人の鑑定はしたくない〜笑理
私は人が怖い。人と言うか大人が怖い。
3歳の頃に殺されかけたから。
だから大人は怖い。
職業とギフトをもらったばかりで、何かを鑑定すること自体が楽しかった。
物の鑑定をしたら、必然的に人の鑑定も始めてしまっていた。
色んな職業やギフトがあって、面白かったの。
本を読んで知らないことを知るみたいに、軽い気持ちで鑑定を繰り返した。
子供すぎて善悪がわかっていなかった。
だから口に出してしまった。
しのちゃんのお父さんのステータスに表示されていた項目を…
「けっこんさぎしってなに?」
と。
しのちゃんのお父さんの顔が鬼のようになって私を睨んでいた。
私は怖くて動けなかった。
周りの誰も動けなかった。
しのちゃんのお父さんは、すごく強い人だって聞いていた。
今思えば、威圧とかで動けなくなっていたんだろうってことは想像できる。
でもあの時の3歳児にはわからなかった。
しのちゃんのお母さんが、
「結婚詐欺師ってどういうこと?私のこと騙してたの?」
「今まで気づかなかったのかよ、結婚なんかしてねーんだよ」
「何を、言ってるの?」
「言葉通りだ。俺は美作じゃなくて、服部のままってことさ」
「じゃあ、東雲と東風は!?」
「婚外子だろ?」
「よくも騙してたわねっ」
「なんだよ?いい思いさせてやっただろ?ガキ2人も作ってやっただろ?」
醜い笑い顔が私を見た。
気持ち悪い、怖い。
「おまえが余計なこと言うから、バレちまったじゃねぇーか、どーしてくれんだ?」
ドスの聞いた声で、私はさらに動けなくなる。
怖い。
いつの間にかしのちゃんのお父さんの手には、剣が握られている。
それどーするの?
音もなく振り上げられ、私めがけて振り下ろされた。
私死ぬんだ。殺されるんだ。
目をつぶった直後に横に飛ばされた。
目を開くとしのちゃんが、私に覆い被さっていた。
温かい何かが私の上に流れ落ちてくる。
「しのちゃん?」
「えみり、大丈夫か?」
「大丈夫だよ、しのちゃん」
しのちゃんは少し笑って、私の上に倒れ込んだ。
「しのちゃん!!!」
私はギャン泣きした。
そこで固まってた大人が、しのちゃんのお父さんを捕まえるために動き出した。
「お前らなんかにつかまるかよっ」
逃げようとするしのちゃんのお父さんがパタリと倒れた。
「ほら、さっさと拘束しな。麻酔針打ち込んだから、あと救急車呼びな、東雲死んじまうよ」
優理おばさんが、いきなり現れて指示を出してくれた。
私はずっと、しのちゃんに縋り付きながら泣いていた。
それから私は人の鑑定は、ほとんどしていない。
問題が起こった時に少しだけ協力するくらいしか人の鑑定はしたくない。
神眼は、犯罪はもちろんちょっとした秘密まで審らかになってしまう。
ただ、頑なに人の鑑定をしなかったために、理理が大変な目に遭ってしまったのは、申し訳なく思う。
あんなにギルド内に、おかしな人が蔓延っているなんて思いもしなかった。
みんな普通に見えていたのに…
やっぱり人は怖い。
でも、怖くない人も確かにいるの。
わかっていてもそれでも躊躇うのは、しかたないと思うのは、私が弱いせいなのかもしれない。
「お父さん、お母さん。私やっぱりしのちゃんと結婚する」
お父さんとお母さんは、一瞬固まった。
「笑理、おまえを殺そうとした男の子供だぞ?」
「助けてくれたのは、しのちゃんだもん。ずっと側にいてくれたのもしのちゃんだもん」
「でも…」
「昨日ね、やっとプロポーズしてくれたの。嬉しかったの」
私は本当に嬉しかったの。
「とりあえず東雲入ってこい、そこにいるんだろ!?話はそれからだ」
しのちゃんがいるのは、バレてたみたい。
しのちゃんは、ドアを開けて入ってきて、一礼した。
「とりあえず座れ。笑理お前もだ」
私はしのちゃんと並んで座った。
「プロポーズしたって?」
「はい」
「同情とか贖罪とかじゃねぇーのか?」
「違いますっ!」
しのちゃんは即否定した。
それが嬉しかった。
「笑理のこと護れんのか?」
「護ります」
「その引き攣れた背中でか!?なんで治さねぇんだ?」
「笑理を護った証なので」
「馬鹿かお前、その傷のせいで動きがスムーズじゃねぇんだよ。秒で遅れてんだよ、そんなんで笑理護れるのかよ!?護った傷なんか大事にしてねぇで、これから護ることを考えろよ。いらねぇーだろそんな傷。確かにお前の親父はクズでどうしようもないバカヤローだった。そんなやつにつけられた傷いつまでもつけてんじゃねぇよ。いつまでも笑理があの時のこと忘れられねぇだろうがよ」
お父さんの言葉に、しのちゃんはハッとしたようだった。
確かに私はしのちゃんの傷を見るたびに思い出してしまうかもしれない。
殺されかけたことじゃなく、しのちゃんが死んでしまうかもしれないと言う恐怖を。
「笑理ごめん、そこまで考えが及ばなかった」
「治そう?」
「あぁ、治そう。ちゃんと治すよ」
良かった。
私は頷いて、笑った。
「ひとつは解決だな。次に東雲、笑理と結婚して神凪姓にならないか?笑理を美作姓にしたくねぇんだよな」
あーうん、しのちゃんには申し訳ないけど、私も美作姓はちょっと遠慮したいかなぁ。
「神凪にしてもらえるんですか?」
あれ?しのちゃん乗り気?
「おー、問題ないぜ?」
「俺も笑理に美作姓になってほしいとは、思ってません。神凪を名乗れるならそれが一番です」
「なら、敷地内に家建てるか?」
「ちょっと理芳さん?急ぎすぎじゃないの?」
お母さんに止められてる。
「そうか?早い方がいーんじゃねぇーの?」
「私は東雲くんに聞きたいことがあるの。理芳さんはとりあえず理編と理結呼んできて?」
お父さんは、おうと返事して部屋を出ていった。
「東雲くん、理芳さんがごめんなさいね」
「いえ」
「東雲くん、聞いてもいいかしら?」
「なんでしょうか?」
「今は神凪コーポレーションで護衛隊に所属してるわよね?傷を治してもそのままかしら?」
「何か問題ありますか?」
「東雲くんの職業とギフトって戦闘向きじゃなかった気がするのだけれど」
「あっはい、非戦闘ですね」
お母さんはそうよね、と呟いて唸っている。
どうしたんだろう?
「おーホントにシノがいる」
「しの兄だ、久しぶりだな」
理編と理結と後ろからお父さんがやってきた。
「みんな座ってね」
お母さんに言われて、理編も理結も適当に座る。
お父さんはお母さんの隣だ。
「東雲と笑理が結婚することになった。それから神凪姓を名乗ることになる。」
「マジか!やっとか!」
「おーおめでとー」
誰も反対しないんだね。
私がどうしてだろう?とクビを傾げると、理編が笑った。
「だってお前、ちっさい頃からずっとシノの後くっついて歩いてたしな」
「えー?それは今も同じだろ?」
「だからずっとっていってるだろ?」
「だな」
理編と理結は、お前シノしか見えてねぇじゃんって。
「今更よね?」
お母さんまで!?
うぅぅ、恥ずかしいんだけど?
「あっでね、理芳さん。東雲くんって、護衛隊からあなた付きにしない?いずれは理結付きになると思うけれど」
「どういうことだ?」
「だって、東雲くんの職業ってセクレタリーよね?」
お母さんがしのちゃんに問う。
「そうです」
「母さん、セクレタリーって何?」
理結はなんだそりゃ?って顔してる。
「秘書の上位版?みたいな職業よ」
「マジかよ、すげぇな。俺の右腕になってほしい」
「待て待て!お前の前に俺の右腕になってもらわねぇとならん」
「しのちゃん、大人気だね」
しのちゃんの乾いた笑いがこぼれた。
「東雲くん、どうかしら?この人たちサポートしてくれないかな?」
しのちゃんが私を見たので、頷いてみせる。
「よろしくお願いします」
「そういえばシノのギフトって何?」
「並列思考ですね」
「並列思考って、別々のこと考えられたりするアレ?」
「そんな感じのソレです」
「おーまじか、これはガッツリサポート期待しようぜ!なっ親父」
「そうだな」
お父さんと理結の悪い笑顔に、しのちゃんからはまた乾いた笑いがこぼれた。
がんばれしのちゃん!




