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王子達との面会

来ていただいてありがとうございます!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★




スフェーン王国王城

エルドレットの執務室



「これを見てくれるかい?」

シルヴァンは青い液体の入った小瓶を執務室の机の上に置いた。液体の中には銀色の光の粒がいくつか浮かんでいる。

「これは?随分と綺麗だね。少しいい香りがする。新しい香水かい?」

エルドレットはゆっくりと検分するようにその小瓶を回し見た。


(エリノーラへのプレゼントか?王国がこんな状況なのに呑気なものだ……。まあ、(まつりごと)の中心から離れてるのなら仕方ないかな……)


「いや。回復薬だよ。しかもかなり効果が高いものだ」

「そうなの?こんなものをどうしたの?もしかしてこれって」


(そういえばシルヴァンは魔法王国に留学していた。伝手(つて)があって新薬を手に入れたのかもしれない)


エルドレットは期待で一瞬色めき立った。

「これはリノーが作った高回復薬だよ」

「え?エリノーラが?」

「もう彼女は僕の婚約者なんだから、そんな風に呼ばないでくれる?」

穏やかに微笑むシルヴァンの声に怒りを感じて、エルドレットはすぐに謝った。

「すまない。つい。それでこれをアストリア侯爵令嬢が作ったっていうのは本当かい?」

「ああ。彼女はずっと努力していてね。ここまでのものを作れるようになったんだよ」

シルヴァンは誇らしげに深い青色の回復薬の小瓶を見つめている。シルヴァンと幸せそうに笑いあっているエリノーラの顔が思い出されて、エルドレットの胸の中に黒い感情が芽生えた。


(役立たずを捨ててやったのは僕なのに、なんで彼女は僕といる時よりも幸せそうなんだ。それに回復薬だって?聖なる乙女の候補ですらない()()()()()()()()()の作ったものなんて信用できるか!)


「これを役立ててもらいたいってリノーが願ってる。僕も同じ気持ちだ。これ以上病が広がらないように協力したいんだ。ストックはたくさんある。王国で買い上げて、各地の治療院で無料あるいは安価で配ってもらいたい」

「分かった。検討しておくよ」

「…………。それじゃあ、僕はこれで失礼するよ」

「もう行くのかい?せっかく時間を作ったのに。よければお茶でも」

「忙しい君の時間をこれ以上とらせるのは申し訳ないからね」

シルヴァンが立ち上がろうとした時、突然前触れなく執務室のドアが開いた。


「エルドレット様ぁ!さっきシルヴァン様がいらしてたみたいですけど……!まあ!やっぱりいらしたわ!」

「?!」

「アリス!どうしてここへ!」

驚いて絶句するシルヴァンと戸惑って立ち上がるエルドレット。色々とあり得ないことが起こり、シルヴァンはしばし思考停止した。


「アリス!君は仕事中だろう?王城治療院にいるはずだ。どうしてここへ!」

「お茶の時間ですもの!エルドレット様とお茶をいただきたいと思って。婚約者との交流は当然のことですわ!それに朝からお仕事ばかりで私もうクタクタですわ。シルヴァン様もご一緒にお話ししましょうよ」

無邪気な笑顔でアリスはそんな提案をしてきた。まるで今から本当にお茶会にでも行くような美しいドレス姿のアリスはシルヴァンの隣に座ろうとする。


「僕はこの後まだ用事がありますから、これで失礼を」

今度こそ立ち上がったシルヴァンはドアの方へ向かう。

「ええ?せっかくお会いできたのに」

一度エルドレットに視線を投げて、シルヴァンはアリスを全く見ずに執務室を出て行った。

「もう!シルヴァン様ったら酷いっ」

頬を膨らませるアリスを困惑しながらも見つめてしまうエルドレット。


(やっぱりアリスは可愛らしい。エリノーラとは全然違う)


「アリス、お茶を飲んだらちゃんと仕事に戻るんだよ?いいね?」

「もちろんですわ。私、頑張ります」


(日々患者が増えていく王国の状況はアリスや他の聖なる乙女達とも共有している。アリスも昨年よりもたくさんの病人を治癒しているのに、何故状況が悪化の一途を辿っているのか……)


エルドレットの苦悩は続く。


(こんなものに構ってる暇はない)


エルドレットは素人の作った回復薬の小瓶を机の引き出しにしまい込んだ。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


スフェーン王国王城

王太子スチュアートの執務室


「これは学長先生。どうして貴女がこちらに?」

執務室に通されたシルヴァンは驚いた。王立学園の現学長であるロックハート女史がいたからだ。白髪をひっつめ、黒いドレスを身につけた齢六十のやや厳しい印象を抱かせる表情の痩せた女性だ。

「これは王弟殿下、御前失礼を!」

シルヴァンは慌てて立ち上がるロックハート学長を制した。

「いえ、そのような礼は不要です。今僕は一学生にすぎません」


「叔父上、お久しぶりです。王宮にいらっしゃるのは珍しいですね」

「王太子殿下におかれましては……」

「私達もそういうのはやめよう、シルヴァン」

シルヴァンよりも五歳年上の王太子は人懐こく笑った。

「分かったよ、スチュアート」

「急ぎ聞いてもらいたいことがあるんだ。今から正確な報告を聞くところだから、一緒にいて欲しい。叔父上の婚約者の事だよ」

話を聞いたシルヴァンはこの日また驚かされることになった。




ロックハート学長はまず最初にはっきりと結論を述べた。エリノーラは学園で不当な評価を受けていた。それも教師の勝手な判断で。生真面目で有名なロックハート学長は険しい顔で説明を続けた。


「アリンガム先生は、アストリア侯爵令嬢がローザリア伯爵令嬢を虐げていたとずっと信じていたのです。ですからその報復としてわざと多すぎる課題を出したり、不当に評価を下げたりしたと告白しました。


実際、以前のアストリア侯爵令嬢には測定できるほどの魔力はありませんでした。何かしらの原因で魔力を魔法として放出できない人間は、稀ではありますが存在します。恐らくアストリア侯爵令嬢もそういう状態だったのでしょう。しかし冤罪をかけられたことで非情に強い精神的なショックを受け、本来の能力が目覚めたものと思われます」

ここで学長は痛ましげに顔を歪めた。

「アストリア侯爵令嬢が復学するまではアリンガム先生の職務に不誠実なところはありませんでした。しかしながら……」

ここでロックハート学長は言葉を詰まらせた。

「アストリア侯爵令嬢の無実を疑う者は、学園の中にもまだ一定数います。アリンガム先生もその一人だったのでしょうね」


(だからリノーは魔法学ではまともな評価も受けることができず、聖なる乙女の候補にもなれなかった。まあ、本人はもうそんなことを気にしてはいなかったけどね)


シルヴァンはため息をついた。

「しかし、ロックハート学長はどうしてその事をお知りになったのですか?」

スチュアートは教育関連の政務を受け持っており、王立学園やその他の学長達とは毎月の会合を通して様々な話し合いをしてきた。学園に異変が起これば王太子に直接報告が来るようになっている。今日はその会合の日ではなかったが、急遽という事で時間を取ったのだった。話の内容がアストリア侯爵令嬢の事だと予め聞いていたので、今日面会の約束をしていたシルヴァンに同席してもらうことにした。


「アリンガム先生が私に直接告白してきたのです」


(妹の命をリノーに救われて今さら改心でもしたんだろうか……)


もうシルヴァンは完全にアリンガムを敵とみなしていた。心の声が乾いたものになる。


「非情に遺憾です。こんな不正が王立学園で起こってしまうなんて。私の監督不行き届きでした。しかしアリンガム先生がそのような事をなさる方だとは見抜けず……。生徒思いのとても良い教師だと思っておりました」


()()の生徒にとってはとても良い教師だったのだろうね)


「アストリア侯爵令嬢の件に関しましても、非常にまじめで優秀で誰かに嫌がらせをするような生徒では無いと、第二王子殿下には再三申し上げておりましたが、聞き入れてはいただけず……」


(まあ、王族に押し切られればいくら学長といえど逆らうことはできないだろう……)


ロックハート学長は目頭を強く揉んだ。ただでさえ、流行り病で学園が休校になり授業のカリキュラムの変更や生徒達の体調の調査など、忙しい時なのにこんな問題まで表面化してしまったのだ。心労はいかばかりだろう。

「大変申し訳ございませんでした。全ては私の責任です」

ロックハート学長は深く頭を下げ、退任を申し出た。しかしスチュアートはそれを引き留め、この話はとりあえず保留とすることで終わった。



「そんなに怒らないでくださいよ、叔父上殿」

学長が退出するとスチュアートはシルヴァンをとりなすように笑った。

「君は大切な人が不当に扱われて傷つけられても、怒らずにいられるのかい?」

シルヴァンは笑顔だったが、その菫色の瞳は全く笑ってない。

「こちらでもきちんと調べて彼らには然るべき処分を下します。どうか今は怒りをおさめてください。それよりも叔父上のお話というのはなんでしたでしょうか?」

シルヴァンはまだ納得しきれていない顔で、ポケットから回復薬の小瓶を取り出し、スチュアートの机の上に置いた。

「たぶん、エルドレットはまともに取り合う気は無いと思うから……」

そう言ってエルドレットにもした説明を繰り返したのだった。








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