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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第1話 平穏 6

 大量の食糧や、飲み物を買い込んで戻り、食事になった。

 食事がすんだ数人は、パラパラと遊びに行ってしまった。蛍太郎と数人は座ったり寝そべったりしながら、おしゃべりに花を咲かせていた。

 蛍太郎の隣に、いつの間にか小夜子が来ていた。さっきまでは中学同級生三人組の須崎由香達に囲まれて、東京の話をさせられていた。

 蛍太郎が提供できる話題は、大してある訳ではなかったが、彼女たちには刺激的だったようで、興奮して聞いていた。その三人も、男子二人に誘われて、海に泳ぎに行っていた。


「ねえ、山里君。午後も泳がないの?」

 小夜子が聞いてきた。普通に聞くのではなく、どこか人に聞かれたら困るとでもいうように、声を落して囁くように聞いてきていた。肩と肩が触れそうになっている。

 蛍太郎は頷いた。

「そうだな。水着、あるにはあるけど・・・やめておくよ。さっき足だけ入ったけど、震えが来たよ。みんなよく平気で入れるね」

「私も寒いよ。だから、午後は私も泳がないどこうかなぁ」

 蛍太郎を、やや上目づかいにのぞき見る。目が合うと、すぐに目を伏せてしまったが、頬も耳も紅に染めている。

 こうして見ると、学校では地味で目立たない小夜子が、とても魅力的な女性に見える。蛍太郎も、頭に血が昇るのを感じつつ、根岸さんも頑張っているのだなぁ、などと考えてしまっていた。

 早鐘のように鳴り出した心臓の音が小夜子にも聞こえそうで、つい声が大きくなってしまった。

「そ、そう。それがいいかもね」

 その声を聞きつけたのは美奈だった。

「何なに?どうしたの?」

 そう言いながら、その眼は小夜子を牽制しているようだった。どうやら、聞き耳を立てて様子を窺っていたようだ。これも、千鶴の為なのだろうが、女の子は怖いと思った。

「海は冷たいねって話してたのよ」

 小夜子が目をきょろきょろさせながら言った。二人の肩の距離も広がった。

「同感だわ。あたしたちもそう話してたの。ねっ、千鶴」

「え?何が?」

 千鶴は目を丸くしていたが、美奈に合図を送られたようで「うんうん」と頷いて、曖昧な笑顔を浮かべた。


「そうだ、山里君。これからあたしたちと神社いってみない?」

 美奈が提案した。

「神社って、山の上にあるってやつだよね」

「そうそう。実はあたしも行ったことはないんだ。疲れるから」

 言って美奈は声を立てて笑った。「あたしも」と千鶴も控えめに付け加えた。小夜子同様、耳まで真っ赤にして、やや引きつった笑顔を蛍太郎に向けていた。

「でも、景色は最高らしいよ。行こうよ」

 蛍太郎としては、ここにずっと寝そべっているよりは良さそうだと思った。遊びたい誘惑にも駆られてきていた。そのくらいは楽しんでもいいだろう。

「いいね。行ってみようか」

 蛍太郎が腰を上げると、案の定人数が増えた。

「私も行こうかな~。いいでしょ、山里君」

 小夜子が食い下がった。美奈から舌打ちが聞こえてきそうだった。


「御山に行くの?あたしも行く~!」

 本庄久恵だった。言うなり、男子にも声をかけていた。

「はーい!これから御山探検に行く人~!?」

 その様子を見た美奈が、眉間にしわを寄せつつ、千鶴に何かゴソゴソと指示を送っていた。

 千鶴はブンブン頭を振っている。何を言われたのやら・・・・・・。

結局、男子は多田、藤原、川辺と、小柄でいつもモグモグとはっきりしない喋り方の森田が行く事となった。

 多田はもちろん、久恵目当てだったし、川辺としても、千鶴を完全に諦めた訳ではなかった。

 千鶴が蛍太郎を完全に選ぶならば、その時はきっぱり諦めるつもりでいたのだ。


 藤原は、千鶴はもちろんだが、他高生の二人も気に入っていた。しかし、千鶴は蛍太郎に気があるようだし、夏帆と結衣は他の男に先を越され、泳ぎに行ってしまったので、蛍太郎に付き合う気になった。

 森田は、最初の秘密会議で、モグモグと美奈に思いを寄せているらしい事を言っていた。自分とは正反対でズバズバと発言する美奈に気があるようだ。


 その美奈は、増えた面子に不満気に唸っていた。千鶴は残念そうな、ホッとしたような表情だった。しかし、伏し目がちな小夜子と違い、単独での接近こそしないが、いつも笑顔を蛍太郎に向けていた。やや控え目な笑顔がたまらなく男心をくすぐった。

 まるで、自分がどうすれば可愛く映るのかを研究してでもいるのかと、邪推してしまうくらいドキッとさせる表情だった。

 そんな蛍太郎の動揺を知ってか、小夜子も自己主張してきた。

「なんだか増えちゃったね」

 パーカーを着込みながら、残念そうに囁く。

「みんなで行ったほうが楽しいよ」

 小夜子がそれを望んでいないだろうとは思いながら、当たり障りのない返事をした。

 小夜子は何かを言いかけたが、口を開いただけで言葉は出てこなかった。結局「そうだね」と答えた。

 

 そして、男子五人、女子四人で御山に行こうと歩きだしたところで、由香達三人組がやってきた。海水で冷えた体を温めに戻ってきたところだった。

「やっほー、どこ行くの?」

 と、元気に聞いてきた由香だったが、その唇は青ざめていた。

 御山に登る話をすると、急いで上着を着て、サンダルをはいて同行する事にした。

「寒いから、運動しなくっちゃ」

 背が小さい水野夏帆は、まるで子リスのようにちょこちょこ動き、その仕草が男子たちに人気だった。今は準備運動と称して、おかしな動きをしていた。



 藤原は、夏帆と笹川結衣の同行に、大いに喜んでいた。

「それでは、登山隊、出発!」

 そう宣言すると、張り切って先頭を歩きだした。三人組も、同じテンションで藤原に続いて歩いて行く。

 蛍太郎は、小夜子と美奈、千鶴に囲まれるようにして歩いていた。そのすぐ後ろに川辺と森田が続き、多田は久恵をしっかり確保していた。

 歩きながらも、美奈は蛍太郎に話しかけては、直接的に千鶴を薦めてくる事を忘れない。最初は困った様子だった千鶴も、美奈にすっかり任せる気になったのか、無言ながら真剣に蛍太郎を見つめて来ていた。

 小夜子は澄ました顔ながら、耳をそばだてている様子が、はた目からもわかった。


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