冬の初めの親睦会⑤ 終幕
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痛みと悔しさで涙が滲んでくる。
グラントリーは騎士団に所属している。スフェーン王国では騎士団と魔法師団の下に王国兵士団の組織がある。騎士階級のグラントリーは兵士達をある程度自由に動かすことができるから、私を魔の森に置き去りにする指示を出したのはグラントリーなんだろう。
「でもどうして?どうして私を殺そうとしたの?」
ゲームのシナリオでは王都を追放になるだけだったのに、命まで狙われるなんて……。
「そんなの、お前が邪魔だからに決まってる。アリスにとって」
グラントリーの声には憎しみがこもっている。
「アリスの指示なの……?うっ」
背中に捻りあげられた腕の力が強められた。
「清らかなアリスがそんなことを指示するはずがないだろう!」
「僕のリノーに触るな!!」
「シル様……」
「大丈夫?リノー、立てる?」
シル様が私の腕を掴むグラントリーの手をはがして、立たせてくれた。いつも通りのシル様の声。今度はホッとして涙が出てくる。
「ん?なんだ?これは。これも毒薬か?」
その時、ジェフがバスケットの中からまた何かを取り出した。
あれは!私が作った解毒薬!どうしてそこに?って考える間もなく私はジェフに向かって走り、解毒薬をひったくった。周囲で悲鳴が上がってパニックになってるけどどうでもいい!アリスを押しのけてイブさんの口へ解毒薬を流し入れた。
「飲んで!イブさん!」
「ぅう……」
幸い意識はあったから自力で飲んでくれて助かった。
「何をしてる!口封じにとどめをさすつもりか?!」
グラントリーが掴みかかろうとしてきたけど、リオン様が持っていたカップのお茶(たぶん熱い)をグラントリーの顔にぶっかけて、怯んだ隙にアレックスが後ろから羽交い絞めにして止めてくれた。
「う……」
苦しそうだった呼吸が落ち着き、イブさんの体が光り出した。その光が収まるとイブさんの顔色が急速に元に戻って目を覚ましてくれた。
「イブさん!大丈夫?!」
「エリノーラ様……?はい。大丈夫です。何ともないです……」
イブさんは驚いたように自分の両手を見てる。
「良かった……」
「エリノーラ、今この娘に飲ませたのは貴女が作った解毒薬?」
セラフィーナ様が私達のそばにしゃがみ込んだ。
「セラフィーナ様、はい、そうです。お菓子を焼いた時に間違えて一緒にバスケットに入れてしまったみたいで」
昨夜は徹夜だったから頭がぼけてたんだわ。きっと。でも昨夜の私グッジョブ!
「突き飛ばすなんて酷いですわ。乱暴な方ですわね、エリノーラ様!私が治癒魔法をかけておりましたのに!それにしても毒薬と解毒薬、両方準備なさっていたなんて一体何がなさりたいの?」
クリストファとユーインに抱き起されながら、アリスは私を恨みがましい目で見ていた。
「そうか!また自作自演か!自分で毒を仕込んでおいて、解毒薬を準備する!そうやって自分の立場を良くしようとしていたんだな!」
ジェフが勝ち誇ったように私を指差した。
「いや、そんなことしません。それに私は毒薬なんて扱うことはできないですから。それ、貸してくださいますか?」
ジェフは渋ったけど、セラフィーナ様が促すと毒薬だという黒い小瓶を渡して来た。私が小瓶を手に取ると、その瞬間パチンと何かが弾けた。突然思い出したけど、これって魔の森で死にそうになった時と同じ音だ。となれば……。
私は黒い小瓶の蓋を開けて、まだ残っていた液体を一口飲んだ。きゃあって周囲から悲鳴が上がる。
「リノーっ!!」
シル様が慌てたように私の手から黒い小瓶を取り上げた。
「まぁっ!」
アリスは両手で口を押えた。
「な、なにを!」
「ふん!逃げられないと思って自害か!潔いな」
ジェフもグラントリーも動揺してる。
でも何も起きない。
「何だ?何故……猛毒のはずなのに……」
「どうしてお前、何ともないんだ?!」
呆然としている人達に私は淡々と説明した。
「私、害のあるものを自動的に無効化してしまう体質らしいんです。だから私は毒薬を毒薬のまま扱うことはできないのです」
「リノー!なんて無茶をするんだ!体は?何ともない?今からでも一応治癒魔法を……!」
「大丈夫です、シル様。私はなんともありません」
「安心なさい、シルヴァン。私が診てあげるわ」
楽しそうに私とイブさんに向かって手をかざすセラフィーナ様。
「ああ、本当に大丈夫そうね。エリノーラもこの娘も毒は綺麗になくなってる。私の出番は無さそうだわ。エリノーラ、貴女ってすごいのねぇ」
「ありがとうございます。セラフィーナ様」
「良かった……リノー」
シル様は安心したように笑って私を抱き締めた。あ、あったかい……。講堂の中は温かいはずなのに体がとても冷えてしまっていたみたい。
「シルヴァン様……!どうしてそちらにいらっしゃるの?私のそばに戻っていらして!」
アリスがシル様の腕を引いた。
「何故ですか?何か勘違いをなさっているようですね。僕がそばにいたいと願うのは子どもの頃からずっとリノー……エリノーラだけです」
シル様はアリスの手をパッと振り払い、私に微笑みかけた。
「そんな……!シルヴァン様!」
「以前にも申し上げましたが、その呼び方を貴女に許した覚えはありませんよ」
シル様はアリスを冷たく睨み据えた。
「もう止めるんだ。アリス・ローザリア伯爵令嬢」
それまで黙って成り行きを見守っていたエルドレット殿下が静かに前に進み出た。
「エルドレット様!」
アリスは嬉しそうにエルドレット殿下に寄り添ったけど、エルドレット殿下の無表情を見て押し黙った。
「みんな、申し訳ないが、今日の親睦会はこれでお開きとする」
今回の親睦会はエルドレット殿下の言葉で終幕となった。
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