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もう隠せない

来ていただいてありがとうございます!

 


「あ、雪……」

馬車が離宮に到着すると、曇り空から雪片が少しだけ舞い落ちてきた。

「本当だ。寒くない?リノー」

「大丈夫です。シル様こそ本当に大丈夫ですか?」

「うん。リノーのおかげでもう本当に何ともないよ」

いつものように微笑みながら私の手を取るシル様の手のひらには、まだ小さな傷跡が残ってる。


あれから二日、シル様はほぼ全回復して今日は一緒にセラフィーナ様の離宮へ招待されてやって来た。


「本当に無事でよかったわ、シルヴァン」

少し呆れたように微笑むセラフィーナ様は今日もとても綺麗。

「ありがとうございます、王太后様。ご心配をおかけしました」


「普段は冷静な貴方が無茶をしたわねぇ」

「咄嗟に手が出てしまったんです。グラントリーが何かを投げつけてきて、あのままだとリノーの顔に当たって傷がついてしまうと思って」

「そんな……私の顔のことなんて気になさらなくてもいいのに」

「まあ!とんでもないわ!女性の顔は守られるべきものですよ、エリノーラ!」

「そうだよ!リノーは綺麗なんだから、そんなこと言っちゃ駄目だ!」

「そ、そうでしょうか……?」

え?そんなに?!私にとってはシル様の命の方が大事なんだけどな。


「まさか毒刃だったとはね。うかつだったよ、ははは」

「笑い事ではないです、シル様」

居心地の良い応接室の中、私は隣に座るシル様をジトっと睨んだ。

「ごめん、ごめん。そんなに怒らないで。リノー、あれから怒ってばかりだ」

「本当に死んでしまうと思って、とても怖かったんですからね!」

「ごめんね」

なんだか、怒られて謝ってる割にはシル様が嬉しそうなのは何故なの?

「まあ、まあ!幸せそうで何よりだわ!」

セラフィーナ様の朗らかな笑い声が響いた。幸せそう?私怒っているのに??



「セラフィーナ様、今回はお力をお貸しくださってありがとうございました。おかげでシル様を助けることができました」

私は改めてセラフィーナ様にお礼を言って頭を下げた。

「あら、わたくしは何もしていないわよ」

「ええ?でもあの時、お力を貸してくださいましたよね?」

「いいえ、なにも。わたくしはほんの少し魔力の流れを導いただけ」

「あの清らかな力のおかげで、私は魔力の使い方がわかったんです。本当にありがとうございました」

私はもう一度深く頭を下げた。


「ふふ、未来の「ティアラ」を導けたなんて光栄なことだわ。エリノーラにはどんな名前が冠されるのかしら。楽しみね」

セラフィーナ様は静かに微笑み、お茶を飲んだ。「ティアラ」「名前」……。そうだった。そういう設定があったんだった。でも……私?

「王太后様、そのことは!」

シル様の焦ったような顔を見て、セラフィーナ様は何かを察したようだった。


「シルヴァン。エリノーラの力のことを知っていたのですね?」

「…………」

「……シル様」

そういえば、私の力の事は秘密にしようとしてたんだった。でも今回はどうしようもなかったと思う。


「ねえ、シルヴァン。わたくしが国中を回っていることは知っているでしょう?」

「……はい」

「その中には魔の森も含まれているのよ」

「!」

シル様も私も驚いた。だってあの魔の森は王国の一部とはいえ荒野に囲まれた土地だから、そんなに重要視されてないと思ってた。セラフィーナ様は今までに何度か森を浄化しようと訪れていたそうだけど、上手くいかなかったそうだ。


「それなのに、つい最近魔の森へ行ったら、驚いたわ!森の毒が消えているのですもの!」

セラフィーナ様は結界のせいで森へは入れなかったけれど、外から森の様子を見て毒が消えているのがわかった。


「ノーラの回復薬とノーラの焼き菓子」

セラフィーナ様はテーブルの上のクッキーを一つ手に取った。親睦会の時のものは駄目になってしまったから、一種類だけだけど私が焼いてきたものだった。

「これと同じものね。あの街道の町では驚くほど流行り病の患者が少なかった」

「全てご存じだったのですね……」

シル様は諦めたようにため息をついた。

「エルドレットの側近が調査報告書を上げてくれたのよ。国王陛下も王太子も目を通しているわ。そして今回の事件……。エリノーラは無効化の力を持つ聖なる乙女なのでしょう?」


応接室に沈黙が下りた。


「貴方はエリノーラを隠そうとしたのね……」

「それで?王家はどうするつもりなんですか?エリノーラを国王陛下の側妃にでもするんですか?それとも王太子殿下かな?」

え?え?何でそうなるの?シル様が余裕が無さそうに笑ってる。こんなシル様見たことがない。窓のガラスがパキッて音を立てた。嘘!凍ってる?!雪の結晶が張り付いてるみたいになってる!外ってそんなに寒いの?

「あ、あのシル様……」

シル様が私の手をぎゅっと握った。ちょっと痛い……。

「シル様?」

シル様の体が銀色の光に包まれてる。これってシル様の魔力の色?だんだんうっすらと紫がかってきた。綺麗……。ってそんな場合じゃないか。シル様が立ち上がったから、私も一緒に立ち上がった。


「落ち着きなさい。シルヴァン・ウィステリア・スフェーン」

セラフィーナ様の凛とした声が響いた。

「あなた方を引き裂くようなことはしません。わたくしがさせません」

その言葉を聞いたシル様の手が少しだけ緩んだ。

「大体、そんなことをしようものなら、貴方はエリノーラを連れてどこかへ行ってしまうでしょう?」

あ、もしかしたらさっきシル様は超時空跳躍魔法を使おうとしてたのかもしれない。


「まあ、そんな話は出るには出ていたけれど……」

シル様の手にまた力が入った。

「わたくしの全力、全権限を使ってやめさせたから安心なさい」

シル様はやっとソファに座り直した。でもまだ手は握られたまま、私も一緒に座った。不安な気持ちが消えずにシル様の腕にしがみついてしまった。側妃とかそんなの絶対嫌なんですけど……。


「でもね。こんな大ごとになってしまった以上、もうエリノーラを隠しておくことはできないわ。エリノーラも、そして貴方も王国の宝なのですからね」

これからどうなっちゃうんだろう。今までみたいには生活できないの?不安で更に強くシル様の腕を抱き締めた。

「…………」

「ふふ、本当に二人は仲が良いのね。大丈夫よ。わたくしが守りますからね」


気が付くと窓の氷は解けていて、何故かシル様の顔は少し赤くなっていた。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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