聖女じゃない〜理理
何なのよ、聖女って!
治癒魔術師だって言ってるじゃない。
聖女なんて、職業じゃないのよ。
たまたま、他の人より少しだけケガや病気の治癒ができました。
ただそれだけのこと。
なのに、拝まれるっておかしいでしょ?
跪いて、感謝を捧げられるっておかしいでしょ?
しかも、勝手に祀られて、聖女教信者みたいなのが発生している。
私には関係がない。
私は教祖でもないし、聖女でもない。
勝手にシンボルにしないでほしい。
そいつらが、ストーカー化して怖いし。
そんな奴らのせいで、称号に聖女が生えた。
ふざけんなっ。
週に一度、ギルドに治癒魔術師としてクエストを受けているけど、行く曜日が決まっているからか、ケガもしてないストーカーが増殖していて、治癒すらままならない。
行く曜日をランダムにしたいのは、山々だけど、こちとら中学生なのよ。
普段は学校に通ってるのよ。
あまりの不愉快さと気持ち悪さに、何度探索者やめてやろうとしたか数えきれない。
そのたびに、ギルマスやサブマスが謝罪とお願いに来る。
だったら、あの不愉快で気持ち悪いストーカー信者集団なんとかしてくれ、じゃないとギルドには行かないし、クエストも受けないと、何度も言っている。
実際何ヶ月も放置状態で、ギルドには行ってないこともある。
だってダンジョンはうちのに行けばいいし、と思っている。
ギルマスも色々対応してくれてはいるが、ストーカーはいなくならない。
中学生なのに、ストレスがはんぱないんですが?
治癒魔術師が体調悪くなるとか本末転倒なんですが?
ホントにムカつくのよ。
アイツら潰してやりたいけど、どうしたらいいか。
ギルドに行かないのは、本当に治癒が必要な人に申し訳ないから、行くのはやぶさかではないけど、アイツらに見つかるのはイヤだ。
リオのおかげで、スキルが自由に取れるようになったから、何かいいスキルないかな?
幻影とかで、私じゃなく見えるようにする?
そもそも、私が見えなければいいのでは?
透明化?みたいなスキルないかな?
あっ、インビジブルって、透明化かな?
あっ、転移ってのもある。
ギルドに転移ポイントっての置かせてもらえれば、直接ギルドに行けるのでは?
ギルマス案件かな?いや待て、スキルを自由に取れるのは秘匿事項だった。
なら、理芳おじさんか、理結兄に相談するのがいいかな?
ショップのバックヤードとかにポイント置かせてもらえれば、どうだろう?
ショップから治癒室までが微妙?
はぁぁぁーアイツらさえいなければ。
警察とか取り締まってくれないのかしらね?
ホントにムカつくのよ。
家でもブチ切れてたら、リオにだいじょぶ?って心配された。
リオにまで心配かけちゃったじゃないのよ。
その週の土曜日、治癒室のいつもの人が迎えに来た。
聖女さまお迎えにあがりましたーとか言ってさ。
止めろって言ってるのに、聞かないこの治癒室の人は、信用したくない。
その時、リオが変な顔して、お父さんを呼んできた。
どうしたのかな?
リオに何か言われたお父さんが、なぜか、うわーって顔して、私を呼んだ。
「リノ、ちょっと」
手で来い来いってしてる。
なんだろう?
「何?」
お父さんは小声で言った。
「あのお迎えの人、聖女教信者って称号ついてるぞ、大丈夫か?」
そう言われて、動きが止まった。
「はっ?えっ?マジ?」
お父さんは頷く。
うわー、おかしいと思ってたんだよ。
土曜日にギルドに行くのは、わかるだろうけど、毎度時間まで把握されてるのはおかしいなと。
くっそ、こいつかっ。
「お父さんも一緒にギルド行こうか?ギルマスと話してくる」
「いい?お願い!」
絶対コイツと車に2人とかありえない。死んでもありえない。ホントありえない。
お父さんはお母さんにこれから行くからギルマスに会えるように連絡をお願いしていた。
「聖女様、そろそろ」
とか、言われていつも以上にイラッとした。
「ちょうど父もギルドに行くところみたいなので、一緒でいいですよね?」
えっ?って顔しやがった。
ものすごい繕って、
「もちろんです」
とか、いってるけど、目がおかしいんだよ。
はぁ、ホントにイヤ。
お父さん、ありがとう。
ギルドについて、そのままギルマスの部屋へお父さんと行った。
治癒室のヤツが何か言ってたけど、知らない。
案内の人に通されたら、ギルマス以外にも人がいた。
何このおっさん達。
お父さんが、何人かを指差して、退室を告げた。
「なぜだ」って騒いでるけど、こっちが何故だと言いたい。
「私は、ギルマスと話に来ました。そもそもあなた達はどなたですか?とりあえず部屋から出てください」
「彼らは私の部下でして」
「ギルマス、それは今関係ないです。話が進まないので退室させて下さい」
「わかりました。部屋から出なさい」
彼らは渋々、退室した。
間違いなく、聞き耳立ててそうだけど。
って思ってたら、お父さんがおもむろに何かを起動させた。
「盗聴防止の魔導具です」
「そこまで必要があるのでしょうか?」
「それを決めるのはこちらです。話を始めてよろしいですか?」
「お願いします」
「まず、うちの娘をご存知ですよね?」
と、私に視線を向ける。
「もちろんです」
そりゃそうでしょう、何度もギルドにクエスト受けに来てくれって、お願いに来てたもんね?
「では、娘が聖女と呼ばれることを良しとしていないことも把握してらっしゃいますね?」
「はい」
「聖女教信者とか言うカルト集団に教祖扱いされて困っていることも?
クエストに来るたび拝まれることも?
跪かれて祈りを捧げられることも?
ギルドに来る時間が信者とやらに流れていることも?
街中で聖女様と叫ばれることも?
ストーカーまがいのつきまといをされていることも?
すべて把握されてますか?
不愉快な思いをして気持ち悪い思いをしてストレスを溜めているのは、13歳の中学生なんですよ?」
「申し訳ない。そこまでは、把握できてませんでした。謝罪させていただきます」
「今は謝罪なんて、どうでもいいんですよ、ギルド職員の中にもたくさん聖女教信者の方がいらっしゃるのですが?把握されてます?そんな人達がいるところに親として娘を行かせるわけにはいかないのですよ。おわかりいただけますか?」
「職員にもですか…間違いないのでしょうか?」
「私は、鑑定できますので、入り口からここまででもたくさんいらっしゃいましたよ?迎えに来られている治癒室の方を筆頭に、先程退室いただいた方々とか不愉快ですよね、とても」
お父さん、めちゃくちゃ怒ってる。
私の気持ちを余すことなく伝えてくれている。
ちゃんと知っててくれたんだ。
「前から何度も言ってるけど、ホントに気持ち悪いし、ムカつくの。ギルマスたちが、対処する、なんとかするっていうし、どうしてもってお願いされたから来てるのに、どんどん状況は悪化していくし、ほんとムリ。普通に生活に支障出てんのよね。通学路とかにおっさんとか待ち伏せてんの。気持ち悪いし、怖いから、ふつーに」
「申し訳ない。ただランクの受注期限もあるので、クエストは受けて欲しい」
「それってさ、治癒室のクエストってことでしょ?私、治癒魔術師だけど、魔物の討伐とかもできるんで、そっちのクエストでも問題ないんだけど?今のあの信者だらけの治癒室なんて2度とゴメンよ」
「そういうことなんで、カルト集団の信者の方がいなくならないうちは、娘がこのギルドに来ることはないですね」
私は大きく頷いた。
「では、失礼しますね」
盗聴防止を停止して、立ち上がる。
このまま、帰ろう。
ドアを開けた先に大量におっさんたちがいようと、無視よ無視。
視界になんか入れないからっ。




