たった今断罪されました
来ていただいてありがとうございます!
新しいお話始めました。よろしくお願いします!
「君のとの婚約は破棄させてもらう」
あれ?この場面って何かで見たことある気がする……?むせ返るようなバラの香り。いつもの応接室にはたくさんのピンク色のバラが飾ってある。
「聖なる乙女、そしてティアラ候補であるアリス・ローザリア伯爵令嬢に対する数々の嫌がらせ。決して許す訳にはいかない」
「わたくしには身に覚えがありません」
わたしは婚約者の第三王子である彼、エルドレッド様に対して身の潔白を訴えた。だって本当に何もしてないんだもの。でも、無理なんだろうなこれ。だって私「知ってる」もの。この物語。
いつものお茶会だと思ってた。王立学園のお休みの日、婚約者の第三王子様と交流を深めるためにお城へ行くのはよくあることだったから。交流を深めるのなら、王子様も一緒の学園に通ってるんだからそこでお話すればいいと思うんだけど、学園では婚約者のわたしを贔屓することはできないからって、殆どお話もできなかった。元々人と話すのは苦手だったからそれでも良かったんだけど、お茶会の時には話題をいっぱい探して頑張ってたんだけど、あまり仲良くなれなかった気がする。
いつものように登城していつものお部屋に通されたら、寄り添いあって座る婚約者と男爵令嬢がいた。その後ろにはずらりと学園の男子生徒達がゲームのパッケージのように並んでこちらを睨んでる。ゲーム!そうだわ!そして全部思い出したんだ。
これって前世で遊んだゲームの世界だ!
なんで今思い出すの?もっと早く思い出していればこの断罪を回避できていたかもしれないのに。王国の名前も、婚約者の第三王子の名前も、主人公のデフォルト名もそのままじゃない!
「君は僕と仲の良いアリスに対して様々な嫌がらせをしてきたようだね」
いや、やってないし。王子様はつらつらと報告書を読み上げていく。テンプレートのような被害。教科書破り、私物隠し、ドレスを汚す…………。どれも全くやってないけどアリバイもない。やってないことの証明はできないけど、証人はいるんだって。誰よ、それ……。友達少ないとこういう時不利だ。
「信じてください。わたくしは本当にローザリア様になにもしておりませんわ、殿下」
一応もう一度言ってみたけど、やっぱりだダメだった。
「残念だよ。素直に罪を認めて謝罪すれば少しは考えてあげたのに……」
王子様は悲し気に私を見つめて首を振った。
「君はこの王都から出て行きたまえ。この先王都へ立ち入ることを禁じる。すぐにでも王都を出なさい。これは国王の判断でもある。覆すことはできないから」
「…………婚約破棄と王都からの追放……承りました」
ああ、やっぱりこうなった……。ゲームの通りだ。
「ゲームの通りだと、王都を追放になったわたしはこの後領地の屋敷でほぼ幽閉状態になっててその後の描写は無かったわよね……」
「お嬢様、お気を確かに……!」
お城からの帰りの馬車の中で、幼い頃からわたしについてくれているメイドのリリが真っ青な顔をしてる。
「ええ。大丈夫です。心配しないで」
「ですが!王子殿下におかれましてはあまりに酷いなさりようですわ」
泣いてしまったリリを何故か私が慰めながら、考えを巡らせた。
そんなに悪い話じゃないわよね?この先王子妃になったとして、苦手な社交や外交に追われる生活が待ってたわけだし、王子様は確かに美形だけど、特に好きだったわけじゃないし。だったら、領地のお仕事の手伝いをさせてもらってのんびり過ごした方が楽だわ……。うん。それがいいわね。問題ありの貴族男性に嫁がされる可能性もあるけど、それはその時に考えよう。
私は少しだけ明るく見えてきた未来に思いをはせた。
「不甲斐ない……。それでもわがアストリア侯爵家の娘か」
屋敷へ帰ったわたしを待っていたのは両親と弟の冷たい視線だった。
「聖なる乙女候補にもなれない、王家にも嫁げない娘は必要無い」
「申し訳ございません」
お父様の言葉に何も言い返せない。そもそも小さな頃からわたしはこの厳格な父が苦手だった。父の怖い顔を見ると何も言えなくなってしまうから。
「聖なる乙女」っていうのはこの世界のいわゆる聖女のこと。癒しの力とか浄化の力を持ってる女性が選ばれるんだけど、貴族のご令嬢はそれなりの魔力をもっていれば候補には選ばれる。高位貴族のご令嬢なら大体聖なる乙女に選ばれてる。そして聖なる乙女の中にもランクがあって、「大地のティアラ」とか「月光のティアラ」とか「陽光のティアラ」とか異名が授けられて、大体が王族に嫁ぐことになる。
最高位は「星のティアラ」。最終的に主人公がこれになるんだけど、この「星のティアラ」は建国五百年にもなる王国で二人ほどにしか呼称が許されなかった。それくらいレアな能力持ちじゃないとなれない。そしてこのゲームの表題「星のティアラが瞬いて」の元になってる。
わたしは……残念ながら候補に選ばれるほどの魔力を持ってなかった。それだけでも両親は肩身が狭かったんだろう。更にやっと取り付けた王家との縁談もダメになってしまっては、怒るのも無理はない。私は彼らの怒りを受け止めようと覚悟はしてた。
「まさか、他人に嫌がらせをするような娘になってしまうとは……。やはり継母のわたくしでは愛情が足りなかったのですね」
お母様はハンカチで目を押さえてる。え?待って!わたし、そんなことしてない!
「待ってください!お母様!わたくしはそのようなことはしておりません!これは誓って真実です!」
「姉様、何をおっしゃってるんですか?証人もいるし、実際に僕も姉様がアリスの教室から出てくるのを見ていますよ」
嫌悪感をあらわにした弟がわたしを睨みつけてきた。何のこと?アリスの教室へなんて入ったこと無いのに。大体学年が違うと教室の階も違うのよ?自分の教室を離れて他の教室へなんて怖くて行けないよ。わたしはそんなにアクティブじゃない。
「そんな所へ行ったことはありません」
「見苦しいですよ」
そんな……弟なのに、お母様なのにわたしを信じてもくれないの?わたしは目の前が暗くなっていくような気がした。
「そんなことはどうでもいい!」
お父様の一喝に部屋の中がしんとなる。
「お前が何をしていようがしていまいが、我が家の役立たずになったことは変わりがない。それどころか存在自体が迷惑だ。王都からだけではなくこの家からも出て行ってもらう」
話は終わってしまった。
わたしはドレスから平民が着るような服に着替えさせられ、馬車に乗せられた。許されたのは抱えられるくらいの大きさの鞄に入るものだけ。もちろんお金や宝石とかは持たせてもらえなかった。
「リリに挨拶もできなかったな」
夕暮れの王都を簡素な馬車は進む。
「これからどこへ連れて行かれるんだろう……」
国境あたりの貧民街に捨てられるんだろうか……。それとも他国へ追放になる?ううん、たぶんそれは無いと思う。だって私は王子妃になるべく勉強を始めていたから。そんな私を野放しにすることは無いはずだ。どこかへ幽閉?でもどこへ?不安でいっぱいになる。見納めになる王都。貴族令嬢としての生活は苦手なことも多かったけど、勉強もマナーレッスンもいっぱい頑張って十七年間暮らしてきた街だった。
「さようなら」
わたしは絶望的な気持ちで馬車の外を眺め続けた。
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