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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
蘇る狂気
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第3話 不死海 6

 そして、翌日になると、嵐は去っていた。

 しかし、日本の台風のように、過ぎ去った後にスッキリ晴れる「台風一過」の天気では無く、やはりどんよりとした雲が空の大半を覆っていた。


 それでも、雨が上がったので、取り敢えず海を見に行く事にした。

「波は高いから、気を付けるんだよ」

 女将さんがそう言って見送る。


◇   ◇


 少し坂を下ると、すぐに海が見えた。

 すると、ルシオールが走り出す。

 珍しく、食事の時以外で表情が輝いている。

「ケータロー!これが海か?!すごいぞ!どこまでも広がっているおっきな水たまりだ!」

 海と同様に輝く紺碧の瞳で、蛍太郎を見つめて大声を上げるルシオール。今日ばかりはギダではなく、白いワンピースに麦わら帽子姿でおめかししている。蛍太郎も白いシャツにデニムのパンツ姿。

 興奮を隠す事もせず、空飛ぶカモメと一緒にクルクル回りながら、澄み切った青空と輝く太陽を反射してキラキラと輝く海を横目に走って行く。

「オーイ!そんなに走ったら危ないぞ!」

 そう言いながらも、蛍太郎も一緒になって走る。

 二人でふざけ合いながら海を目指す。

 その様子を目を細めながら見守るリザリエ。


◇   ◇


 蛍太郎の予定ではそうなるはずだった・・・・・・。そうなるはずだったのだ。

 しかし現実とは残酷なものである。

 


 ルシオールは明らかに不快な顔をしている。

 常には無表情なルシオールだが、今は鼻の上に小さなしわを寄せて、明らかに眠さが原因ではない目の細め方をして自分の前方を睨みつけている。

 小さな口を「への字」に歪めて下唇をかみしめている。

 小さな手は、黒いギダの裾を握りしめて直立している。


「ケータロー」

 抑揚なく小さな声で蛍太郎の名を呼ぶ。声に抑揚はないが、その中に非難の響きがあるのは感じずにはいられない。

「はい・・・・・・」

 蛍太郎の返事も力がない。

 朝になっても、雲行きは良くならないどころか、またしても悪化の一途をたどっている。女将が注意してくれた事を思い返す。

 

 せっかく海まで来たのに、空は厚い雲に覆われ、暗く濁っている。

 その上、暗い緑灰色の海は波も高く激しく上下しながら桟橋のすぐ下で飛沫をまき散らしていた。波も危険なぐらい大きい。台風中継とかでよく見る野次馬になった気分だ。

 こんなつもりではなかった。

「こんなつもりじゃ・・・・・・」


 再び蛍太郎の脳内で、「青い空。陽光を受けてきらめくエメラルドグリーンの海。穏やかな風。静かな潮騒。白い砂浜に、打ち寄せる波。きれいな桜貝や海鳥にはしゃぐルシオール」の妄想が浮かんだが、瞬時に飛沫のようにはじけて消えた。

「ケータロー様。海は荒れていますし、今日も宿で過ごしましょう。また、天気が良くなったら見に来ましょう」

 リザリエの慰めがありがたかった。

「ああ。じゃあそうしよう」

 蛍太郎が頷いた時、「ギャアアッ!!」と、叫び声がした。同時に蛍太郎も叫び声を上げる。

「うわああぁぁ!!」

 突然の高波が、桟橋を越えてルシオールの頭から襲いかかったのだ。

 ルシオールの全身を濡らした波はそのまま後方にいた蛍太郎の下半身も水浸しにした。

 ルシオールは目をパッチリ開けて、手足をバタバタして暴れ出す。

「ルシィ!大丈夫か?」

 蛍太郎がすぐにその体を担いで桟橋から引き離す。

 ルシオールは、蛍太郎が理想としていた海と同様の輝きを持つ目を思いっきり開いて、口をパクパクさせていた。

 こんなに驚いた・・・・・・というより、パニックになっているルシオールは久しぶりだ。以前グラーダ城内で池に落ちた時以来か・・・・・・。

「か!」

「か?」

「からいっ!!」

 ようやくルシオールが自分の感想を言葉に出来た。

「くさいっ!」

 次の感想だ。

「海は嫌いだ!」 

 海への第一印象は最悪となってしまった。

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