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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
33/183

第6話 地上 3

 その一瞬、地面が縦に弾んだ。耳を弄するほどの地鳴りと、下から突き上げる激しい揺れが蛍太郎を襲った。

 

 爆風が真後ろから蛍太郎を殴りつけ、蛍太郎は宙を飛んで地面に叩き付けられ、尚かつゴロゴロと転がされた。揺れは一瞬だったので、砂に顔から突っ込んだ蛍太郎は、素早く起き上がった。

 すると、上から大量の砂が一帯に降り注いできた。

 砂が容赦なく目に入り込んで、目を開けている事が辛かったが、それでもルシオールの姿を確認すると駆け寄った。


「大丈夫か?怪我は?」

 蛍太郎はよろよろしながらもルシオールの全身を確認する。

 まだ轟音と爆風の影響で、頭の中で鐘が盛大に鳴らされているかのようだった。

 そんな蛍太郎に比べると、ルシオールはよっぽど無傷だった。

 

 危な気なく、地面にすっくと立って、砂の雨にも目を細めずに上空を見つめていた。

 気付けば、蛍太郎はいつの間にか日陰に入っていた。

 辺りは薄暗くなっており、あの強烈な日射しは何かによって遮られていた。

 

 ようやく砂の雨が収まってきた。蛍太郎の目も、次々侵入してきた小さな砂粒のせいで涙に濡れていたが、次第にちゃんと見えるようになった。

 そこで恐る恐る化け物たちのいた方向を振り返った。

 


 すると、そこには何か巨大で果てしのない壁がそびえ立っていた。

 その壁は蛍太郎と二百メートルも離れていない所に高々と突き立っていた。

 何事かと視線を上に向けて行く。

 いつまでたっても壁の頂点が見えない。ほぼ真上を向いたとき、ようやく青空と壁の頂点が見えた。

 

 よく見ると、それは壁ではなく、直径が五百メートルにも及ぶかと言うほどの巨大な柱だった。

 高さにしても、東京タワーより数倍は高いのではと思われた。

 更によく見ると、その柱のてっぺん部分は、人の手の様な形だった。上腕部のみで、てのひらは大きく開かれており、その手によって太陽の光が遮られていたのだ。



 蛍太郎は、驚きはしたものの、これと同じようなものを見た経験があった。あの地獄の第七階層の化け物だった。そこの化け物たちのスケールは、ちょうどこのくらいの大きさだったのだ。


「うむ」

 蛍太郎の隣でルシオールが頷いた。すると、巨大な腕が、するすると地面に吸い込まれるように短くなっていく。

 てのひら部分が降りてくる。降りてくるにつれて、そのてのひらの形が、まるで粘土の様に軟らかく形を変えて、真円の円柱に変形していった。

 そして、円柱の上辺が見えるぐらいに地面に近付くと、まっ平らになった手の上に、五匹の化け物たちがいて、そのどれもが地面にピッタリ張り付けられて、逃れる事も出来ずにもがいているのが見えた。 


 それを見届けると、ルシオールが手を軽く振ったように見えた。

 同時に円柱上辺の端が持ち上がり、伸びあがりながら化け物たちを包み込むように閉じて行った。

 隙間なく化け物たちを包み込むと、ゆっくりとねじれあがっていく。中の化け物たちがじっくりと時間をかけて完全に潰されて搾り上げられる姿が想像できた。

 その最後は、相手が化け物であっても恐ろしく無残なものに思えた。正に蛍太郎が激しい憎悪の中で夢想した結末だった。

 円柱から円錐へと姿を変えた巨大な手は、そのままするすると地面に吸収されるかのように消えて行った。

 跡には何も残っていなかった。

 

 いや、一見残っていないかのように見えた。

 しかし、蛍太郎には想像も及ばない所で、この世界に取り返しのつかない傷をつけていたのだ。だが、それを蛍太郎が知るのは、これより遥かに先になるのである。




 蛍太郎が実感できる変化としては、大きな岩の連なりが全部吹き飛ばされた事により、その裏側に隠されていた、数キロ先に見える町の姿が発見できた事だ。


「ま、町がある!あんな近くに!」

 蛍太郎は、危うく町から遠ざかる方向へ歩き出そうとしていたことに気付いた。

 そして、不幸中の幸いに、すんでの所で町の存在を知る事が出来たのだ。

 あの町までなら、すぐにたどり着けるだろう。

「こんな所に長居は無用だ!行こう、ルシオール。歩けるかい?」

 ルシオールは無言でうなずいた。蛍太郎はルシオールの手を引くと、急ぎ足で町への道のりを急いだ。



 あの巨大な手を呼びだしたのは、そして、その手を操って、化け物を殺すようにしたのはルシオールなのではないか・・・・・・。

 そんな確信めいた疑念が、蛍太郎を槍で突き刺すかのように攻め立てたが、蛍太郎はそうした声に耳をふさぐように必死に抵抗していた。

 ルシオールには確かに不思議な力があるし、人間ではないだろう。しかし、まだ幼い少女ではないか。

 今は考えたくない。疑いたくない。この少女を守るのだと決めたはずだ。その思いだけに猛執していた。

 そしてただ、再び襲いかかってきた灼熱の太陽から逃れるように、歩きにくい砂の上をひたすら急いで進んで行った。

 


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