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冬の初めの親睦会①

来ていただいてありがとうございます!



夜は暖炉に火を入れることが増えてきた。森の小屋の魔法の暖炉とは違って本物の薪の暖炉。


夕食後は暖炉の前のソファにシル様と一緒に座って少しおしゃべりするのが最近の習慣になってる。



「親睦会が開催されるんですか?」

「うん。今回は一緒にドレスを見に行こうね」

んん?私の顔を覗き込むシル様の笑顔に何か含みがありそう?何か企んでる?気のせいかな?私はシル様の様子の変化に気を付けるようになっていた。まだよく分からないことが多いけど、今はとても楽しそうな笑顔だから大丈夫だと思う……。

「はい!楽しみです」


王立学園の親睦会は貴族子女の交流会。本来は夏休み前と秋の初めと年明けに行われるはずなんだけど、昨年と今年は流行り病の影響で、秋の親睦会は二か月遅れになってしまってる。


「ただ残念だけど、今回はダンスパーティーではないそうだよ」

「ええ?そうなんですか?それじゃあ、親睦会で何をするんでしょうか」

「お茶会だそうだ」

「珍しいですね。っていうか私は初めてです」

「そうだね。僕も初めてだ。でも王立学園では親睦会に外部からゲストを招くことがあって、その方次第ではダンスパーティーからお茶会に変更されたことが過去にもあったみたいだよ」

「じゃあ、今回はお客様がいらっしゃるんですね」

「そう。今回親睦会にいらっしゃるのは王太后様だ」

「セラフィーナ様が?!」


正直言うとまだ学園内の私への雰囲気は微妙なまま。だからシル様とダンスできるのは嬉しいけど親睦会と聞いてもとても親睦を深められそうになかった。でもまたセラフィーナ様とお話しできるかもしれないって思うと親睦会が楽しみになってきちゃった。


「リノー、嬉しそうだね。僕とのダンスより、王太后様との話の方がいいの?妬けちゃうな」

グイッと抱き寄せられてこめかみに口付けられた。

「シ、シル様っ!そんなことありません!シル様とのダンスはとても楽しいです!ただ、セラフィーナ様とはお会いできる機会がほとんどないので!」

「へえーそうなんだ」

ああ!シル様が悲しそうな顔に……、ああ、どうしよう……。


「……なーんてね、冗談だよ……え?」

私はシル様の頬を両手で挟んで唇を重ねた。一瞬だけ。目を開けるとシル様の驚いたような顔。

「わ、私が一番楽しいのも一番嬉しいのも、シル様と一緒にいる時です!」

ああ、やっぱり恥ずかしいっ。私はシル様の反応を見ることも出来ずに立ち上がった。

「それだけはわかってくださいっ!おやすみなさいっ」

む、無理だ……。私は急いで部屋を出た。ああ、はしたないって思われたかも……。自分の部屋に帰ってしばらくは恥ずかしさと後悔に苛まれた。



翌朝は食堂に下りていくのに勇気が要った。ドアの前でぐずぐずしちゃったけど、頑張ってドアを開けた。

「おはよう、リノー」

「お、おはようございます、シル様」

「おはよう、エリノーラさん」

「おはようございます!」

シル様のお母様はいつもの笑顔で出迎えてくれたけど、シル様は少し素っ気ない感じ。やっぱりゆうべのこと呆れてる?


「うふふ、シルヴァンったら今朝はいつにもまして機嫌がいいのよ?エリノーラさん心当たりあるかしら?」

「え?」

「母上!そんなことはありませんよ」

「まあ!隠したってわたしにはわかるわよ?何年母親をやってると思うの?」

「…………」

シル様頬が赤い。シル様って今、機嫌がいいの?全然わからなかった。まだまだ修行不足だわ……。もっと頑張らなくちゃ。






親睦会は三年生の生徒会役員と有志の協力者が中心になって企画、準備される。放課後、私に話しかけてきたのは生徒会のメンバーの一人だった。

「え?お茶会のお菓子を焼くんですか?私が?どうして私に?」

少しおどおどした眼鏡をかけたおとなしそうな女の子だった。確かアイザックス伯爵家のイブ様だったと思う。生徒会の書記の。

「そ、その……王太后様のご希望なんです。是非にと仰っていて……」

「王太后様の?」

そうか、確か前にそんな約束をしてた。まさか本当に私のお菓子をご所望くださるなんて。

「あ、あの、できるだけお客様のご希望には沿いたいと考えておりまして……その……」

「はい。わかりました」

「侯爵令嬢様にお菓子作りなんてご無理かと……へ?」

大きな目を真ん丸に見開いて驚いて、私を見てくるイブ様。ふるふる震えてチワワみたいで可愛い。


「作ります!王太后様のご希望でしたら、喜んでやらせていただきますわ」

「あ、ありがとうございますっ!これ、リストです!よろしくお願いしますっ!」

「あ、待って……」

イブ様は言うだけ言ってダッシュで走り去ってしまった。そんなに私って怖いのかしら……。私はため息をついて、手に残されたリストと書かれた紙を見た。

「なにこれ?!」

めちゃくちゃ品数が多い!しかも量も大量……!待って!これ全部私一人で作るの?!


「お待たせ」

ちょうどその時、目の前の部屋からシル様が出てきた。シル様がアリンガム先生と面談するからって、職員室前の廊下で待っていた時にイブ様に話しかけられたんだった。

「うーん、これはちょっと酷いね」

「お菓子を作るのはいいんですけど、これってほぼ全校生徒の分ですよね?流石に時間が足りません。せめて量を減らしてもらってきます」

「それは僕が折衝してくるよ。そういうの得意だから」

あ、シル様が何か悪い笑顔をしてる。任せて大丈夫かな?でもイブ様は私の事を怖がってたし、私が彼女に話すよりシル様に生徒会長に直接言ってもらった方がいいのかもしれない。

「……ではお願いできますか?」

「うん。任せて。後で行ってくるから。さあ、今日はちょっと僕に付き合ってもらうよ。昨夜のお礼もしたいしね」

シル様はそう言って片目を瞑った。

「え?」

昨夜のって……。思い出して一瞬で顔に熱が上がった。

「あの、シル様?」

「さあ、行こうか」

シル様は楽しそうに笑って私の手を引いた。












ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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