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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第8話 魔王 8

 蛍太郎の話も、スムーズにはいかなかった。元々がたどたどしく、整理されない話し方だった上に、アヴドゥルを主として、四人に所々聞き返されたり、説明を求められたためである。

 特にアヴドゥルは、地獄の下りになると、しきりと興奮して、必死にメモをとったり、恍惚とした表情で「すばらしい」などとつぶやいていた。

 一通り話し終えると、グラーダ王がルシオールの方をチラチラと見やりながら、蛍太郎に訊ねた。

「で、その少女の正体は何なのだね?」

 当然であるが、最も難解な質問だった。蛍太郎自身、知りたくもあり、蓋をしておきたかった問題だ。

「・・・・・・わかりません。先ほども言いましたが、僕は彼女に呼ばれて違う世界に来てしまったんだと思います。彼女が人間とは違う事も分かりますし、とんでもない力を持っているのも分かります。でも、彼女は幼く、何も知らないみたいです。もちろん悪意も害意もありません」

 そうであって欲しいという思いも込められている気がしつつも、そう言った。

 すると、アヴドゥルが断言する。

「結論から言うと、その者は地獄の住人で、かつてないほど恐ろしい魔王ですな」

 「恐ろしい」と言いつつも、アヴドゥルはどこか嬉しそうだ。

「非常に興味深い話である。今の話だけでも、これまでの地獄に関する研究が馬鹿らしくなるぐらいの収穫を得る事が出来た。あの大魔王『エギュシストラ』でさえ、仔猫のように感じるわい」

 アヴドゥルは興奮したように、一同を眺めまわす。その落ち着かない眼は、何度も蛍太郎とルシオールに向かう。

「その辺をまとめて、簡潔に我々に説明してくれないか、アヴドゥル博士」

 白銀の騎士ジーンは、興奮とは無縁の様に淡々と告げる。

 アヴドゥルは、「はっ」と鼻で嗤ってから「よかろう」と続けた。


「まず、地獄の階層である。地獄にはいくつかの階層がある事は知られていた。五層から七層と諸説紛糾していたものである。いずれにせよ、最大でも七層とされていたのであるが、この者の話では、オマケの様に小さな箱の様な第八層が存在していたのだ。間違いないな」

 最後のは、蛍太郎への確認だった。

「はい。ルシオールのいた空間から登って、地上に出るまで八つの世界を超えてきました。それより下があるかどうかまではわかりませんが・・・・・・」

「であればだ、まずエギュシストラ。あれは第五階層の住人でしかない。その証左としては、体の大きさである。この者の言による第五層の魔物たちの大きさは、エギュシストラと同等か、それより少し大きいぐらいであろう。つまり、エギュシストラでさえ、その第五層では小物にすぎぬと言う事である。そして、第六層、第七層の化け物たちは、スケールがまるで違ってくるのである。昨夜、天空の亀裂よりのぞいた目。そして、砂漠に突き立った巨大な腕。あれはそういった次元の化け物ではなかったか」

 またも、確認のための視線を蛍太郎に送ってきた。ねっとりと陰気で、ルシオールの髪をみていたゲイルの目を思い起こさせる狂気をはらんだ視線だった。

「おそらく・・・第七層の化け物ではないでしょうか」

「地獄は下層へ行くほど強大な魔物が棲むという。そして本来であれば最下層に位置する第七階層の魔物を召還できたり、容易に殺戮したり、第七層の魔王をも寄せ付けない時空のトンネルを創造し得る圧倒的な力の持ち主、『魔王ルシオール』こそ、『魔王の中の魔王』と言えよう」

 アヴドゥルの発言に、全員の息が一瞬凍りついたような衝撃が走った。


 蛍太郎が受けた衝撃は、さらに大きかった。

 予感はあったが、他者から明言されると、足もとの地面が崩れ落ちたような気分になった。

 確かにルシオールは「魔王」であろう。そして、地獄での光景を思い描くと、どんな巨大な化け物たちが束になっても、歯牙にもかけないほどの力を秘めているルシオールは、「魔王の中の魔王」と言う呼称以外には思い浮かべられないだろう。

 蛍太郎はルシオールに目を向ける。蛍太郎の隣で行儀よく座った姿勢のまま、目を閉じて静かに寝息を立てている。

 こうして見ると、か弱い少女にしか見えない。

 しかし、どこか人形じみた、人とは異なる雰囲気も持っている。

 それでも、蛍太郎はルシオールを見るにつけ、「魔王」などと言う言葉が抜け落ち、溶けてしまうような気になってくる。

「だ、だとしても、ルシオールは悪人じゃない!まだ小さな子どもです!見た目だけじゃない。心はまるで生まれたての赤ん坊の様に純粋で素直です」

「ほほう。すると君は、性善説の信奉者かね?」

 あまり発言してこなかった、初老の魔導師がやや皮肉な笑みを口元に張り付けながら呟いた。

「だったとしても、その者はおそらく、地獄の化け物どもも手がつけられず、地獄の奥底に封印されていたのだろう。つまり、その力だけでこの世界全体にとっての大変な脅威なのだよ。危険極まりない存在は、存在している事自体が『悪』であると言い切れるだろう」

「間違えなければ・・・・・・僕が正しいことを教えれば・・・・・・」

「つまり、君にはこの者をコントロール出来るというのかね?」

 キエルアの口調は淡々としている。高校生の蛍太郎には、言葉のやり取りで何とか出来る相手ではない気がする。

 蛍太郎自身が自覚しているとおり、論理でも何でも無く、蛍太郎の感情論でしかない。だが、まるで、物や動物の様にルシオールの事を言われたくは無かった。

「そんな、コントロールだなんて・・・・・・」

 これも感情論だ。

「そもそも、君はこの者にとっての何だというのだね」

「・・・・・・」

 蛍太郎には答える事ができなかった。自分ではルシオールを守りたいという気持ちは、不思議なほど強く持っていたし、保護者の様な気分になっている。

 しかし、では、ルシオールにとっては何なのだろうか?

 「魔王ルシオール」にとっての自分はどんな存在なのだろうか?

 少なくとも、保護してもらう必要はないのではと思う。そう思うと、急に不安の影が心臓を鷲掴みしたように苦しくなった。


「議論も結構ですが、それならルシオール嬢にお目覚め願って、直接訊ねてみてはいかがでしょうか?」

 もっともな意見をジーンが述べた。

 一同が息をのむ。

 グラーダ王とキエルアは恐怖と警戒心から。アヴドゥルは好奇心から。

 そして、蛍太郎は結論が出るのではと言う事を恐れて。

 ジーンはジッと蛍太郎を見つめる。その表情は何の感情も浮かべていないようだったが、鋭い鷹の様な眼は、蛍太郎の心の葛藤の全てまでも見透かしているようで、有無を言わせない圧力の様なものを感じた。

 渋々蛍太郎は頷いた。


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