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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
蘇る狂気
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第3話 不死海 1

 グラーダ城にて、グラーダ国王が后の懐妊を知った頃、蛍太郎たちはグラーダ最西端にあるロブリー村という漁村に到着していた。

 

 ここまでの道中は、グラーダから乗り合い馬車でアザラスの街に行く。アザラスからは北に行く馬車が多くある。

 東西貿易では、オヴァロン山脈がある為に、この町を経由する必要がある。それ故に、この街の規模は大きい。

 ここから北に行けばペスカ国、ザネク国を経て大国グレンネックに行く事が出来る。

 そして、アザラスから東に進めば大国カロンがある。カロン国としては、侵略価値の少ないグラーダ国だが、唯一このアザラスの街は手に入れたいと狙っている。

 そんなアザラスから、更に西に行くと、とたんに何も無くなり、やがて小さな漁村にたどり着く。

 アザラスからロブリー村までの馬車は極端に少なくなる。


 風に潮の香り混じるようになると、村の入り口が見える。

 モンスターや野獣の襲来に備えて柵に囲まれた漁村である。

 建物は木製で、お世辞にも立派とは言えない。

 しかし、それなりに魚を仕入れる業者が訪れるようで、宿屋は数件あった。

 これも業者なのだろうか?町の入り口の炉端に、豪華な赤い馬車が止まっていた。



 乗合馬車を降りると、ルシオールが蛍太郎の上着の裾を引っ張るので振り返る。

 ルシオールが顔にかかった布を上げて、小さな鼻に、小さなしわを寄せている。

「どうした?」

 蛍太郎が尋ねると、首をコクリコクリと傾ける。頭からすっぽりと黒い布で覆うグラーダの衣装を身に着けているため、黄金を溶かした糸で出来たような髪は隠されているが、顔の布を押し上げると見える輝く蒼玉の瞳だけでも、その類い希なる美しさが際立ち、人目を引いてしまうであろう。

「ケータロー。なんか臭い・・・・・・」

「ああ、海が近いからね」

「海の臭いなのか?」

「そうだよ。潮の香りっていうんだ」

 ルシオールがまたしても首を傾げる。

「塩はこんな臭いしないぞ」

「ん?いや、その塩じゃなくって・・・・・・。まあ、いいや。とにかくこれが海の匂いだよ」

 ルシオールは尚も鼻をしきりとひくつかせると、蛍太郎にしがみつく。

「海に行くのは嫌だ・・・・・・」

 その様子に、蛍太郎とリザリエが笑う。

「大丈夫ですよ。すぐに慣れて気にならなくなります」

「そうだよ。それに、海に近いからきっとおいしい魚料理もあるよ」

 食事の話になると、それまでどこか渋い表情をしていたルシオールも、どことなく嬉しそうな表情になる。基本的に無表情で感情をうまく表すことが出来ないルシオールだが、蛍太郎には微妙な変化がわかる。

「そろそろ日も暮れるし、今日のところは宿に泊まろうか」

 


 蛍太郎の提案で、一行はその日の宿を求めた。

 業者以外には訪れる者もほとんどいない為、宿はすぐに見つかった。

 グラーダ城下同様に、宿屋は二階建てで、一階部分は食堂となっている場合がほとんどだった。

 宿はリザリエが決めた。

 リザリエの選考基準としては、清潔そうである事と、魚料理がおいしいという事。これはルシオールの期待に応えるためにも外せないポイントだった。


「いただきます」

 ルシオールは我慢しきれなかったようにテーブルに着くなり、食事も運ばれて来ないうちに手を合わせた。表情に変化はないがソワソワしている様子がうかがえた。

「『いただきます』は食事が運ばれてからするんだよ」

 蛍太郎が笑顔で言うと、ルシオールは素直に「あい」と頷く。そして、そのまま手を膝に乗せるとおとなしく待っていた。

 すぐに宿の店員が注文を取りに来た。リザリエが適当に注文する。

 蛍太郎だと、料理の名前もわからないので、「おすすめで」とすぐに言ってしまった事だろう。

 

 しばらくして運ばれてきたのは、薄くのばした生地を焼いた「ナン」のような者と、香草と塩で味付けされた揚げ魚だった。飲み物は三人ともココナッツジュースだ。

 ルシオールは、今度ははっきりと表情に変化をつけ、嬉しそうに蛍太郎を仰ぎ見た。

 蛍太郎は頷くと、ルシオールのかぶっていた布を外してやる。見事な黄金の髪が、室内をその輝きで照らしたかのようになる。

 思わず店主も目を見張った。


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