ダンジョン
「行くぞ」
って、祖父の理一が張り切っている。
案の定、兄の理人と上の姉の理理、下の姉の理哉に起こされて、リビングに抱っこされたまま降りてきたら、理一がいた。
「お父さん、さっきから子供じゃないんだから」
母の連理が注意しても全然きいてない。
「おじいちゃん、落ち着いて?」
見かねた理哉がそう言うと、
理一は、あーとかうーとか言いながらトーンダウンした。
「とりあえず、リオは今起きたばかりで朝飯もまだ食ってない」
そーなのよ。
「おなかぺこぺこ」
おなかをおさえてみせる。
みんながほっこりわらっている。
理一は、すまんと言ってやっと座ってくれた。
他の大人たちは苦笑い。
「理一さん?まだ全員そろってもいないですよね?それに理織に言わなければならないことあるんじゃないかしら?ねぇみなさん?」
祖母の瑠理のニッコリ笑顔に、なぜか背筋がひやっとしたのは、気づかなかったことにする。
理一もただ首を縦に振るしかない。
そっか、神凪家は、瑠理が最強なんだね。
なぜか、一斉に私をみた。
えっ?何?何事?怖いんだけど…
ちょっと固まったら、ひょいっと父の理に抱っこされた。
そしたら、みんなが
「理織ちゃん、3歳のお誕生日おめでとう!」
って、急に言われてびっくりした。
そうだ、誕生日だ。今は、4月と言う月らしい。季節は春なんですって。日本もパルナティと同じように四季があるとのこと。
理織は春生まれ。いい季節だよね。
しかし祝われるのなんて、リオールは何百年ぶりとかで、恥ずかしくて、でも嬉しくて、小さな声であーがとと、呟いた。
おなかも一緒に、ぐぅーって鳴った。
またみんなに笑われた。
って言うか、ご飯…
3歳の身体、本能のままですごいわ。
理に降ろしてもらって、
隣にいた理哉の袖をクイっとひっぱり
「りなねえ、ごはん…」
「あっごめん。イスに座ろうね」
「おい、リナ。今日は俺の番だぞ?」
なんの順番かといえばですよ?
私を膝に乗せて、ご飯を食べさせる順番ですよ。
だって、1人で座っても届かないから…
みんな私に甘々。
「でも、リオがリナにごはんーって」
「それは、隣にいたからだろ?」
それはそう。
喧嘩しないで、順番でよろしくね。
理哉と理人は、ワーワーギャーギャー言い合いしている。
はぁぁぁぁって、理理はでっかいため息ついて、
「いつまでも言い合いしてるなら、これからずっとリノがリオとご飯たべるからね」
面白い様にぴたりと静かになった。
どんだけ私のこと好きなのよ?
なんてね、これもいつもと同じ朝ではあるわけよね。
とりあえず順番通りに理人のお膝の上で、ごはん食べさせてもらって、出かける用意もしてもらった。
だって、今日はこれからダンジョンだもの。
楽しみだけど不安ね。
「いく?」
きいた私にママが
「もうちょっと待ってね、もう着くはずだから」
誰が?何が?
理もいるし、理一も瑠理もいる。
「だれ?」
「今日一緒に初めてダンジョンに入る女の子よ、理織と同じ3歳よ」
へぇーってことは、親戚とかかしら?
普通は、5歳なんだものね?
「きょう?おたーじょーび?りお、いっちょ?」
「違うんだけど…あっ来たわ」
ママは、そう言い残して、迎えに行った。
なんで来たのわかったの?
あっ、執事さんいた。
執事さん、名前なんだっけ?日本だからセバスチャンってことはないだろうしねぇ。
執事と言えばセバスチャン?みたいなフェリーラザのお約束は、ここでは通用しないよね、黙っておこう。
執事さん、普段はあまり姿が見えない。
他にも掃除や料理してくれる人もいるはずだけど、なぜかあまり見かけることがない。
私が気づいてないだけなのかもしれないけど。
でも執事さんは、ママに合図したの?いつ?
気づかなかったな。
『アレドは気づいた?』
アレドとは、声を出さなくて念話で話せる。
『リオール様、背中向けてましたからね』
あっそうか、それはわかんないよね。
『今来た、一緒にダンジョン行くのは、親戚?』
『従姉妹様ですね、連理様のお姉様のお子様です』
あっ、連理はママのことだよ。
『優理?』
『いえ、お嫁に行かれた灯理様です』
おーもう1人おばさまいたのか。
『ママ、何人兄弟?』
『4人でございます。上から理芳様、優理様、灯理様、連理様でございます』
連理は、私と同じで末っ子なんだね。
『リオール様、これからいらっしゃる従姉妹様を参考にしてくださいね』
『参考?なんの?』
『リアル3歳児の言動を、でございます』
確かに!
他の同じ歳の子にあったことないわ。
本当に生まれて3年の言動は貴重ね。
『わかったわ、アレドも気にしていてくれる?』
『もちろんでございます』
そこで、リビングのドアが開いて初めましての人達がやってきた。
7人もいるんですけど?
一緒にダンジョンに行く子と両親の3人くらいかと思ってたからびっくりした。
思わず、理人の後ろに隠れちゃった。
「おはようございます、今日はうちの子達もよろしくお願いします」
たぶん灯理が軽く頭を下げた。
「いらっしゃい、灯理義姉さんと大樹義兄さん、お久しぶりですね」
「理くんも元気そうだね」
なんか大人の挨拶が始まってしまった。
誰かお子様のこと教えてー。
キョロキョロしてたら、連理と目が合った。
「ママ、だれ?」
コテンと首を傾げてきいてみる。
「あぁ、ごめんね、紹介するわね。理織は初めてよね」
そう言って、灯理の子供達である、虹樹、琉樹、光理を紹介してくれたあとに、今日一緒にダンジョンに入る女の子を紹介してくれた。
輝理と煌理と言うそうだ。
双子だそうだ、うんソックリでとてもかわいい。
2人とも髪を2つに分けて、両耳の上あたりで結んでいる。
ツインテールっていうの?
色違いのリボンつけてて、とてもかわいい。
ぱっちりしたちょっとタレ目が、おっとりした感じを後押ししてるみたいで、優しそう。
「かがりなの」
「きらりなの」
「「よろちくなの」」
わー息ピッタリだねー。
挨拶されたら、返さないとね?
「りおり、よろちくね」
ニコって笑ってみたら、ニコって笑ってくれた。
うん、可愛らしい。
神凪関係の人達って、基本的に美形ね。
双子ちゃんのお姉様はちょっと歳離れてるみたいだから、双子ちゃんと雰囲気は違うけど、でもやっぱり美人な感じだし、お兄様達もシュッとした感じで美男子。
絶対モテるわね。
黒髪黒目は日本では、一般的。
フェリーラザでは、忌み嫌われる色だったけどね、そうするとリオールは黒髪に紫の瞳で、かなり怖がられていたんだろうな、と今更ながらに思うけど、もう関係ないよね。
こちらは、属性で目や髪の色がかわったりしないようで、だいたいが黒髪黒目みたい。
私も黒髪黒目で、肩よりすこし長いくらいの長さで、そのままおろしている。
「かがりちゃん?きらりちゃん?よぶ、いい?」
「「うん、ちゃんなくてもいーよ?」」
「かがり?きらり?」
「「うん、りおりってよぶね」」
「わかったー」
3歳児だけで、キャッキャッしてたら生暖かい視線を感じた。
あっ、みんなの顔の緩みがすごいことになってる。
えっ?大丈夫?って言いたくなるくらいのデレデレ顔。
その顔、外でしちゃダメな顔ねー。
『リオール様、ダンジョン行き促した方が…』
そうよね、今日のメインはそれだもんね。
「かがり、きらり、きょう、たーじょーび??」
「「ううん、ちょっとまえ」」
「だんじょん、いく、ない?」
「「ねつ、でた、ねてた」」
あらららら。
「だいじょぶ?」
「「もうだいじょーぶ」」
だから、今日まとめて一緒にってことか。
「いっちょ、うれちーね」
「「うん、たのちみね」」
3人で、わーいって両手上げてたら、
「今度こそ行くぞ」
って、理一の掛け声でみんなが動き始めた。
やっとダンジョン行けるわー。
あっ、みんなでゾロゾロいくのね。
んっ?そういえば神凪ダンジョンはどこにあるのかしら?
『アレド、神凪ダンジョンの場所知ってる?』
『はい、神凪の敷地内ですよ』
でも神凪の敷地ってすごい広くなかった?
みんな理一の後について歩いている。
徒歩圏内なのね。
「ママ?どこいくの?」
見上げてきいてみた。
だって、どうみてもダンジョンがあるとは思えない方向へ進んでいる。
違う場所に一回行くのかしら?
寄り道?
「?ダンジョンよ?」
やっぱりダンジョンに行くらしい。
「だんじょん、やま、あな?」
フェリーラザでは、洞窟系ダンジョンが多かったし、遺跡ダンジョンとか。
「あー、そうよね。知らないとそんな風に思うわよね。うちのダンジョンちょっと違うのよ」
?ちがうの?
連理はひとつの建物を指差して、
「あの真ん中にある蔵わかる?」
くら?
『倉庫みたいなものですよ』
なるほど。私も指差して、
「あれ?」
きいてみる。
「そう、それよ。あの蔵の中にダンジョンへの入り口があるのよ」
はっ?
蔵がダンジョンじゃなくて、入り口がある?
「へんー」
「そうね、でも他にも色々なダンジョンがあるのよ」
それは理織がもっと大きくなってからね、と連理は笑う。
『アレドー今度調べておいてー』
『承知しました』
「「ねぇねぇ、りおりはしってる?」」
「なに?」
「「だんじょんでなんかもらえるんでしょ?」」
職業とギフトってどうやって説明するのよ?
「なに、もらえる?」
知らないふりするわー。
3歳児はきっとわからなくて大丈夫のはずよ。
「「わかんなーい」」
2人は相変わらずシンクロして、頭を横にふるふると振っている。
かわいいよねー。
「「「なにもらえるのー?」」」
ここは大人に任せるのが正解でしょ。
瑠理が笑って、
「職業とギフトがもらえるのよ」
いや、瑠理よ。
それではわからないですよ?
「しょくぎょー?」
「「なぁーに?」」
「うーん、そうね。たとえば…職業が魔法使いだと、魔法を使ってダンジョンで戦うお仕事かなー」
瑠理よ、説明下手だな。
「「おしごとー?」」
「はたらくー?」
「「えーはたらくのやー」」
そうなるよね。
「たたかうー?」
「「たたかうのやー」」
ちょっと双子のいやいやを後押ししてしまった。
瑠理があわあわしてるわ。
焦ってるし、誰がなんとか収拾つけてー。
そのうち双子、ダンジョン行かないとか言い出しそうだから。
「輝理ー煌理ー戦うのは、おっきくなってから決めればいいんだよー?」
双子の姉の、光理がそう言って、
「もらえるものはもらったほうがお得だよー」
と、笑った。
お得って、そういう話しだったかな?
まぁいいか。
「かがり、きらり、いっちょ、もらう、いこう?」
双子は顔を見合わせて、
「「いこういこう」」
よし、行こう。早く行こう。
帰るって言い出す前に行ってしまおう。
って、もう目の前だし、蔵。
理一が蔵の重そうな扉を開ける。
中は見えない。
っていうか、扉が5段くらい階段登ったさきなんですけど?
1段が幼女には、高すぎるのですが…
「パパ抱っこ」
必殺、パパ抱っこを繰り出し、扉まで連れて行ってもらう。
振り返ったら双子も抱っこされていた。
そりゃ自力じゃむりだよね。
うん、扉から覗いた中は、普通の倉庫みたいな物置みたいにしか見えない。
なんだかわからないものが所狭しと積み上がっている。
リオールのインベントリかとツッコミを入れたいくらいの煩雑さだ。
いずれ整理するよ、インベントリ…たぶん
「だんじょん、どこ?」
「「ダンジョン〜♪どこ〜♪」」
双子はなんか歌ってるし、なにしてもかわいいね。
「ママ、なに、もらう、どして、わかる?リボン、ちゅいてりゅ?もらう?」
私は3歳児.私は3歳児よー。
「そうねー、ぴこーんって音がするの」
ぴこーん?ぴこーんって…
「おと?」
「それから、このくらいの四角いものが見えると思うわ」
両手を動かして四角の大きさをこれくらいと、説明してくれる。
ステータス画面のこと?
「みんな、みえりゅ?」
「そうよー自分のは自分だけよー」
それを聞いてほっとした。
いきなり、大賢者封印とか全員に見られたら色々まずいし…
ちゃんと理織としての職業がありますように、今は祈るしかない。
「理織、輝理、煌理、こっちに来なさい」
理一に呼ばれて、私達は理一の元へ行く。
そこには、魔力の塊のような扉があった。
あー間違いない、ダンジョンだわ。
少し懐かしい感覚になる。
「さて、入るか」
私達3人は顔を見合わせて頷いた。
「どうする?じぃじと1人ずつ行くか?3人一緒に行くか?」
「「「さんにんで」」」
「よし、わかった。みんなで行くぞ」
「「「あーい」」」
私達は、せーので魔力の塊の扉の境界線を越えた。
ぴこーん!
あっ、ホントにぴこーんって鳴った。
ちょっと笑える。
目の前にカシュってステータス画面が現れた。
ホントに出た。
なのに、頭の中にも声が聞こえてきた。
えっ?連理さっきそんなこと言ってなかったけど?
(あなたの職業は、魔導錬金術師です。ギフトは、創造魔法です。)
魔導錬金術師?創造魔法?
おもしろそう!もしかして、自由に魔法つくれちゃったりするのかしら?
そうだったら、すっごくたのしみだわ!
良かった、職業あった!
『アレド、ステータス確認して、後で教えて』
『承知しました。よかったですね、職業ありましたよ』
『ホントにね』
ニコっとしてたら、理一が、
「もらえたか?」
双子が頷く。私も頷く。
「よし、戻ってみんなに報告しような?」
「「「はーい」」」
ダンジョンから出て思った。
ダンジョン内部を全然見てない。
どんなダンジョンだったんだろう?
もしかして、次入れるのって、ギルド登録後なのかしら?
だったら失敗したわね。
ちゃんと見ればよかったわ