海の底の異端児
初投稿です、茶番劇として作った作品を小説として提出させていただきました。
私には、仲間がいない・・・。
暗い海の底、仲間がいなければ生き延びることは難しい。
それはもちろん、私だって例外じゃない。
5年この海をさまよい続けても、仲間も、食べ物も、居場所さえ見つからなかった。
きっと私は飢え死ぬまでこの海をさまよい続けても
居場所の一つすら見つけられないだろう。
私は、この海から見る景色が好きだ。
魚たちは群れを成し自由に泳ぎ
海月たちは波の赴くままにふよふよと浮かんでいる。
この深海の外には、ここでは見られない景色が見られるに違いない。
『私は、この深海から出て外の世界に行ってみたい。
ここの、この深海の同族たちが決して見られない景色を見に。』
そうして、私は歩き続けた。
1年、また1年と時は過ぎていく。
少しずつ、少しずつ、光が見えてくる。
疲れなんてもう感じない、もう5年も歩き続けたんだ。
孤独に、1人で、黙々と・・・。
『もう少しの辛抱さ、あと数年歩くだけだ。』
そして
そして・・・
そして・・・
海岸の波をうつ音が聞こえる
私は、ついに地上に出た。
振り返ると、私が来た海と
その奥に浮かぶ大きな月が目に入った。
こんな景色、見たことがなかった。
同族の誰も見ることができない、私だけの最高の景色が目の前に広がっていた。
見るものすべてが新しい景色は、とても新鮮で。
『綺麗だ』
そんな一言がつい出てしまう。
『あぁ、疲れたな』
同族から逃げ続けて5年、さらにそこから地上を目指して2年。
ここまでよく頑張った
眠りもせず、何かを食べることもなく7年間。
『もう、いいよね。』
あぁ、でも最後に同族にこう言ってやりたかったな。
『バーカ』
誰もいない海に向かって一言、そう皮肉交じりに言ってやるのだった。
誰の姿も見えない真夜中
私は気分転換に散歩に出ていた。
『にしても肌寒いわね。』
何と言っても今は12月
正直、こんな薄い生地の上着を羽織ってで外をほっつき歩いていい時期ではない。
ブー、ブー
とか考えていると、スマホに着信が来た。
『あら、誰かしら』
どうやら着信は従者のましろからのようだ
どうやら彼女に家を抜け出したことがばれてしまったようだ。
『これは、帰ったらお説教コースかな』
そう思い、とぼとぼと元来た道を帰ろうと振り向いた時だった。
そこには、さっきまでいなかったはずの一人の少年が海を見て佇んでいた。
『さ、さっき来たときはいなかったわよね。』
背丈は中
いや、小学生ほどだろうか
『バーカ』
そう言った声は
とてもかわいらしくて、でもどことなく何かに怒ったような・・・
『あぁ、お説教が長引いちゃうかもな』
そんなことを思いながら、私はその少年に声をかけるのだった。
海の外は気持ちがいい
身体が軽い、今なら浮かび、泳ぐことだってできる。
あの魚たちのように自由に。
そう思った私はもう一度海に戻ろうと、足を踏み出したその時
『ちょっと待って‼』
私は腕を捕まれ、その歩みは止められてしまった。
『あなた、今何をしようt・・・』
何を言っているんだろう
視界がゆがむ、本当に海月になったかのようにふよふよと浮かんでいるようだ。
言葉はわかっている、だがもう聞き取るほどの力がないのだろう。
それでも、何か返事をしないと。
『もう・・・いいんです・・・』
バタッ
そう言った瞬間、私の意識は途絶えてしまうのだった。
倒れた少年を見て、私は唖然とすることしかできなかった。
『何よ、これ』
この少年は、海に向かって歩を進めようとしていた。
何か、そこに希望があるような
覚悟が決まったような、そんな瞳で。
だから急いで声をかけ、咄嗟に腕をつかんだ。
そうして倒れてしまった彼は
『なに、これ』
彼の羽織るマントで見えなかった、腕
私が確かにつかんだその腕は機械仕掛け
紫色の腕で、関節部は真っ黒
そんな義手のような手を、私は掴んでいた。
『義手、でも細かい動きもしっかりできてた』
何なのかしら、この腕
ってそんな場合じゃない!
『君、大丈夫⁉』
返事はない
ガスマスクのようなものをしているため、呼吸の状態もよくわからない。
『っていうか、よく見たら服も体もボロボロじゃない。
ま、まぁとにかく一旦家に運びましょう。』
そう思った私はましろに電話をかける。
『も、もしもーし』
『なんですか、カレン様』
あ、やっべー、すごいお怒りだわ
『迷子とか言い出したらしばきますよ』
『い、いやーそうじゃなくて
じつは海のほうまで散歩してまして。』
『ほう?』
『わけありっぽい子を見つけてしまって、車で迎えに来てくれないかなーと』
『・・・』
『はぁ、場所はどこに行けばいいですか?』
『さっすがましr』
『でも帰ったらお説教ですよ?』
『は、はひ、すみません
場所は牛臥海岸のところです。』
『わかりました、今から向かいます。』
『・・・』
『で、この子どうするんですか?』
家に帰ってきた私たちは彼について話していた。
『家で養子にもらえたり・・・。』
『それは、旦那様とこの子次第ですね。』
『デスヨネー。』
『それにしても、本当に不思議な子ですね。』
『やっぱり、普通じゃないわよね。』
肘から先と膝から先が機械仕掛け。
そして、見たこともない、まるで虫の触角のようなものがついたマスク。
『何も持ってませんし、何の情報もないので怖いといえば少し怖いですね。』
『まぁ、起きた本人に聞いてみるしかないわね
この子ならもしかしたらコエを・・・。』
『そういうことですか、流石というかいつも通り過保護ですね。』
『あの子には、普通に生きてほしいもの。』
『まぁ、とにかく起きてからですね。』
『そうね、じゃあ私たちも寝ましょうk』
『カレン様は今からお説教です
もう少し寝れませんが、それは私も同じなので頑張りましょうね?』
『は、はいすみませんでした。』
朝、日の光で目覚める
『まぶしい、何も見えない・・・』
そんなことをぼやいていると、少しずつ視界が安定してくる。
何度か目を開いて閉じてを繰り返してくると、周りが見えるようになってきた。
『!?』
体を起こし、横を見た私は驚いた、そこには
見たこともないヒトがこちらをじっと見ていたのだ
『おねえちゃーん、ましろー
おにいさん起きたよー』
ガチャ
『本当!?』『本当ですか⁉』
あ、あのときのヒト、ともう一人はだれだろう。
『あ、あなた大丈夫⁉』
言葉を話しなれていない私はゆっくりと頷く。
『カレン様、きっと彼もいきなりのことで混乱しているでしょう。』
『そ、そうよね
えっと、君、3人も人がいて怖いかもしれないけど
ひとまずあなたについて聞いてもいいかしら。』
まあ、基本頷くだけでなんとかなるか
そう思った私はもう一度コクリと頷く
『えっと、まずあなたはどこから来たの?』
はい、初めから頷くだけじゃ無理なの来ました。
『あ、う
深海から・・・来ました。』
『う、海って、あの入ろうとしてた大きな海!?』
そう言われた私は少し戸惑いつつもゆっくりと頷く。
『じゃ、じゃあ、自分の名前はわかる?』
名前?
『な、名前、わからない。』
『えっと、じゃあお父さんやお母さんは?』
『・・・。』
『じゃあ、年齢はわかる?』
7年歩いてて、だから
『多分、8歳です。』
『ええっと、次は』
こっちも聞いてみていいかな・・・
『あの、あなたたちは何なんですか?』
『そ、そうよね、私たちも自己紹介しないとね
ごめんなさい、気配りが足らなかったわ。
私は「冬樹カレン」親の都合で今はここで暮らしてるわ。』
そう言い終わったのを確認し、横の人に目を移す。
『あたしは「ましろ」ここで二人の従者をしてる、よろしく。』
表情があんまり動かない・・・ちょっと怖いな。
『私、「冬樹コエ」』
それだけ言うと、私と同じくらいであろうその子は、カレンさん?の後ろに隠れてしまった
『え、えーっと、声は少し人見知りでね、よければ仲良くしてあげて』
って感じで今私たちはこの家で3人で暮らしてるわ。』
親の都合、って何なんだろう
『ほかに何か、私たちに聞きたいことはあるかしら』
そう言われた私は少し考えた後、こう言葉を綴る。
『なんで、言葉がわかるんですか?』
『?』
そういうと、3人は頭に?を浮かべてしまった。
さっきまでの雰囲気と違い、静寂が辺りを包む。
みんな、それぞれ考えているようだ。
私、そんなに変なこと言ったのかな・・・
そんな中、最初に声を上げたのは、ましろさんだった
『どうしてわかるのかって、どういうことですか?』
『だ、だって』
『私はヒトじゃないから・・・』
私は、独りだった。
仲間はおらず、同族からは異端児として忌み嫌われる。
そんな、私の種族は私の正体は・・・。
「ダイオウグソクムシ」
そのダイオウグソクムシの中でも特殊に生まれたのが私。
容姿はヒト属に酷似しており、とても甲殻類とは思えない。
だが、ヒトとも言えない、ヒトとして生きるにはあらゆるパーツが足りないのだ。
呼吸器は、肺とエラ、どちらの機能も持つガスマスクがついており。
そのガスマスクは直接口周辺についており、口は見受けられない。
そのため食べ物を食べる手段はない。
そんな、同族から見れば化け物と言える容姿のせいで・・・。
私の腕と足は同族によって引き千切られた。
『これが私です。
私はヒトとも言えず、海洋生物とも言えない「海の異端児」なんです。』
話しているうちに声を出すのに慣れてきた私は、すらすらと言葉を紡ぐ。
あぁ、これでこのヒトたちも失望したかな。
次のあてを、あの人を探さないとな。
『きっと、私は生まれてくるべきじゃ・・・』
ガバッ
『!?』
そう言おうとするといきなり暖かい感覚が私を包む
『そんなこと、言っちゃダメ。』
『だ、だって、気持ち悪いでしょう。
こんな、口なんてなくて、手足も硬くて・・・。』
『もう、いいんだよ。』
『無理に自分を卑下しなくて。』
『わ、私を置いておくと、どうなるかわかりませんよ。』
『ほら、またそうやって
ずっと私たちに気を使って追い出してもらおうとしてたんでしょ?』
『そ、そんなこと』
『これは自分のためであって・・・』
『君はとっても優しいね、そうやって嘘をつき続けようとする。』
なんでだろう
『私、君と仲良くなりたいな』
なんでこの人の体は
こんなにも暖かく感じるのだろうか。
『君の気持ち、少しだけど、わかるから』
そうか、この人はきっと異端者側なんだ。
だから、こんなにも寄り添ってくれる。
理解し、共感してくれる。
『私は、君を異端だなんて思わない。』
私は、このヒトたちを
『信じても、いいのかな。』
『いいんだよ。』
『これから君の人生を、ヒトとしての生活を始めよう?』
『うん。』
『君のこと、なんて呼べばいいのかな。』
そう聞かれて、私は急に頭がずきずきと痛み出した。
『葉ごもり』
『これからヒトに会ったとき、あんたはそう名乗りなさい。
あんたはいつかきっと、ヒトとして生きる
その時に、この名前はきっと役に立つわ。
ふふっ、私からの最後のプレゼントよ。』
『じゃあ、葉ごもりがいい人生を送れますように。』
『泣かないで、きっとまた会えるわ
その時にはもっと大きくなってるんでしょうね。
ん?なんでわかるのかって?
だって、あなたは私の大切な〇〇〇〇だもの』
『じゃあ、またね、葉ごもり』
『葉ごもり』
『え?』
『それが、私の名前。
あの人がくれた、私への最後のプレゼント。』
『・・・』
『ありがとう、名前を教えてくれて。』
『これからよろしくね、葉ごもり。』
『はい』