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夏休み 星空の求婚

来ていただいてありがとうございます!




「わぁ……綺麗……。空の青が濃い!」

シル様に連れてきてもらったアゲート地方はものすごく綺麗な場所だった。王家の直轄領とも近い美しい場所。険しい山が近くて前世のヨーロッパのどこかの国みたい。ヨーロッパなんて写真で見ただけで行ったことは無いけど、確かこんな景色の場所があったと思う。学園の卒業後はここがシル様の土地になるんだね。


「気に入った?」

「はい!森も綺麗ですけれどやっぱり霧が深いことが多いので、空がこんなに広いのは爽快ですね!」

「それなら良かった。なら安心だね」

「?あ、山の頂上には雪が残ってるんですね!わ、湖はすごく透明度が高い」

シル様によくわからないことを言われたけど、すぐに景色の方に気を取られてしまって聞き流してしまった。


「ね、ヴァイス?」

「…………」

「どうしたの?ヴァイス。気分でも悪いの?」

「いや、これ……」

そう言ってヴァイスが指さしたのはドレスの裾……?

「これってスカートのこと?」

「ドレスだ!」


そう!今日はヴァイスもドレスを着てるんだ。ただ、帯剣したままなんだけど。馬車の中でもなんか居づらそうにしてたんだけど、もしかして嫌だったのかな?

「そのドレス、とっても似合ってるよ?」

ヴァイスはものすごく美人だし、スタイルいいし、何なら私よりドレスが似合ってる。一緒にシル様のお屋敷に行ったら、ヴァイスの分のドレスも用意されていた。ヴァイスのドレスは深い藍色の外出用のドレスで白い髪と白い肌のヴァイスにはとても映えて似合ってる。

「こういったドレスは動きづらい。何かあった時にノーラを守れない」

ヴァイスはドレスのスカートを少し持ち上げてちょっと顔をしかめた。


「大丈夫ですよ、ヴァイスさん。ここは治安が良い場所なので危険なことはありません。王家の領地が近いので騎士団も常駐していますしね」

シル様はいつにもましてご機嫌で、屋敷へ行く前に私達二人を近くの町へ連れて行ってくれて、案内してくれた。

「そう、ですか……。それならば良いのですが」


「この辺りは避暑地としても有名なんです。もっと南の方へ行けば大きな街もありますが、こっちは田舎なので観光客も少ないんです」

「静かなのは良い事ですね」

ヴァイスは言いながらも携えてる剣から手を離さずに周囲を見回してる。

「私も静かな方が好きです。それにこの町もお店が色々あって見ていてとても楽しいです!」


小さな町だけど、かわいい雑貨屋さんやこじんまりしたカフェ、駄菓子屋さんみたいなお菓子屋さんなんかもあってとても素敵な町だった。それになにより景色が本当に良かった。ちょっと歩けば花畑が広がってる場所が合ったり、水が湧き出してる泉があったり、牛とか羊が放牧されてる広い野原があったり。散歩コースには事欠かなさそう。


「そうか。リノーは静かな方がいいんだね。町を再開発した方がいいかと思ってたけど、このままでいいのかもしれないな」

シル様は町を見渡した。

「シル様……?」

「何でもないよ。少し山を入れば川もそれに小さな滝も見られるよ。滞在しているうちに行ってみようか」

「え?滝ですか?!是非見たいです!」

滝もあるんだ!思っていた以上に楽しそう。テンション上がって来ちゃった。

「今日はもう遅いから、屋敷へ戻って明日また色々見て回ろう」

「はい!楽しみです」





「え?ヴァイス、着替えちゃったの?」

いつもの服、持って来てたんだ。屋敷についてお茶を頂いてると、いつもの騎士の服装でヴァイスが応接室に入って来た。

「やはりドレスは落ち着かないので。せっかく用意していただいたのに申し訳ありません、殿下」

「そちらの方がくつろいでもらえるならいいんです。どうぞお気になさらず」

シル様はちょっと苦笑いしてる。

「ああ、綺麗だったのに勿体ない」

「汚さないように気を付けてたから、体が固まってしまったよ。ちょっと素振りをしてくる」

ヴァイスは心なしかいつもよりもいい笑顔で腰に下げた剣に触れた。

「ええ?今から?もうすぐ夕食だよ?」

「すぐに戻る」

ヴァイスは外へ出て行ってしまった。よっぽどドレスが窮屈だったんだなぁ……。超絶美人なんだけどなぁ。夕食の時間に戻ってきたヴァイスはなんだか気もそぞろだった。体調が悪いのって尋ねたけど、違うって笑ってた。


「さて、始めますか!」

夕食後、私は私に用意してもらった豪華すぎる部屋で、カバンから道具を取り出した。木の実と薬草も。あらかじめお屋敷の厨房で使ってないお鍋をいくつか借りてきてある。

「魔力と体力がもったいないもんね」

シル様達には休めって言ってもらったけど、やっぱり回復した魔力がもったいない気がする。だから一日寝る前に鍋一個分の回復薬を作ろうと思った。そうすればヘロヘロになって動けなくなることもないし、魔力も無駄にならない!我ながらいい考え。


鍋に材料を入れて魔力をかける。鍋の中身が青く発光すると、しばらくして光は収まり回復薬が出来上ががる。鍋の中にキラキラ光る青い液体が生まれていた。特上で特濃の回復薬。ちょっと物足りないけど、材料もそんなにたくさんあるわけじゃないから今日はここまでにしておこう。鍋に蓋をして封印魔法をかけたところでドアがノックされた。


「どうぞ!シル様?どうかなさったんですか?」

シル様が少し呆れ顔で部屋へ入ってきた。

「リノー、君は一体何をしてるの?みんなが驚いてたよ。突然君の部屋の窓が光ったって」

「あ……」

「その鍋にテーブルの上の材料……。回復薬を作ってたんだね」

「すみませんっ!お騒がせしましたっ!」

私は慌てて頭を下げた。そうだった。ここは森の中じゃないんだった。一応カーテンも閉めてたけど、光漏れちゃってたのか……。申し訳なかった。でもそんなに大騒ぎする程の光だったかな?


「ふ…………」

「シル様?」

そっと頭を上げるとシル様は怒ってはいなくて、なんだか楽しそうに笑ってる?

「リノーは本当に真面目で一生懸命だね」

「い、いえ!そうではなくて!魔力と体力がもったいないって思ってしまって、つい……」

「勿体無いか……。リノーは本当に面白いね」


それからシル様は私を夜の庭へ誘った。夏とはいえ山に近い高地だから、少し空気はひんやりとしていて私には心地よかった。ここのお屋敷も王都の「藤のお屋敷」に負けず劣らず大きくて広い。でも庭はそれほどでもない。それもそのはずで、この辺り一帯の土地が庭みたいなものだから。

「見て、リノー」

シル様が指さしたのは夜空。満天の星空がそこにあった。前世の時にも見てみたかった天の川もある。

「綺麗……」


この世界は夜が暗いから王都でも星は見えた。たぶん前世で私が暮らしていた場所よりもたくさん。でもここはレベル違いだった。まるで宇宙空間にでもいるみたい。声もなく見惚れてしまう。

「この美しい空も美しい土地も全て君のものだよ、リノー」

「……え?」

()()だけじゃなくて、本当に婚約して欲しいんだ。やっぱり一生を共にするなら、僕はリノーがいい」

シル様の顔は暗くてよく見えない。でも声には真剣な響きがあった。

「リノーが王都にいたくない気持ちもわかる。僕も貴族社会というものが好きではないから」

そうなの?だっていつもニコニコ楽しそうにみんなに囲まれてるのに。


「リノーが望むなら社交なんてしなくてもいい。二人でこの静かな土地でのんびり暮らしたい」

「ここで二人で……」

そんなことができるの?

「僕は王位継承権を放棄した王族だ。権力争いに関わるつもりもないし、お買い得だと思うんだけどな」

ふいに手が温かさに包まれた。

「お願いだリノー。僕を選んで欲しい。君に好きな人がいないのなら」

いつの間にかシル様に手を握られてる。


どうしよう……。私、揺れてる。シル様は続編ゲームの攻略対象者なのに。でも、回復薬作りを手伝ってくれたシル様、木の実を採るのに木に登ってたシル様、焼き立てのお菓子をつまみ食いするシル様、子ども達と本気で遊んでくれたシル様……、色々なシル様が頭に浮かぶ。


それに唯一わたしを信じてくれて冤罪を晴らしてくれた人。


私、シル様のこと好きかもしれない。



シル様が私の前に膝をついた。

「っシル様?」

「エリノーラ・アストリア侯爵令嬢、どうか僕と結婚してください」

「…………はい。よろしくお願いします」

「…………え?」

「え?」

「本当に?本当にいいの?!」

そんな勢いで迫ってこないで欲しいっ。綺麗な顔が近いっ!ああ、綺麗な菫色の瞳。暗がりでもよく見えて恥ずかしいっ……!


でもシル様と結婚して静かにこの地で暮らす。そんな夢みたいなことがもし本当に叶うのなら、その夢を見てみたい。その時の私はそう思ってしまった。

「やった!ありがとう!リノー!」

「わっ、シル様っ?!」

強い力で抱きしめられて、びっくりして声が出ない。

「発表は秋の学期が始まってからにしよう。これから忙しくなるね」

弾んだようなシル様の声を聞きながら、私はシル様の腕の中で幸せとほんの少しの不安を感じていた。



その晩、私はヴァイスにシル様と婚約することを話した。

「そうか。それは良かった。彼は本当にノーラの事を大切に思っているよう見える。ただノーラにその気持ちが無いのなら、私が間に入って守ろうと思っていたんだ。でも彼ならノーラを守ってくれる。私も安心だ」

ヴァイスはホッとしたように優しく笑ってくれた。

「ヴァイスって私のお母様みたいね」

「…………それはちょっと……。お姉さんくらいにならないか?」

眉をひそめるヴァイスが面白かった。

「ぷっ」

「ふっ」

私達は同時にふきだして笑い合った。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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