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生還

来ていただいてありがとうございます!



私の前にかかった影はシル様の手。


カランっと乾いた音を立てて床に落ちたのは細くて黒い小さな剣。


忍者が持ってる、クナイっていう武器に似てる。


目の前でシル様がゆっくり倒れていくのを見てるのに体は動かなくて……。


グラントリーが投げた長い針のような小剣をシル様がはたき落としてくれたんだ。頭の中では理解できてる。



「暗器かっ!」

リオン様が叫んだ。あんき……って何だろう。目の前で倒れたシル様の手は血が滲んで、傷口が紫色に変色していっている……。シル様、凄い汗……。なに?なんで?


「ははっ馬鹿な男だ!そんな女の為に死ぬのか!言っておくがそれに塗られた毒はあの小瓶の毒よりもずっと強力だ!もうそいつは助からない!絶望しろ!魔女め!王家との繋がりもパァだな!ざまあみろ、アストリア侯爵!」

さっきの倍以上の数の兵士に取り押さえられたグラントリーが嘲笑する。


毒?あの剣に毒が?解毒薬……、もう無い。さっきイブさんに飲ませてしまった。もう無い!

「シル様……」

もう顔が土気色に……。嫌だ、そんなの嫌だ!

「嫌っ!シル様!シル様!」


「落ち着きなさい。エリノーラ」

シル様を揺さぶる私の手をひんやりとした白い手が止めた。

「セラフィーナ様!」

そうだわ!ここにはセラフィーナ様がいらっしゃったんだ!澄んだ空気をまとう浄化の女神。

「どうか、シル様を助けて下さいっ!お願いしますっ」

「残念だけど、わたくしでは無理よ。たぶん間に合わない」

「そんな……!」

「だから貴女がやるのよ」

「私が?でも私は治癒魔法は……薬しか……」

「いいえ、治癒魔法じゃないわ。体内の毒を一瞬で全て無効化するの。貴女にならできるわ。魔の森の毒を消した貴女になら。大丈夫よ。私も手伝うわ。さあ、シルヴァンの手をとって」

震える手でシル様の手を握った。

「魔力を放出するの……回復薬を作る時のように」



私はシル様の手のひらに、どす黒く変色した傷口に口付けた。シル様はもうほとんど呼吸をしてない。

「シル様……!」


逝かないで


私の全部の力をシル様に……




「世界が青い……」

「なんだ?これは?」

「これが、エリノーラの魔力か……なんて美しい……」

「まあ、綺麗な青い光……。これがエリノーラの魔力の色なのね。銀色の光の粒がまるで星の光のようだわ」


誰かの声が聞こえてくるけど、私は魔力を放出することに集中した。これじゃ足りないかもしれない。もっと、もっと、もっと!


「そう……上手よ、エリノーラ。貴女ならできるわ。大丈夫、私も手伝うから。魔力の流れを操って。全ての魔力をシルヴァンに……」

セラフィーナ様の声を導きに魔力の流れを操る。イメージは渦を巻いた風。清らかな風がその動きを支えてくれてるような気がする。大丈夫。きっとできる。ううん、やってみせる。もう一度私の体を通った魔力の風を一気にシル様の中へ押し流す。


……今、やっとわかった気がする。魔力が流れる感覚が。


魔力は収束して私を通りシル様の体の中へ、イブさんの時よりも強くシル様の全身が輝き、やがて光は消えた。

「回復薬を作る時とおんなじだった……相変わらず綺麗だなぁ」

アレックスの声が聞こえる。

「顔色が元に戻ったぞ!」

リオン様の声に私はいつの間にか閉じていた目を開いた。

「……シル様?」

「もう大丈夫よ」

見上げるとセラフィーナ様が微笑んでくれている。

「頑張ったわね」

苦し気な表情は消えて、シル様は穏やかに目を閉じていた。呼吸もゆっくりだけど、戻ってきてる。



「……っ」

身じろぎの後、講堂の床に寝かされたシル様がうっすらと目を開けた。いつも通りの優しい菫色の瞳……。解毒できた……?

「リノー」

シル様と目が合う。解毒できたんだ!よかった……。

「シル様!」

「リノー、大丈夫……?」

「私の心配なんてしてる場合じゃ無いでしょう……もう!死んでしまうところだったんですよっ」

ホッとして涙がこぼれてくる。私は起き上がろうとするシル様に抱き着いた。

「よかった……シル様!」

「うっ……」

シル様は体の力が抜けてまた倒れこんでしまった。


「きゃーっ!シル様っごめんなさいっ」

「毒は消しても、まだ削られた体力が回復したわけでは無いから……」

セラフィーナ様が苦笑してる。

「私、回復薬を取ってきます!あ、それよりセラフィーナ様に治癒魔法をかけていただいた方が……」

立ち上ろうとしたけど、できない。シル様にがっちりと抱きしめられてる……?あれ?シル様、体力も回復してるんじゃない?

「あ、あの、シル様、腕を離していただけますか?」

このままだと私、治療の邪魔になっちゃう。あと、みんなに見られててかなり恥ずかしい。

「すごく久しぶりだから、少しだけこのままでいて……」

そんな風にささやかれたら、何も言えなくなってしまう。だって私も寂しかったから。



何故か終始不機嫌そうなエルドレット殿下の指示でジェフとグラントリーはお城へ連行された。最後まで二人、特にグラントリーは私を睨みつけたままだった。私はどうしてあそこまでグラントリーに恨まれているんだろう……。聞いてみたかったけど、話をすることはできなかった。





ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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