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おかしな森の悪役令嬢  作者: ゆきあさ


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18/75

親睦会への誘い

来ていただいてありがとうございます!




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



夏休みまであと十日

王立学園校舎への道



(リノー、昨日は僕といたのに気もそぞろだった……。あの男、アレックス・サンドライトのせいだろうか。やけに親し気にしていたけれど、いつ親しくなったんだろうか。結局夏休みのことも何も話せなかった)

馬車を下りたシルヴァンは悶々とした気持ちを抱えて学園の門中へ足を踏み入れた。


「今度の親睦会のドレスはどうなさるの?」

「もうフランクリン様に贈っていただいたの!」

「まあ、素敵ですわね」

「楽しみですわー」


周囲の生徒達からそんな声が聞こえてくる。この王立学園では定期的に親睦会という名のダンスパーティーが開催される。次のそれは夏休みの前日の予定だ。この春留学から帰って来たばかりのシルヴァンはそれを失念していた。


(しまった。急いでリノーにドレスを贈らなければ。いや、それよりも先にリノーを誘わないと。誰かに先を越されてしまう。今日こそは夏休みの予定も一緒に立てたい。リノーはもう登校してるだろうか)


シルヴァンはエリノーラを夏休みの間自分の屋敷へ招待するつもりでいた。エリノーラは自宅へ帰ることを嫌がるだろうし、寮は休みの間は閉鎖されてしまうからだ。はやる気持ちを押さえて、急ぎ足で校舎へ向かおうとした。


シルヴァンが歩いているとみんな挨拶をしてくれる。

「殿下!おはようございます!」

「ご機嫌麗しゅう」

気が付くと周囲に女子生徒達が集まって来ていた。いつものように敵を作らず、公平に扱う。それがシルヴァンの処世術だ。

「おはよう、みんな」

皆に向けて笑いかける。誰も特別にしない。ただ一人を除いては。


「シルヴァン様!おはようございます!」

かけられた声は望む人の声ではなかった。内心がっかりしながらも微笑んで挨拶を返す。

「やあ、おはよう。ローザリア伯爵令嬢」

相変わらずエルドレット以外にも取り巻きを連れている。彼らは一体何を考えているのだろう。それぞれに婚約者がいるはずなのに。そんなことを考えていたら腕に生暖かいものが触れた。

「?!」

驚いて見ると、なんとローザリア伯爵令嬢がシルヴァンの腕に触れていた。腕を組もうとしてる?!なんなのだ、この令嬢は。瞬時に寒気が背を這い上がった。


突風が吹いた。


「きゃあっ」

「うわっ!」

周囲の生徒達から悲鳴が上がる。


不快感で思わず魔法を使ってしまった。エルドレットは何かに気付いたようだが、他の皆は突然の風に驚いているだけ。その間にシルヴァンはアリスから少し距離を取った。

「大丈夫かい?アリス」

ローザリア伯爵令嬢は周りのユーイン、クリストファ、ジェフ、グラントリーに気遣われていた。そんな彼らの輪から離れて何故かアリスは再びシルヴァンの元へ近づいて来た。


「驚きましたわね、シルヴァン様!それはそうと、よろしければ放課後、ご一緒にお茶をいかがでしょう?」

「お茶ですか?」

そんな暇があるのだろうか?シルヴァンは思わずエルドレット王子の顔を見た。


()()()はもうローザリア伯爵令嬢や他の聖なる乙女達にも伝わっているはずだ。今は少しでも修行をして力をつけなければならない時ではないのか?)


エルドレットの顔色は優れず、うなだれるように頭を振るだけだった。

「申し訳ありません。今日は大切な用事がありますので、また次の機会に」

驚きを隠しつつ笑顔で答えを返す。

「まあ、そうですの……。それなら仕方ありませんわね。では次の機会には必ずですわよ?じゃないと私力が出なくなってしまいそうですわ……」


(……一体なんなのだ、この令嬢は。僕を脅しているのか?)


無邪気そうな笑顔にとてつもない不信感を感じたシルヴァンは、それでもなんとか笑顔のままその場を後にした。


「リノー?」

校舎の入り口に会いたい人がいた。声をかけようとしたけれど、シルヴァンに気が付かなかったようでこちらを見ずに校舎の中へ入って行ってしまった。シルヴァンが立ち止まっていると先程の女子生徒達が周りに集まって来て、一緒に校舎へ歩いて行くことになってしまった。休み時間にエリノーラの教室へ行っても姿が見えず、昼休みにも会えず、結局その日は放課後までエリノーラと二人で話すことができなかった。






✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧



「……うう、まだ眠い……」

女子寮から学園の門への道を歩いていると、女の子達の黄色い声が聞こえてきた。門に入ると見慣れた後ろ姿があった。ご令嬢様方に囲まれてにこやかに登校するシル様だった。

朝から元気で楽しそう……。疲れが残ってた私はちょっとイライラしてしまった。今はちょっと笑えなさそう。そう思ったらなんとなく人と会うのが億劫になってしまった。だから大回りをして庭の方を通って誰にも見つからないように校舎の入り口に向かった。


「あ、あれって……」

二つの集団が対峙してる。シル様率いる令嬢軍団とアリス率いる令息軍団。木の陰に隠れて様子を見ていた。あ……仲良さそうに話し始めた。特にアリスが積極的にシル様に話しかけてるみたい。確かアレックスにも声をかけてたって聞いたけど、どういうつもりなんだろう?だってもうアリスにはエルドレット殿下がいるのに。もしかしてアリスも転生者なの?全員を攻略するつもりとか……?あり得るかも。


「もし続編ゲームの通りになるのなら、シル様も攻略対象者のはず。そしてわたしは悪役令嬢。近づくのは危険……よね」

少なくとも、次の疫病の流行が終わってゲームのストーリーが終わるまでは大人しく目立たないようにしてなくちゃ。病気を食い止めるアリスの邪魔をしたくはないし。またやってもない罪を着せられるのはごめんだわ。私は私でやることがあるんだから。私はそっと校舎の中へ入る扉をくぐった。





今日はちょっと憂鬱な授業がある。前に魔力測定試験があった時に嫌な感じだった教師の授業。

「あの先生、何故か私を目の敵にしてるのよね。なんなのよ一体。休み時間に用事を言いつけて!課題もほとんどこの先生からだし」

たくさん出された課題を終えるために昼休みは図書館へ行って勉強をした。森で過ごしてた時は大体一日二食だったから、一食くらいぬいても平気。それよりも今は時間が惜しかった。





「今日は厄日?ものすごく忙しかった……。また私だけ大量に課題を出されてしまうし……はぁ」

放課後、ぶつぶつ呟きながら女子寮への道を歩いてたら、突然声をかけられた。

「大変だったね、大丈夫?リノー」

「わぁ!びっくりした!!ってシル様?」

授業が終わると同時に教室を出たのに、どうして寮の前にシル様がいるの?!ものすごく驚いたんだけど!!

「ごめん。驚かせて。今日は全然会えなかったから、ここで待ってたんだ」

「申し訳ありません。少し忙しくて。すぐに寮に戻りたいんです」

「そう。わかった。でも、ちょっとだけ。夏休みは僕の屋敷に滞在してくれるよね?」

ああ、そんなにがっかりしないでほしい。シル様には相手をしてくれる綺麗なご令嬢方がいるでしょう?朝の光景が目に浮かぶ。シル様は私とじゃなくても楽しそうにしてるのに。


「夏休みは補習が……」

「補習はもうそろそろ終わるって聞いてるけど……?」

確かに遅れた分の補習は夏休みの最初の五日ほどで終わる予定だ。

「それに、寮は長期休みの間は閉鎖されてしまうよね?その間はどうするの?」

「あの森で勉強をしようと思ってます」

自宅へは帰りたくないし、帰っても歓迎されないしね。

「女の子一人では危険だよ!」

「大丈夫です。ヴァイスもいますし、結界もありますし」

エルマー師匠が凄い結界を張ってくれたんだよね。ほんと、助かる。

「……そう」

シル様の悲し気な顔に少し罪悪感を覚えた。シル様は優しいから一人の私を心配してくれてるんだろうな。


「じゃあ、せめてひと月の内一週間だけでも遊びに来てくれないかな?母も楽しみにしてるんだ」

う、何度も断るのはちょっと辛い。一週間くらいなら休んでもいいかな……?それに学園内じゃないから、シル様と一緒にいても大丈夫だよね……?私は自分の弱い心に負けてしまった。

「じゃあ、一週間だけお願いいたします。滞在費はお支払いしますので」

あまりお金ないけど。

「要らないよ!僕が来て欲しいんだから」

嬉しそうに笑うシル様の顔を見てると私もなんだか嬉しくなる。

「本当はもう少し長くいて欲しいんだけどね」

「申し訳ありません」

秋に向けて回復薬をできるだけ作っておかなくちゃいけないから、そんなに遊んではいられない。お菓子も焼いて自立資金もコツコツ貯めておかないと!


「そうだ!じゃあ、今度の親睦会のパートナーもよろしくね。ドレスも贈るからね」

ニコニコニコニコ、満面の笑みのシル様。

「……え?」

ああ、あったわ、そういうの。学園は貴族社会と同じ。貴族同士の交流のために親睦会なんてものがあるんだったわ……。親睦会は授業と一緒で参加は必須。体調不良やそれに準じる欠席理由以外は認められない。


すっっかり忘れてた。


「いえ、あの……さすがにそういうのは……」

「酷いな。約束でしょ?隠れ蓑になってくれるって」

「あ……」

そうだった……。でもそんなのにパートナーとして参加したら、婚約確定って思われても仕方なくなっちゃう。そうしたら悪役令嬢への道まっしぐらなんじゃ……。どうしよ……。でも、約束は約束だ。これは断れない。

「楽しみだね」

「……はい」

楽しそうに笑うシル様に、私はそう返事するしかなかった。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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