アリスの思いつき
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スフェーン王国王立学園
特別教室
授業中
「なんだか教室の中が寂しくなってしまったわ……」
授業中にもかかわらずアリスはぽそりと呟いた。
(結局ジェフ様とグラントリー様は逮捕されて学園を退学になっちゃった。そりゃあ、あんなことをしてしまったらそうなるわよね。はぁ。最近エルドレット殿下はあまり学園に顔を出してくださらないし)
アリスは頬杖をついて窓の外を眺めた。アリスの特別教室での席は窓際の後ろから二番目。今日は不在だが隣の席はエルドレット。前の席はジェフ、斜め前はユーイン。斜め後ろにクリストファ。そして後ろの席にはグラントリー。今、アリスの席の周囲には誰も座っていない。ジェフとグラントリーは退学になり、エルドレットはその後始末で忙しく、ユーインとクリストファはそれぞれ、家の用事などで学園に来ていない。
(クリストファ様とユーイン様は私の事を可愛いって褒めてくれて大事にしてくれるけど、それだけなのよねぇ。お誘いすればデートはしてくださるけど、頬にキス止まり。私がエルドレット様と仲良くしててもジェフ様やグラントリー様みたいにあからさまに嫉妬はしてくれなくてつまらないわ。
つまらないといえば今日も先生のお話はつまらないわね。どうせ授業や試験を受けなくても聖なる乙女の私は卒業できるし、聞いてても仕方ないのよね。でも学園をスキップしたらお城で仕事三昧になっちゃうし、放課後に遊びにも行けなくなっちゃうからもう少し学生でいたいわ……。
クリストファ様とユーイン様のお家は元々エルドレット様を国王に推す貴族の派閥にいたから、エルドレット様の有利になるように動いていたみたい。今の私は評価がほんの少し下がってしまってるから、お二人ともあまり私に構ってくれなくなってしまった。もしかしたらエリノーラ様推しになるつもりかしら)
アリスは服の下から取り出したペンダントを揺らした。ほのかに甘い香りが風にのって漂い始める。
(エリノーラ様はなんで今になって聖なる乙女になることを承諾したのかしら……。あの人絶対おかしいわよね。だって前まで魔法なんて使えなかったのに、急に復学したと思ったら急に魔法が使えるようになってた。それにどうして復学できたの?私に酷い事をしたのに!絶対なにかズルをしたのよね。
それにシルヴァン様よ!どうしてあんな美しい方と婚約なんてしてるのよ!エリノーラ様には勿体ないわ。エルドレット様は王子様だけど、顔はシルヴァン様の方が断然上!!シルヴァン様が王家にとどまってくれるのなら、私も考えるのに。あとリオン様やアレックス様とも仲が良いのは何故なの?リオン様は私が優先的に治癒魔法をかけてあげたのに、どうしてエリノーラ様の方へ行っちゃうの?おかしいわよ!アレックス様もお綺麗な方だから、私がお話してあげようとしたのに私の事避けるし……)
アリスは教室の隅、比較的最近この特別教室の仲間入りをした廊下側の席のティモシーちらりと見た。
(そういえばあの方ってエリノーラ様の弟だったわね。確か異母姉弟だったかしら。……あんまり似てないわね。みんなどうかしてるわ。あんな冷たい顔のエリノーラ様なんかと…………そうだわ!いい事思いついちゃった!私ってやっぱり天才!エリノーラ様にもここへ来てもらえばいいのよ!私がエリノーラ様と仲良くしてあげれば芋づる式にみーんな私のお友達になってくれるわ!)
アリスは机の引き出しから紙とペンを取り出した。授業のノートをとるためではない。簡単な文字を様々な図形と組み合わせていく。
(こんな感じだったかしら。ジェフにはらんようしちゃ駄目って言われてたけど、あと少しくらいなら大丈夫よね)
アリスは書き終わった紙を丁寧にたたんでポケットにしまった。
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「エルが?あいつ、学園に来てたんだ……」
私は図書館の帰りにエルドレット殿下と遭遇したことをシル様に話した。お昼休みの食堂は生徒達で混雑してる。いつものように隅っこのバルコニーに続くガラスの扉の近くのテーブルに座った。この席は冬の晴れた日は明るくお日様がさしてあったかい。
「あれだけ言ったのに、まだリノーの事を諦めてなかったのか」
「でも!きちんと言い返しましたから!それはもうきっちりと!あれだけはっきり言えばもう諦めてくださると思います」
ああ、シル様がすごく難しい顔をしちゃってる。やっぱり心配かけちゃった。でも内緒にしておくわけにもいかないし、どうしようもなかった。また腹が立ってきたわ。エルドレット殿下って勝手すぎる。王太子様じゃなくて良かった。殿下が国王になったら政治が滅茶苦茶になってしまいそうだもの。
「リノー、エルには僕からもう一度釘を刺しておくから心配しないで。でも一応学園ではこれからも単独行動はしないでね」
「はい。気をつけます」
「さあ、冷めてしまうから食事にしよう」
今日のランチはあったかいポトフを選んだ。柔らかく煮えたチキンがホロホロで野菜も柔らかく自然の甘さでとても美味しかった。学園の食堂は昼休みから夕方まで空いていて、ランチタイムの後はカフェメニューも充実してる。メニューも豊富で生徒や学園関係者は無料で食べ放題。さすが貴族子女が通う王立の学園って感じ。パフェとかクレープとかもあるんだけど、まだ食べたことがない。友達いなくて一人で食べる勇気が無かったんだよね……。
「まあ!こちらにいらっしゃったのですね!エリノーラ様!」
美味しくごはんを食べていたら、高く澄んだ声で呼びかけられた。
「ローザリア様……とティモシー?」
なんで二人が一緒に、こんな所に?アリス達って特別教室にお昼ごはんを運ばせて、そこで食事してるんじゃなかったの?
超意外な人物の登場にシル様も私もとっさに言葉が出なかった。
「私も久しぶりにこちらで食事をしようと思いましたの」
アリスとティモシーは許可を得るでもなく、勝手に私達の真正面に座った。
「今日はシトリア様もサンドライト様もいらっしゃらないのですね」
アリスはきょろきょろと周囲を見回した。
「まあいいですわ。今日はお願いがあって参りましたのよ?」
一人で喋りまくるアリスと無言のまま食事するティモシー。なにこれ?どういう状況なの?私とシル様は顔を見合わせた。
「私達、仲良くしましょう!」
目を輝かせて、ポンと両手を合わせたアリスは無邪気にそう言った。なんだか一瞬甘ったるい匂いが漂ってきた気がする。
「は?」
「ほら!エリノーラ様は今度聖なる乙女に任命されるのでしょう?そうしたら私達は仲間じゃないですか!過去の事は水に流して親交を深めたいと思いましたの。ですからエリノーラ様も特別教室へいらして一緒にお勉強をいたしましょう?もちろん殿下もご一緒に!」
「残念ですが、お断りしますわ」
「え?」
アリスは物凄く意外という顔をした。私は食べ終えたお皿をのせたトレーを持って立ち上がった。
「特別教室での授業は特別なカリキュラムで進んでいるとお聞きしています。私が今から参加してもついていけるとは思えませんし、他の大勢の皆さんと同じ教室で授業を受けたいと望んでおりますので」
「そうですね。僕もリノーと同意見です。じゃあ、僕達はこれで。そういえばエルドレットが登校しているようですよ」
「え?」
驚くアリスをしり目にシル様もトレーを持って立ち上がった。
「ではごきげんよう」
シル様と一緒に急いで食堂を後にした。
何故か一刻も早くこの場を立ち去りたいって思ってしまったから。
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