま。

 これって大丈夫なの⁉


「ふうん、ま、これ以上転生者いたらめんどくせぇし、いないのに越したことないけどよ」


「そういやマリエッタは俺のこと、どう見えてるんだ?」


 こいつにも好感度システムが見えてるのか気になるぜ。


「あ? 好感度システムのこと? 昨日までは【利用価値】って出てたぜ? 今の表示を教えてやろうか?」


 ……見えてるのね。


「……まことにごめんなさい。反省してます。言わなくていいです」

 

 俺自身のことだ。はっきりわかるぜ。

 確実に【恐怖】だろうな……うん。


 マリエッタは自嘲気味にフッと息を吐き、続ける。

 その碧眼の奥に、俺が見たことのない暗い影が揺らめいていた。

 

「……まあ、前世は救いようもねえ虚しい毎日だったから、あっけなく死んじまって、こうして転生できたのは、ある意味ラッキーだったのかもしれねえけどな。

 こんなクソゲーの世界でも、あの掃き溜めよりはマシかもしんねえし。

 特に、憧れのゲームのイケメンたちに会えるってんなら、な!」


 最後は無理やり語尾を上げて、おどけるように笑ってみせたが、その笑顔はどこか痛々しい。

 瞳の奥には決して癒えることのない深い孤独と、誰にも頼れず生きてきたのだろう過去の影が焼き付いていた。


「……そうか」


 俺は彼女の予想外に重そうな過去に、かける言葉を見つけられなかった。

 正直、どう反応すればいいのかわからない。

 俺の前世も大概クソだったが、彼女の経験したであろう過酷さは、想像を絶するのかもしれない。


(……こいつ、思ったよりずっと、キツい人生送ってたのかもな。

 俺のバイト先での愚痴なんて、鼻で笑われるレベルかもしれん……)


 ほんの一瞬、ほんのわずかだが、彼女の境遇に同情のような感情が湧きかけた。だが、すぐに思考を切り替える。


(……いや、感傷に浸ってる場合じゃねえ。同情したところで、俺の生存確率が上がるわけじゃない。下手に深入りして藪蛇突くのは御免だ。今は生存が最優先事項だ)


「お前の事情はわかった。とにかく、戦えるってんなら話は早い。作戦通り、前線は頼んだぜ、相棒」


 俺は敢えて軽い口調でそう言い、空気を変えるように話題を転換した。


「……ちっ。わかったよ。協力してやるって言ってんだろ。

 生き残ってヴィンス様たち、あのキラキライケメンたちと、幸せな結婚パーティーを開くんだからな、あたいは! 絶対に!」


 マリエッタは自分に言い聞かせるように、少しだけ力強くそう宣言した。

 その言葉には、前世では決して手に入れられなかったであろう『幸せ』への、不器用だが切実な渇望が込められているように聞こえた。


「よし、それでこそ俺の妹(魂ヤンキー)だ!」


 俺はそう言って、今度こそ遠慮なく彼女の肩をポンと叩いた。


 その瞬間、俺の胸の奥で、またあの微かな熱が蠢いた。

 いつもの頼りない、役立たずの属性核。

 

 だが、なぜか今は、ほんの少しだけ、その熱がマリエッタの言葉に呼応するように、温かく脈打った気がした。


 ……いや、気のせいだろう。俺はすぐにその奇妙な感覚を振り払って思考を現実に戻した。

 感傷に浸っている暇など、俺にはないのだ。

 

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