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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
蘇る狂気
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第3話 不死海 5

 翌日は店の主人が言っていた通りに、荒れ模様の天気だった。

「おお!これは確かに!」

 蛍太郎たちが朝食の為に食堂に降りて行くと、店主と話していた男が立ち上がって叫ぶ。 店主が男を伴って、ニコニコしながら蛍太郎に近付いてくる。

「やあ、リザリエ様。こちらが昨日話した絵描きです」

 宿の店主は、宿帳で一番上に書かれた名前の「リザリエ」を蛍太郎の名前だと思ったらしい。

 それを聞いたリザリエが顔を真っ赤にする。

「あ、あの!ご、ごめんなさい、ケータロー様!私ったら、宿帳の一番上に自分の名前なんかを書いてしまいました!!」

 すごく恥じ入った様な表情になる。

 身分からすると、リザリエの立場だと一番下に書くのが普通なのだろうが、蛍太郎としては、支払いも手配も全てをリザリエにして貰っているし、そもそもそんな順位など気にもしていないので、最初は何の事なのか、さっぱりわからなかった。

「え?い、いや。別に・・・・・・」

 戸惑うが、宿の店主まで、顔を強ばらせて、自分の失態に狼狽える。余計な事を言ってしまったと思っているのだろう。

「あのさ。俺は全然そういうの気にしないよ。意味ないじゃん!」

 蛍太郎は思わず叫ぶ。そんなに大事おおごとになる物なのか理解に苦しむ。

 グレンネックとかの貴族と家来で、このミスをしたなら、確かに首が胴と離れるような事もある。

「親父さん。俺の名前が蛍太郎で、こっちの人がリザリエで、この子がルシオールです。はい!それでお仕舞い!!」

 蛍太郎はそう言って手を打つ。

「・・・・・・ケータロー様」

リザリエが熱い視線を送って来るのが気恥ずかしい。

「なかなかいい男じゃ無いですか。ってか、やっぱり貴族様だったんですね」

 絵描きの男が恐る恐る言う。

 ルシオールを見れば貴族と思うだろうなと、蛍太郎は思った。

「いや。貴族とかじゃ無いんだけど、彼女が勝手にそう扱うだけなんです」

「・・・・・・なるほど」

 店主と男が勝手に納得する。「お忍び」と思われているようだ。

「それでは、昨日の話ですが、彼が私の友人の絵描きで、エリックと言います」

 エリックと呼ばれた男は、やや遠慮がちに手を差し出すので、蛍太郎は握手をする。

「親父さんの言うように、天気が荒れたので、絵を描いて貰って構いませんよ」

 蛍太郎が言うと、エリックは嬉しそうに頷いた。



 それから、朝食が終わってから、ルシオールはモデルになり、絵を描かれた。

 元々動かないし、時々用意して貰ったクッキーをかじって文句一つ言わずにジッとして絵を描かれていた。

 服もギダでは無く、黒いドレスに着替えていたので、それは絵を書く方もやりがいがあっただろう。

 

 こうしてマジマジと見ると、やはりルシオールは美しい。蛍太郎も見とれてしまっていた。

 店主もその妻子も、時々部屋にやって来てルシオールを眺めていた。嵐だから客が来ないようだ。

「可愛らしいお嬢さんだねぇ~」

 ルシオールより少し年上の娘と一緒に眺めていた女将が呟く。

 言われると、蛍太郎も嬉しい。

「あの子に海を見せてあげたくって、ここまで来たんだ」

 そう言うと、女将は眉を寄せて怪訝そうな顔をする。

「それで、何だってこんな海を選んじゃったんです?」

「いや。一番近いからって・・・・・・」

 そう答えると、女将が笑う。

「嫌ですね。この不死海は、眺めるにはあんまり気持ちの良い海じゃ無いですよ。暗くってうねっていて、潮の香りもきつい。まあ、あたし等の鼻は、とっくに曲がっていて気になりませんがね」

 蛍太郎は思わずリザリエの方を見る。リザリエが顔を青くして首を振る。どうも知らなかったようだ。

 それも仕方が無い。リザリエはグレンネックの人間だから、他国の海の事情など知らなくても不思議では無い。


「・・・・・・それにしても、『不死海』って不思議な名前ですね」

 蛍太郎は話題を転じた。

「ああ。この辺りの言い伝えで、地獄から生きて帰った男がいたらしいよ。それで、『不死海』って呼ばれるようになったんだってさ」

 女将はケラケラ笑うが、実際に地獄を通過してきた蛍太郎にとっては他人事では無い。その話を聞いただけで地獄を思い出して血の気が引く。

 リザリエが渋い表情を浮かべる。リザリエには、それが「エクナ」で、「エクナ預言書」を書いた人物なのだと知っている。そして、その事は、グラーダ国の機密となっている。



 その日は、絵描きがルシオールの絵を二枚描いて、満足そうに帰って行った。帰ってから、更に仕上げるようだ。

 デッサンも何枚も描いていたので、完成はまだ掛かるだろう。 

 リザリエは、三人の絵は無理そうだと、少し残念がっていた。


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