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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
蘇る狂気
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第5話 罪 3

「ふむ。お前がこの仕事をする者か。なるほど、確かに適任のようだ。」

 面接官だろうか。グレンネック国とザネク国の境付近にある要塞都市ギスクにある、「闇梟館イールエルドベルン」の応接室で、雪山のような厳しさがその目に表れた初老の男が、私の目を見て言った。

 一片の妥協も許さない、厳しい審査官のような眼差しであった。

 その男は、年齢に見合わぬ程の生命感を全身からみなぎらせていた。

 そして、私を恐怖させるような冷徹な力も・・・・・・。

 間違いなくこの男は「魔法使い」だ。

 それも、官位を得た「魔導師」だろう。初めて見る魔導師だが、それはすぐに直感できた。

 この恐るべき男の審査を、私はどうやら通過できたようだ。自信はあったが、正直安堵している。この恐るべき男の目をかいくぐって、好青年を演じる事が出来たのだ。


「さて、仕事内容はすでに聞いていると思うが、もう一度確認する」

 男は豪華なビロード張りのソファーに腰を下ろし、私にも座るように促す。私は会釈を返すと緑地に様々な色の糸で刺繍が施された、絵画のような柄のソファーに座った。

 こうした豪華なソファーに日常的に座るのが、この仕事の後に手に入れられる身分を持つ者の生活なのであると言う事を噛み締め、内心の高揚感を押さえるのにいささかならぬ努力を強いられた。

 

「お前はこれからアズロイル公爵領にあるコンヤァ村にある公爵の地方宅、野薔薇館ヒスリースベルンで生活してもらう。じきに到着する少女と共にだ・・・・・・」

 男が口元をゆがめて笑ったように見えた。

「良いか。お前はその少女に尽くすのだ。その少女に気に入ってもらえるように全身全霊をかけて尽くせ。信頼されるように努めろ。決してその少女を傷つけても、怒らせてもならない。・・・・・・ああ、服を脱がせる事も危険なんだったな。食べ物に関心が高いので、せいぜい持て成すのだ。」

「いつまでお持て成しすれば良いのでしょうか?」

「当然の質問だな。だが、いつまでと言う事はお前次第だ。お前がその少女にとってかけがえのない存在になったと私が判断するまでだ」

 私は納得する。扱いに困った我が儘な貴族の娘を、大人しくさせれば良いのだな。服を脱がせてはいけないのだから、必要なら向こうから誘わせれば良いのだろう。


「その少女は、どういった方なのでしょうか?高貴なお方とは思いますが、差し支えがなければ教えてください」

「・・・・・・さてな・・・・・・。高貴と言えば高貴なのかもしれんが、少なくとも宮廷、王族といった身分ではない。もっとも、その容姿は限りなく高貴ではあるがな」

 正式な身分は明かせないという事は、やはり王族、もしくは王族に嫁ぐ予定の者かも知れない。そうなると、肉体関係を持つのは後に破滅につながるかも知れない。


「私一人で、この館でお世話するのでしょうか?」

「いや。世話係としてメイドを一人つける。おまえの身の回りの事もそのメイドがしてくれるだろう。あと、金銭面でも不自由しないよう、毎月四万ペルナー(金貨二十枚・約四百万円)与えよう」

 男が提示した金額は、法外な値段だった。教会の副幹事長をしていたときには事務として処理してきた額ではあるが、個人的に手に入れられる金額ではなかった。思わずのどが鳴る。

「金の管理は得意だったな。まあ、好きに使え。だが、あくまでもその少女が何よりも優先されねばならない事を忘れるな」

「はい」

「それと、これは支度金だ。すぐに野薔薇館ヒスリースベルンに向かうのだ。身の回りの必要な物は揃えておけ。少女は数週間後に到着するだろう。それまでに役作りをしておけ」

「え?役作り?」

 男はクックックッとのどを鳴らすと、ドチャリと硬化が詰まった袋をテーブルに置く。おそらくこれにも金貨が詰まっているのだろう。

 そして、男は懐から紙の束を取り出し、袋の横に投げ出す。

「ここに役柄の詳細が記されている。おまえはこの人物になりきるのだ。・・・・・・演技は得意だろ?」

 戦慄が全身を貫いた。私の全てがこの男には見透かされている。

 世界は広い。絶対に敵わないと思うほどの人物に出会ったのは初めてだった。

 だが、この男に取り入る事が出来たら、味方に出来たら、これほど都合の良いものはないだろう。

 この仕事は絶対に成功させねばならない。

「おまえの名前は、今からヤマザト・ケータローだ」

 男から、私の新しい名前が与えられた。

 これまで私を私たらしめていた名前が、この時変わったのだ。


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