回復薬とジャムサンドクッキー
来ていただいてありがとうございます!
「できた……?」
「おお!できたじゃないか!」
「これが!あの!噂の!回復薬!!」
「え?巷でそんなに噂になってるのか?」
「あ、ううん、違うの。ちょっとね、あはは」
前世のゲームでよくお世話になってましたとは言えない……。
今日は朝からヴァイスに教わりながら薬づくりを始めた。何種類かの薬草を合わせて魔力をかけるとボウルの中にほのかに光る青い液体が生み出された。草、どこへ行った?王立学園の初等部の時に一度授業で作ったことがあるけど、その時はできなかったのにどうして今はできるんだろう?
私はボウルを持ち上げた。
「っていうか……普通のお料理用のボウルでも作れるんだ。回復薬って」
てっきりあの理科室にあるような試験管とかフラスコとか使うんだと思ってたのに。実際学園ではそれに近い道具を使ってた。
「お師匠様は毎回これで作ってたぞ。薬も食べ物と同じだ。問題無いさ」
「そうなんだ。これでいいんだ……」
「なんだか不満そうだな……」
「そんなことないよー。あ、ヴァイスは?作らないの?」
ヴァイスは考え込む時しっぽがゆらゆら揺れる。子犬みたいでかわいい。
「うーん。前も言ったと思うが、私はこういうのはちょっとな。私が作ると何故か爆発するんだ……」
前言撤回。やっぱり恐ろしいリスだわ……。
「そ、それで、これって本当に効果あるの?ヴァイスちょっと飲んでみてよ」
「なんてことを言うんだ!!初めて作った回復薬を私で試そうとするとは……!ノーラ、恐ろしい子!」
「やっぱりちゃんとできてないの……?」
初等部の時と同じなの?思い出して悲しい気持ちになった。
「よし!畑に行くぞ!それを持ってついて来い」
「畑?」
不思議に思いながらも回復薬のボウルを持ってヴァイスの後をついて行った。
「え?ええっ?!成長した?!」
ヴァイスに言われて回復薬を畑にまくと植物達がぐんっってのびた!トト〇がいる!?
「おお!やっぱり成功だな。しかもかなり質が良い」
「これが判定方法なの?」
「ああ、お師匠様もこうやってたぞ!じゃあ飲んでみるか!」
やっぱりダメな可能性もあったんじゃない……。でも、私にも作れたんだ!回復薬!治癒魔法は使えないけど回復薬は作れた!嬉しいな。
「お、美味しい!ノーラは料理が上手だな!」
「え?美味しいの?でも、料理って……。あ、ほんとだ」
ヴァイスを真似て残った回復薬を指先につけて舐めてみた。良薬口に苦しで、子どもの頃病気の時に飲んだのは苦かった記憶があるんだけど、私が作った回復薬はほんのり甘くてとても飲みやすかった。なんだか体がポカポカしてきて、元気が出てきたような気がする。
「さあ!午後からも頑張ろうっと!ついでだからバターの実を採ってから帰るわ」
「ああ、明日は孤児院へ行く日か。今回は何を作るんだ?」
「クッキーかな。ジャムを挟んでジャムサンドクッキーにしようかと思うの」
「へえ!いいな!早く食べたいな」
「ヴァイスって甘いの好きよね」
「酒の方が好きだけどな」
「え?ヴァイスって何歳なの?」
このスフェーン王国では二十歳未満の飲酒は禁止されてる。前世と一緒なのだ。
「秘密だ。女性に年齢を尋ねるものじゃないぞ、ノーラ」
ちっちって指を振るヴァイス。そういえばヴァイスっていつからここにいて、どのくらいリスの姿でいるんだろう?本当に女の人なのかな。聞いてみたいけど、なんとなく聞けなかった。
グレープフルーツほどの大きさの黄色い果実をいくつか採って小屋へ帰った。その果肉をスプーンで取り出して温めてから練るとバターみたいになる。味は本当にバターで試しに町で買ってきたバターと比べてみたんだけど、遜色なくてかえって風味がいいくらいだった。もちろんお菓子作りに使っても問題ない。
私は午後の時間を全部使って大量のクッキーとジャムを作った。
「あとはクッキーにジャムを挟んでと」
冷ましたクッキーとジャムを組み合わせて、明日の差し入れが完成した。
「味見!味見!」
「はいはい。クッキーもジャムも味見してたのに」
ジャムサンドクッキーを二つお皿に取り分けて、お茶を淹れてヴァイスに出してあげた。
「はあぁっ!一緒に食べると更に美味しいな」
「ほんとだ!良かった。我ながら美味しくできた。明日みんなに持っていくのが楽しみだわ」
一度に二十人分のお菓子を焼くのはちょっと大変だけど、子ども達が喜んでくれるから作り甲斐がある。
「片付け終わったから、暗くならないうちにお風呂に入ってくるね」
「気を付けるんだぞー」
二つめのジャムサンドクッキーをサクサク齧りながらヴァイスは手を振ってる。
「うん。いってきます」
体と服を洗ってから、ゆっくり温泉につかる。
「はぁ……。幸せ」
朝起きてパンを焼いてスープをつくる。ヴァイスに魔法の事や薬づくりを教わって、今日は子ども達の為のお菓子を焼いた。お風呂の後は夕食に朝の残りのスープとパンとソーセージを焼いて食べて、お茶を飲みながら眠るまでは本を読んだりヴァイスと勉強したり。
「生きるために、食べるために働くのって大変だなぁ」
暗くなりかけた空を見上げた。澄んだ空には明るい星が見え始めてる。
「でも不思議と辛くない。毎日元気で過ごせるのは楽しいし嬉しい」
温泉から上がって頭と体を拭いて、洗って干してあった服に着替えて小屋へ帰る。その途中で転移門の石のサークルが目に入った。
「そうだ。今夜はヴァイスに転移門の事を教えてもらおう。本を読んだけど、少し難しいところがあったんだった。転移門の設置の仕方とか、一つの転移門は複数の行き先を設定できるのかとか、魔法石の選び方とか……ふふ」
知ることも楽しい。
このおかしな森に来てからは心が軽くなって楽しいことが増えた気がする。
ずっとこんな穏やかな日々が続いていくといい。そんな風に願いながら今夜も眠りについた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!