続編と小さなメロンパン
来ていただいてありがとうございます!
「リノー!一緒に帰ろう!」
久しぶりの授業の後、教室を出たところでシル様に声をかけられた。
「シル様、一緒にと仰られても私は寮なので」
「いいよ。寮の前まで送るから。少しでもリノーと一緒にいたいんだ」
にこにこ笑いながら、シル様は私の背中に手を回す。
キャーッ!!
周囲の女の子達から悲鳴が上がった。シル様は相変わらず人気があるのね。そりゃあ、これだけ美形で人当たりが良ければそうよね。留学前には何人もの女の子達が涙を流したって聞いてる。シル様は魔法の研究が盛んな隣国で勉強をしたかったんだけど、ご令嬢達の中には結婚相手を探しに行くんだって思ってた子達も多かったみたい。それが未だ婚約の話は欠片も出てないんだから人気が落ちないのも当然だよね。
わあ、私を睨んでる子もいる……。
「ありがとうございます」
私とシル様は連れ立って学園の門へ向かった。
「週末は僕の屋敷へおいでよ。母も寂しがってるから」
「申し訳ございません。遅れた分の勉強を取り戻さないといけないので。それに魔法学の課題が出されておりますから」
「そっか、しばらくは忙しいか……。手伝おうか?」
「いいえ!自分でやらないと意味がありませんから」
今度の週末は市が立つ。少しでもいいから薬やお菓子を売って自立の資金を貯めないと。勉強の方も追いつかないといけないし、これからは本当に毎日忙しい。
朝、起きたら魔法の練習をして、学園で授業を受けて、遅れた分と魔法学の補習を受けて、課題をやって、隠形を使って転移門で森へ跳んで、ヴァイスに魔法を教わりながら、お菓子や薬を作ってちょっと温泉に入ってリラックスして夜は予習復習。あれ?これ結構きついかも……。毎日これをやってたらふらふらになってきちゃった。
考えた末、市へ出店するのは夏休みまではやめることにした。
「収入が減っちゃうけれど今は勉強の方を頑張ろう……」
この世界の暦は前世と一緒で王立学園は週休二日だから、週末にお菓子を焼いてお菓子屋さんへ持っていくことにしてもらった。
今日は午後の授業が先生方の都合でお休みになったから、学園の大きな図書館で課題のための調べものをしてる。学園の食堂で一緒にランチを取った後、図書館にもシル様はついて来た。演技の為とはいえ、隣に座るシル様が椅子をかなり近づけてきていて落ち着かない。
図書館は静かで好き。復学してから特に友人達との交流を復活させるでもなく一人で学園生活を送り続けていた。やっぱりまだ聖なる乙女であるアリスに嫌がらせをしたって思われていて、遠巻きにされて冷たい視線を向けられることも多い。さっきも入り口でぶつかりそうになった赤毛の男子生徒にぎょっとしたような顔をされたっけ。以前のわたしなら気にしてこそこそしてたかもしれないけど、私何もしてないし、ぶっちゃけ忙しすぎてどうでもいい。今はとにかく勉強に集中していたい。
とはいえ、ずっと同じ姿勢でいるとさすがに疲れる。シル様の腕が触れるくらいに近くにあるから、緊張するし。ちょっと別の本でも読んで気晴らししようかな……
ちらっと隣のシル様を見ると本に集中してるみたいだった。私は本を返すためにそっと立ち上がり、うーんと伸びをして本棚の間を歩き回った。あまり人が来ない書棚の本を見るともなしに見て回る。
「ん?『星のティアラが瞬く時』??どっかで聞いたようなタイトル……。えっと副題は『~ティアラ制度の歴史と歴代ティアラ名鑑~』か。ちょっと読んでみようかな」
ゲームのタイトルと似たような題名の本を見つけて、さっそく本を開いた。
「なんだ……学園で習うのと大差ない内容ね。あとは歴代の名前つきのティアラ持ちの方々の名前と功績が書いてあるだけ……ん?」
ページの中に数枚のメモが挟んである。
「なにこれ?!」
星のティアラが瞬いて……アリス……主人公 攻略対象者……エルドレット王子、ユーイン、クリストファ、ジェフ、グラントリー……全て攻略済み…………悪役令嬢エリノーラは退場済み
これってゲームの内容じゃない!その外にもつらつらと断片的な情報が書いてある。他の攻略対象者の婚約者達は婚約を解消したか保留のまま、か。保留の方が多いのね。アリスはエルドレット殿下と婚約したのに攻略対象者がアリスを取り囲んで移動してるのを前に見たことがある。みんな我慢してるんだわ。可哀想に……。
ってそうじゃなーい!!なんでこんなものがこんな所にあるの?それに、それに!!二枚目のメモを見てもっと驚いた!!
「何よこの続編のキャラって!!!」
慌てて口を押えた。図書館の中なのに大きな声が出ちゃった……。
アレックス、リオン、エステル、え?ティモシー……これってわたしの弟のこと?そして、シルヴァン……。シル様も攻略対象者だったの?あとは隠しキャラって書いてある。それに再登場悪役令嬢エリノーラって……。あまりの事に私はしばらくの間茫然としてしまった。でもすぐに本を閉じて貸出の手続きをしてもらった。
「シル様、私、今日はもう帰ります」
「いきなりどうしたの?リノー。……顔色が悪いみたいだね。大丈夫?」
荷物をまとめだした私を心配するようにシル様が見つめてくる。
「平気です。何ともありません。資料は集まったのであとは寮の自室で仕上げようと思います」
「……わかった。本当に大丈夫なんだね?寮まで送っていくよ」
「はい。ありがとうございます」
本当はこの後シル様にカフェに誘われていたんだけど、私の様子がおかしかったせいかシル様は何言わずに寮まで送ってくれた。この方は本当に優しい方なんだわ。それなのに私ときたら、動揺して一刻も早く一人になりたいばっかりだった。
「おいおい、しばらくの間、平日は勉強に集中するんじゃなかったのか?」
「…………」
「無言で菓子を作り続けるなよ。怖いぞ?」
「…………ふう」
図書館から帰った後、私はすぐに森へ跳んだ。覚えたての結界を張って考え事をしながら材料を揃えて、クッキー生地とパン生地をつくった。
「どれだけ焼くんだ?自分で菓子屋を開くつもりか?」
「いずれはそうできたらいいなって思ってるよ?ヴァイス」
「このテーブルいっぱいの焼き菓子、どうするんだ?」
「お菓子って言うか今日のはパンかな。メロンパンっていうんだよ。クッキー生地をパンにのせて焼いたの。お菓子屋さんで売ってもらうから、ちょっと行ってくる」
冷ました小さめのメロンパン達をかごに詰めながらヴァイスに説明した。
「めろん……?確か果物の名前だったな。なんでそんな名前なんだ?ああ、これは食感が楽しいな……。あ、待て!私も行くよ」
町のお菓子屋さんは突然の訪問に驚いてたけど、私の焼き菓子の売れ行きが良いみたいで歓迎してくれた。ただ、次からはもう少し計画的にねって釘を刺されちゃった。残ったら勿体ないから気をつけよう……。
森へ戻って、ヴァイスと一緒に残してあったメロンパンを食べてお茶を飲んだ。
「ふう、ちょっと落ち着いた……」
「全く……。何があったんだか……」
「えへへ。ごめんね。ヴァイス」
「美味しいからいいよ」
ヴァイスはそう言っていくつめかのメロンパンにかじりついた。
ヴァイスも優しい。あえて事情を聞かないでいてくれてるんだと思う。でも前世のゲームの事なんてどう説明したらいいかわからない。続編……。人気のゲームならあり得る。私がいなくなってから発売されたの?本当にあるの?またエリノーラが悪役なの?
そしてあのメモを書いたのは誰?
私と同じ転生者がいる……。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




