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しつこいなぁ

来ていただいてありがとうございます!




あの親睦会の事件から一週間後、流行り病に続いて再び休校になっていた王立学園が再開された。


「こんなに休みの期間が多くなると補習がさらに増えそう……」

なんて暗い気分になりながら、身支度を整え、制服のリボンを結んだ。実際問題、流行り病が収まってからは放課後に補習行う先生が増えた。補習への参加は強制では無いけれど、補習の内容も試験範囲に含まれるからちょっと洒落にならない。夕べも補習の予習をしていて、教科書を机の上に置きっぱなしにしちゃってた。カバンの中に教科書が入ってないことに気付いて慌てて取りに戻る。


「危ない危ない!……」

教科書を手に取るついでにふと思いついて、机の引き出しを開けた。中にはリボンのかかった箱が三つ。アクアマリンと金のブローチが二つと菫石のタイピンとカフス。以前に宝飾店で買い求めたアクセサリー達。シル様の誕生日は今週末。ケーキを焼いてこれを渡してお祝いしようと思ってる。自然と顔がにやけてしまう……。喜んでもらえるといいな。


「あれ?この本って……」

机の上に並べてある教科書達の背表紙の中に違和感。

「ああ!学園の図書館で借りた植物図鑑!まだ返してなかった!!」

私は慌てて植物図鑑もカバンにしまい込んだ。一度延長貸し出しの届けをしたけど、その返却期限がとっくに過ぎてる……。





シル様と二人で登校すると、学園の雰囲気が変わっていた。


「あ、アイザックス様!おはようございます!体調はいかがですか?」

門のそばでイブさんを見かけて声をかけた。また怖がられてしまうかもって思ったけど大丈夫だったみたい。

「おはようございます。アストリア様、殿下。その節はお世話になりました。体調は全く問題ございません。ありがとうございます。改めて父がお礼に伺いたいと申しております」

あの時、毒に倒れたイブさんは元気そうに笑ってる。

「お礼なんて気にしないでください。お元気そうで良かったですわ」

「リノーの友人とその親御さんなら、うちはいつでも大歓迎ですよ」

シル様が微笑んで私を見た。

「シル様……!ありがとうございます」

友人……!友人かぁ。本当に友達になれたら嬉しいなぁ。えへへ、顔がにやけてしまう。

シル様の言葉にイブさんは少し驚いた顔をしてたけど、すぐに笑顔に戻った。

「本当にお二人は仲がよろしいのですね。では近いうちにお伺いさせてていただきます。失礼いたします」



教室へ入るとみんなが挨拶を返してくれた。シル様だけじゃなくて私にも。笑顔がぎこちないのは気になったけど、親睦会の前の時のような嫌な雰囲気は無くなったみたいでちょっとホッとした。でも、シル様がにこやかな笑顔を浮かべながらも冷たい声で

「くだらない噂に振り回されて皆愚かだな……」

なんて呟いていたのがちょっと怖かった。


あの親睦会の事件のあらましはもう知れ渡っているんだろうか……。みんなが実際に見てるのはイブさんが倒れて、私が疑われて、でも私が解毒薬を持っててイブさんに飲ませて、イブさんが助かって、私が毒を無効化して、それを証明して見せて、エルドレット殿下とシル様が二人のしたことを追求した所までだよね。その後もシル様が毒を受けたりと色々あったけど……。


今、あの二人はお城に捕まっていて、近々裁判にかけられるらしい。シル様が言うにはかなり厳しい処分が下りそうだって……。彼らの目的は私を陥れる事だったけれど、王太后様の暗殺未遂ととられる行動だったから。


私はあの時グラントリーが私を睨んだあの目が忘れられない。どうして私はあそこまで彼に恨まれてしまったんだろう。アリスのため?それだけで私を殺したいほど憎んだの?考えても分からなかった。


「ローザリア伯爵令嬢は登校してるのでしょうか……」

アリスは『王妃様になりたい』っていう自分の言葉が原因で、ジェフとグラントリーがあんな事件を起こしたと知って落ち込んでいるんじゃないかって思った。

「学園には来づらいでしょうね……」

「リノーが心配する必要はないよ」

シル様の声はさっきよりもさらに冷たく聞こえた。

「……シル様?」

不安になってシル様の方を見ると、いつも通りの優しい笑顔があった。

「リノーは優しいね……」

そう言って私の頬に口づけた……。ええ?!ここ教室内だよ?私は慌てて周囲を見回した。良かった。ちょうど先生が教室へ入ってきたところで、みんなそちらを注目してたみたい。シル様は涼しい顔で教科書を開いてる。私は動揺して教科書を落としそうになってしまった……。シル様って心臓に悪い……。おかげで授業に全然集中できなかった。




休み時間になると私は図書館へ急いだ。シル様が一緒に行くって言ってくれたけど、クラスメイトに声をかけられていたから、一人で大丈夫だって伝えて本を抱えて教室を出た。

「図書館って朝は開いてないんだよね。夜は割と遅い時間まで開いてるんだけど……」

図書館で遅くなったことをお詫びして、植物図鑑を返却した。司書さんは笑って許してくれたけど、これからは気をつけなきゃ。


授業の間の休み時間はそんなに長くない。走らないように廊下を急いでいると後ろから呼び止められた。

「エリノーラ!良かった!一人?君と話したかったんだ」

「エルドレット殿下……。ご機嫌麗しく……」

「ああ!そんな堅苦しい挨拶はいいよ!それよりも聞いた?彼らの事」

「彼ら……はい。お聞きしております」

「全くとんでもないことをしてくれたよね」

エルドレット殿下の他人事のような言葉と態度に私は嫌悪感を持った。そもそもエルドレット殿下があんな訳の分からないことを言い出さなければ、彼らが暴走することは無かったんじゃないの?


「もうすぐ授業が始まりますので、これで失礼いたします」

「待って!エリノーラ!君、聖なる乙女になることを承諾したんだろう?ならまだ間に合うよ。僕はまだ君を選び直す事ができる」

この人何を言ってるの?まだそんな話を続けるつもりなの?あんな事があったのに?しかも前にきちんと断ったのに!

「僕がアリスを選んで悲しかったんだろう?でも大丈夫だ。今ならまだ王家に嫁ぎ、王族の一員になれるよ」

ニコニコと笑うエルドレット殿下が宇宙人に見えた。この世界に宇宙人っているのかな?前世では絶対にいるって私は信じてたけど。私は息を吸い込んだ。


「前にも申し上げましたけれど私はシルヴァン様を本当に心から愛しております。そして、幼い頃からずっとエルドレット殿下に特別な感情を持ったことは()()()()()ございません。婚約も父の取り決めたことに従ったまでです。そこに私の意思は()()()()()()()()も入ってはおりませんでした。婚約破棄を()()()()()()()時はとても安心いたしました。ですから今後一切、エルドレット殿下との未来はあり得ません。殿下がお選びになられた聖なる乙女であるローザリア様を大切になさってくださいませ」

よし!一気にはっきりと言ってやったわ!


「……エリノーラ」

「殿下、私達はもう婚約者同士ではございません。どうか名前で呼ぶのはやめていただけませんか?」

「エリノーラっ!!」

しつこいなぁ。私の話ちゃんと耳に届いてないの?不安になってくる。

「授業が始まりますのでこれで失礼いたします」


ああ、授業の鐘が鳴り始めちゃったじゃない!私は踵を返して教室へ走った。廊下は走っちゃ駄目なんだけど、遅刻したくないから仕方ないよね。どっかの馬鹿王子が悪いんだから!






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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